第16話 委員長襲来①




 私立星宮高校は学年別に3クラスずつある、幸か不幸か健一と悟は高校に入ってから毎年同じクラスだ。因みに健一達のクラスは2年2組だ。


 ようやく健一達は自分達の教室に着いたが、何故か健一が教室のドアを開けないのが気になり、悟が話しかけた。


「………‥」

「どうかしたのか?もう教室の前なんだから、健一は入らないのか?」

「………俺は良いから、まずはお前が先に教室に入れ」

「?……分かった、健一の事だから何かあるんだろう」


 悟は健一がどうして教室に入らないのか分からなかったが特に意味は無いのだろうと考えたのか、それ以上追及はせずにそのまま教室のドアを開けると入っていった。


「皆、おはようー!!」


 悟が教室全体に聞こえるように挨拶をすると、さっきまで友人達と話し合っていた教室内にいた女子生徒達のほぼ全員が悟の声が聞こえた方向に身体ごと向けると──


『きゃーー!!七瀬君ですわ!おはようございますわ!!』


 と、黄色い歓声を上げて挨拶をした。


 その光景はさながら人気アイドルが一般の高校にいきなり姿を現せた時のようだった。悟に挨拶を返した女子生徒達は、我先にと話す為に悟を囲む様に集まり出した。


その騒ぎはいつもの事なので、分かっていた健一は悟を先に教室に入らせたのだ。


(やっぱり今日もか……よく飽きないなぁ……逆にここまで来ると感心すらしてくるわ、俺にはどうでも良いがな)


 健一はそんな事を考えながらも女子生徒達に囲まれている悟が助けて欲しそうに健一の方を見ていたが、自分ではお手上げだと言うように両手を上に上げると手のひらで「シッシッ!」とジェスチャーをして悟に注目をしている間に自分も教室に入る事にした。

 

 ──が、何故か教室に入った健一の方にも女子生徒達が見てきた。悟とは真逆の不快な物でも見る目だったが──


「………‥」


(こっちみんな!!)


 そう伝えてやりたかったが、声をかけてさっきの1年達の様に騒がられたらたまったもんじゃないので、無言で女子生徒と目を合わせる事なく、自分の机がある窓枠の1番後方へ歩いていった。それにぼっちでコミュ症気味な健一に、そんな度胸など持ち合わせてなどいない。


 私立星宮高校の教室の席順は10人ずつの1列が4列あり、学年問わず40人のクラスとなっている。男子5人、女子35人のアンバランスな構成だが、元々が女子しかいなかった女子校なのでしょうがない事だろう。


 それでも2年2組のクラスの席順は他のクラスとは異なっている。窓際とその隣の後方の席は男子4人で固まっている。


 その理由は──健一の魔の手から女子生徒達を守る為の先生方の配慮なのだ。


 今の健一ならもう女子達に手を出さないと決めているから安全かもしれないが今までの健一の生活態度があった為、出来るだけ女子生徒と触れ合う事が出来ないように男子生徒で健一を囲んでいる状態だ。


 何故か悟だけは廊下側から2列目の真ん中。つまり女子達に囲まれている状態となっているが……悟本人は自分も健一達と同じ場所が良いと思っている。



「………はよ〜」


 ようやく自分の机へと辿り着けた健一はやる気の無い声を出して既に来ていた男子達に挨拶をした。


「おはっー!」

「よっ!」


 健一のやる気の無い挨拶にも男子生徒達は顔を向けると返事を返してくれた……ぼっちは挨拶をしないと思うかもしれないが、何かの腐り縁なのか2年間ここにいる男子生徒達とは同じクラスメイトなのだ。


 なので多少の挨拶ぐらいは健一だとしてもやるのだ。そんな挨拶を返した健一は直ぐ様に机に着くと両腕を置きその上に頭を置き突っ伏した。──これは別にぼっち特有?の「」などでは無い。昨日、深夜2時まで動画生配信をしていたせいか本当に眠いのだ。


 だが、そんな中、健一に声をかけてくる男子生徒がいた。その人物は健一に今日、まだ挨拶を返していない男子生徒だった。


「はろはろ〜?グッモーニーン??」


 その男子生徒は健一の机まで歩いてくると、机に突っ伏している健一の肩に馴れ馴れしくも自分の肩を回しながら挨拶を返してきたのだ。


「………チッ、俺は眠いから静かにしろ。それに健ちゃん言うな………」


 そんな男子生徒をうざく感じたのか、顔も上げずに返事を返した。だが、健一がそんな態度を取っても何がそんなに面白いのか、尚もその男子生徒は健一の相手をしてくる。


「良いじゃん、良いじゃん!俺と健ちゃんの仲だろ?それに言ってしまえば俺達はマブダチだろ?」

「誰がマブダチだ、このハゲ丸!あまりふざけた事を言うと残り少ないその前髪を毟り取るぞ?」


 その男子生徒が面倒臭くなったのか、健一は顔を上げると悪口を言いながら、前髪を毟り取るジェスチャーをしながら男子生徒に伝えた。


「酷っ!?俺の名前はハゲ丸ではなく、は・な・ま・る──花丸悠太はなまるゆうただって何回も言ってるだろ!?……それより俺の髪そんなに薄いか?大丈夫だよな?」

「………ふっ」

「おい!!意味深な笑い方するなよ!?」


 ハゲ丸改めて、花丸は自分の前髪を触りながら健一にツッコミを入れた。──ツッコミを入れたが、そんな会話はいつもの事なのか花丸自身はそんなに怒ってはいなかった。


「分かった、分かった……花丸だな。オレ、オボエタ」

「………本当だろうなぁ──はぁ」


 そんな健一の態度にいつもの事かと思い、苦笑いでため息を吐く男は、花丸悠太という。


 高校1年生の頃からの付き合いだが、何故か知り合いでも無いのにやけに健一に絡んでくる花丸に当時の健一は困惑していたが今は軽口を叩けるぐらいに中は良い方だ。


 花丸は外見はイケメンな為、この高校でもモテているという。──が、健一から言わせれば「イケメンはイケメンでも残念イケメン」との事だ。だが、そんな彼も今は健一とよく話す仲だ。


「それより健ちゃん今日もやけに眠そうだな、また夜更かしでもしたのか?」

「だから、健ちゃんと言うなと……はぁ、もういい……昨日はちょっとあってな、眠いから少しぐらいは寝かせてくれ」


 毎回「健ちゃん、健ちゃん!」と言われて何度もその名前は辞めろと言っても辞めない花丸に面倒臭くなったのか、はたまた眠いからなのか健一はもうどうでもよくなった様で花丸に昨日ちょっと夜更かしをしてしまい、眠い状態だと話す事にした。


「そうか……本当に眠そうだもんな、邪魔して悪かった。ただもう時期ホームルームも始まるから、後で直ぐに起こすからな?」

「おう、頼むわ〜」


 直ぐ様机にまた突っ伏してしまった健一は、手のひらをひらひらして花丸に返事を返していた。


「まったく、健ちゃんはいつもこうだもんなぁ………」


 花丸は自分の友人に溜息を吐きながらそんな事を1人呟いていたが、その表情は言葉とは真逆で笑っていた。


 その後は10分程経ったら花丸が健一を無事起こした、その丁度直ぐに担任の先生が教室内に入って来て朝のホームルームが始まった。



 ◇閑話休題短時間でも意外と寝れる



「──という事で、朝のホームルームを終わりにする。が……おい、一番後ろで人の話を聞かずに空を見ている問題児の三丈、今日も問題を起こすなよ?」


 担任の先生の堂本どうもとが少しおちゃらけた感じに健一に伝えた。そんな堂本の言葉を聞いていたクラスメイトの女子達は「クスクス」と笑っていた。


「ふぁーい、気をつけまーす」


 言われた健一は健一で、担任の先生に向けて舐め腐った態度を取っていたが、堂本はやれやれとでも言いたげに困った生徒を見る顔を健一に向けていた。堂本と健一は悟達と一緒で、高校1年生からの付き合いだ、堂本も健一の事はこの1年間で良く理解しているので、それ以上は何も言わない事にしていた。


 補足だが堂本は女性教師だ。


 本名を、堂本彩音どうもとあやねという。


サバサバした性格からか今まで彼氏は出来たことが無いという……ここ私立星宮高校は生徒と一緒で、先生も厳選しているらしくほとんどの先生が女性教師だという。

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