第31話 鈍感男とツインテお嬢様③




「そこは、この私に任せなさい!恋愛のスペシャリスト事来栖愛莉さんの言う通りにすれば良いだけよ!!」


(──はっ!……お前も今まで付き合ったことねぇだろ、そんなお前が何を教えるんだよ!!──とは口が裂けても言えないがな!)


 そんな事を言えない健一は無難に返事を返す事にした。


「おぅ、愛莉に任せる」

「………あら?いつもの生意気な反応がないなんて珍しいわね?」


 健一の素直な反応に少し不思議そうにしていた愛莉だが、それ以上は特に何も言ってこなかった。


 その事にホッとする健一は──


「──じゃあ、話も纏まったから今日は解散か?」

「そうね……本当は今からでも彼氏・彼女らしく下校したかったけど、私は今から健一の噂を止めてくるからここで解散ね。じゃあ健一、月曜から彼氏役頼んだわよ?」


 愛莉はそういうと健一の返事を待つ事なくその場を自慢のツインテールとお胸様を揺らして颯爽と去っていってしまった。


 残された健一は──


「………行っちまったな。まぁ俺も帰るか、噂の件は愛莉に任せるしかねぇしな」


 健一はそういうと上履きを外履きに変えて自分は帰路に着く事にした。



 ◇閑話休題それはさておき



 ──健一と別れたその頃の愛莉はというと廊下を歩きながら一人何やら呟いていた。その顔はさっき健一とはしていた時の堂々とした顔ではなく──嬉しそうに満面な笑みだった。


「──やった、やったわよ私!健一と彼氏になれたわ!!偽彼氏だと言っても彼氏には違い無いわ。噂を止めてくるとか言ってあの場から逃げたけど──本当は恥ずかしくて逃げてしまったわ………」


 実はあの場から直ぐに愛莉が逃げた理由は別にあった。


 その理由は今、愛莉本人が呟いた通り恥ずかしかったからだ。健一と話している時は恥ずかしそうにしているそぶりを見せなかったが、内心では頭から煙でも出すかと思う程恥ずかしがっていた。でも、それでも健一に偽彼氏になってもらう約束を取り付けた愛莉は今ならなんでも出来るような気がしていた。


 ──そんな行動力があるなら早く告白してしまえと言いたいと思うが、それは言わぬが花とやらだ。


「でも、安心しては駄目よ。健一は超が付くほどの鈍感野郎よ。私は一番手というのもあってかなり有利な状況かもしれないけど、ここで焦ったら意味がないわ──その前に今やれる事を私はやるわ、まずは約束通り健一の噂の抹消が優先ね」


 愛莉はそう言うと、いかにもギャルが持ってそうなゴテゴテのデコレーションされているスマホを取り出すとある場所に電話を入れた。


「──あぁ、パパ?健一の事なんだけど──」


少し通話をして要件を伝えると直ぐに通話を終えた。


「──よし、これでほとんどの健一の噂はこの週末で消えるでしょ」


 今、愛莉が連絡した場所は自分の父だった。愛莉は自分のできる範囲の権力を使って健一の噂を抹消しようと思っているのだ。


 幸いな事に愛莉の両親も健一の事を知っている為、健一の噂をやめさせる様に学校側に愛莉の父が直接話すと軽く引き受けてくれたので安心だ。──ただ、愛莉自身も出来ることはある、それを月曜日までの約2日間で行おうとしている。


「後は生徒達に伝えて生徒達が変な噂を流さない様に注意喚起をしたら、そのうち治るでしょ。まずは生徒会室に行ってに聞いてみないとね」


 愛莉はそう言うとその足で生徒会室に行くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る