【BL】大切にしたいと思う人がいる。自分が手を差し伸べ、傷も欠けも繕う
《あらすじ》
保原《やすはら》透《とおる》は独り身で、田舎の山の中で陶芸と金継ぎの作家をしながら、事務員のアルバイトをして生活している。
32歳になる年の4月、叔父、勝呂《すぐろ》征樹《まさき》から、養子にした少年、架月《かづき》の高校の入学式に保護者として出席してほしいと頼まれ、承諾する。架月は以前、透の家に泊まりに来たことがあり、その際、透は夜中に架月からキスされたのではないかと疑っていた。
再会した架月は何かに怯え、体にあざがあった。透の叔母でもある義母から、架月が虐待されていたことを知った透は、架月を引き取り一緒に暮らすことを決める。5月になると、架月の体からあざはすっかり消え、架月自身も元気になっていた。
7月。透は、以前通っていた茶道教室でお茶席の手伝いを頼まれ、架月を連れて参加する。人目につかないところでふたりきりになったとき、透は架月に告白され、唇を重ねられた。透は架月の告白に明確な返事ができなかったが、それでも一緒にいたいという架月の意思を汲み、変わらずに暮らすことにする。
夏休み直前、架月は透の影響で茶道に関心を持ち、高校の茶道部に入部することに決めた。
夏休みになり、早々に学校の宿題を片づけた架月に、透は花火を見に連れて行ったり、一緒にパンを焼いたり、様々な体験をさせる。架月は自分の過去を話さず、何かと初めての体験が多かった。
8月。お盆期間に、透は架月を連れて勝呂の家を訪ねた。叔母は架月に酷いことをしたことを謝罪し、架月が許し、和解した。
9月。架月の高校の文化祭。架月は着物に袴姿で茶道部のお茶席に参加し、透の目の前でお点前を披露する。他にも客がいるのに、透は架月が自分ひとりのためにお点前をしてくれていると錯覚してしまった。袴姿の架月は学校中の話題となり、文化祭の来場者から大人気となった。架月と一緒に文化祭をまわりながら、架月がクラスメイトと打ち解けていることに安心した。
10月。架月の誕生日に、透は自分の作品のマグカップをプレゼントした。架月は想いが止まらず透に口づけし、透は架月を抱きしめる。このとき、透は自分の中に架月を恋い慕う感情があることに気づいた。後日、何かが引き金となって自分自身を傷つける言葉を発した架月に、透から口づけをしてしまう。架月に手を出してしまったショックから、「架月の面倒を見る資格は無い」と征樹に電話をし、翌日訪ねてきた征樹から、架月の親や架月自身の生い立ちを聞かされた。
12月。大茶会に招かれた透と架月は、着物を着て客としてお茶席を楽しむ。その帰り、デートみたいだったと架月は話す。透は同じことを思い、唇を重ねたくなったが、「本気で俺を落としにおいで」と架月を焚きつけた。架月への想いを伝えられない自分がずるいと思うが、一緒に過ごす時間を幸せだと感じる日が続くことを、透は願っていた。