第30話 鈍感男とツインテお嬢様②
健一は愛莉が自分を偽彼氏役にしようとしているのは分かっていた。なのでどうにかしてこの状況から逃げようとしていたが──流石の健一もあのヘタレな愛莉が自ら命令してくるとは思わなかった。
(──しくじった……悟とデートをする為の練習相手に俺を選んだという事は分かるが絶対面倒くさいぞ、これ。以前似た様な事を鈴に頼まれた事があるから出来ない事は無いが………)
健一は一年前に鈴から何度か偽デートを頼まれた事があった。
その時は悟を好きだと直接言ってきたからまだ楽だったが今回は話が違う。「悟の事を好きだ」と愛莉の口から直接は言われていない。そんな状態で偽彼氏なんていう面倒くさいものをやらなくてはいけないのだ。
やれない事は無いが面倒くさいのに変わりはないので──断る事にした。愛莉が悟を好きだと言うのは伏せる感じで。
「あぁー、そのな?ちょっと面倒くさそうだからやっぱり違う奴に当たってくれ、俺も暇じゃなくてな」
出来るだけ申し訳なさそうな雰囲気を出して断る事にした。そして決して嘘は付かない。面倒くさいのは本当で暇では無いのも本当なのだから。
それでも愛莉は健一からなんて返されるのか事前に分かっていた様で、返しの一手を決める事にした。
「ふーん?私が偽彼氏にしてあげるって言ってるのにまだ、断ろうとするんだ?」
「何でそんなに上から目線なんだよ、お前は」
いつもと違う愛莉の挑発的な態度が少し気になったが、嫌なものは嫌なので断固として断る態度を健一は取り続けた。
それを見た愛莉が一人不気味な笑みを作るとそのまま口を開く。
「でも、良いのかなぁ〜健一?私聞いたわよ?アンタの噂が途絶える事なく続いてる事を」
「ぐっ──でも、それと愛莉の偽彼氏になるって言うのの何が関係あるんだよ?」
健一の話を聞いた途端「待ってました」と言わんばかりに愛莉は口の端を吊り上げていた。
「関係アリアリよ、私はこう見えて1年生〜3年生まで結構この学校に知り合いがいるんだよね〜だからそんな私が一言健一の噂は全部嘘と言えば直ぐに収まると思うけど……どうする?それに私、こう見えて生徒会だしね〜」
「………‥」
──そんな愛莉の言葉を聞いた健一は無言になってしまう。愛莉はこう見えて生徒会の副会長をしている。
髪の毛が金髪だから生徒会は厳しいのでは?と思うかもしれないが、元々の地毛なので学校にも許可をもらっている。それに愛莉が自分で言った通り生徒会が無くても顔が広い愛莉にかかれば噂など直ぐに無くす事など造作もない。
「──どう?健一がどうしても私の偽彼氏になりたいと言うなら今すぐに言えば変な噂を全部無くしてあげるわよ?」
「………どうしてもはなりたく無いが──少し、考えさせてくれ………」
そう言うと健一は考えるように目を瞑ってしまった。それを見ていた愛莉は既に勝利を確信していた。
(考えるも何も、もう健一には私の偽彼氏になるしか道は無いのよ。案の定健一は何か勘違いしてるみたいだけど、それはいつものことだから見逃すわ、でも絶対に偽彼氏になってもらうわよ?)
健一が考えている中、愛莉は闘志を燃やしていた。
その頃の健一は──
(これで愛莉の偽彼氏になれば、俺の噂は無くなる……と思うし、悟の助けにもなれる………かもしれない。ここは俺が折れるか)
──と、内心で決めて愛莉の提案を飲む事にした。
「………はぁ、分かったよ。分かりましたよ。──愛莉の提案に乗る。だが噂が消えなかったら彼氏役は即刻無効だからな?」
「分かってるわよ、そこは私に任せなさい!それより健一は今日、今から私の彼氏だからね?」
何がそんなに嬉しいのか愛莉は満面な笑みで健一に伝えてきた。そんな愛莉の言葉に違和感を覚えた健一は今の愛莉の言葉を訂正する事にした。
「──偽の彼氏な。今の愛莉の言い方だと俺が愛莉の本当の彼氏みたいになるぞ?」
「そ、そんな事はどうでも良いのよ!──そういうとこは気付かなくて良いのよ」
そんな健一の言葉に愛莉は反論していた。
だが、何故か健一には愛莉の最後の言葉が聞こえ無かった為聞いてみる事にした。
「今、なんか最後に言ったか?」
「──そういう細かい事を聞くからモテないのよって言ったのよ」
「ほっとけ!!」
そんなこんなで愛莉の偽彼氏役になってしまった健一だった。
ただ聞いておきたい事があったので今のうちに聞いてしまう事にした。
「愛莉、偽彼氏役になるのは良いんだが、期間とかはどうするんだ?流石に決めとかないと不味くないか?」
「ん?何言ってるの?期間なんて彼が私の恋心に気付いて振り向いてくれるまでに決まってるでしょ?」
愛莉は健一から質問されると何を当然の事を聞いてくるの?とでも言いたげに健一に伝えてきた。
「マジ、かよ」
その話を聞いた健一はこれからの生活に少しゲンナリとしてしまった。
そんな健一を見て愛莉は励ましの言葉をかけてあげることにした。
「まぁ、安心なさい。アンタがしっかりと協力して彼に私達のラブラブっぷりを見せつければ早い段階で彼も私の気持ちに気付いてくれる可能性はあるから、アンタの頑張り次第ね」
「………結局俺が頑張るのかよ」
(──と、いうか、そんなのいっその事愛莉が直接悟に告白すれば良いんじゃね?断られるのが嫌とか言ってたけど、悟も簡単に断ったりしないだろ。アイツ優しいし)
内心でそんな事を考えた健一は一か八か聞いてみることにした。
「あのさ、俺が頑張るのは良いんだが、そもそも愛莉が直接……その、彼?に告白すれば良いんじゃね?それに普通の男子だったら愛莉の告白は断らんだろ」
「………‥」
健一はいい案だと思って伝えたつもりだったが、聞いた愛莉は無言で駄目な子でも見るような顔を健一に向けてきた。
その目を向けられた健一はたじろいでしまった。
「な、なんだよ?いい案じゃねぇか?」
尚も聞いてくる健一に愛莉はため息を吐くと何が駄目なのか分からない健一に教える事にした。
「これだから健一は……そんなの駄目に決まってるでしょ?さっきも言った通り断れたら嫌だというのもあるけど、1番の問題は彼が私の気持ちも気付かない"鈍感クソ野郎"だということよ!そんな鈍感野郎に自分から告白するのなんて絶対嫌よ!!」
「………いや、口悪いな。それにそれは愛莉の問題だろ?」
「うっさいわね、あんなに鈍感な奴を見てると口も悪くもなるわよ……私がどれだけ好き好きアピールをしてきたか………」
愛莉はそういうと健一がギリギリ聞こえない声でその「彼」の悪口なのかぶつぶつと喋りだしてしまった。
(お、おぅ……愛莉の周りに負のオーラ?の様なものが見えるぞ、この話は長引かせるのは良くなさそうだな、最悪俺が標的にされかねん)
この状況を不味いと思った健一はもうこの話は終わりにする為に愛莉の話を全て承諾する事にした、ハッキリ言ってしまうともう健一も色々と考えるのが面倒くさくなったのだ。
それにどうせ悟の為だからと思い告げる事にした。
「分かった、分かったよ愛莉。もう何も言い訳は言わないしちゃんと愛莉の手伝いをするからこの話はやめよう!」
その健一の声が聞こえたからか、悪口?をやめた愛莉は健一の顔を見てきた。
「………さっきまでウダウダ言ってた割には聞き分けが良いじゃない?……まぁ良いわ。彼に私達のラブラブを見せるのは3日後の月曜日からだからその時の昼休みに健一の教室に行くわ──逃げるんじゃないわよ?」
「──逃げねぇよ。一度逃げた事で痛い目を見てるからな……でも、彼氏役なんてやった事もねぇから愛莉に任せるからな?」
ついさっき風香の件で逃げて痛い目を見た事を思い出した健一は震えていた。
健一から彼氏役について言われた愛莉は「私に任せなさい!」と自分の胸を叩いた、その時に揺れた胸を見てしまった健一は以下同文。
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