第29話 鈍感男とツインテお嬢様①
◆
幼馴染達が恋愛の事で話が付いた丁度同時期、健一はまだ校舎内を歩いていた。
健一自身は早く帰りたかったが、運悪く堂本先生に捕まってしまった。愛莉達から無事逃げることが出来た健一は、教室に置いてあるはずのバックを取って家に帰ろうとしていたが──そこで堂本先生と鉢合わせた。
健一が体調を悪そうにしていたから心配していたらしい、いつもはサバサバした人だがしっかりと生徒思いの先生なのだ。
健一自身も自分を探していた堂本先生には感謝の思いだが、体調が良くなったから──「帰ります」と伝えたのだが「なら、体調が良くなったなら少し話を聞いてくれ」と堂本先生に言われてしまった為早く帰れなくなってしまった。
堂本先生から「この頃の学校生活はどうだ?」と聞かれた為始めは無難に答えていたが、その後から雲域が怪しい雰囲気になってしまった。彼氏が出来ないや、どうやって彼氏を作ればいいのかなど健一に聞いてくるのだ、そんなもの彼女が一度も出来た事のない健一に答えられるわけがなく、以前ネットで見た事のある恋愛のテクなどを適当に話し、ようやく解放された。
「──ヤバかった、あの堂本先生の目は本当にヤバかった……あそこで切り上げられなかったら何時間拘束されていたか……最後には……考えるのはやめよう」
帰る間際に見せた堂本先生の目を思い出してしまい健一は身震いしてしまった。その目を見た健一はこう思った──「これは捕食者の目だと………」あのまま逃げていなかったらもしかしたら自分が狩られていたかもしれないと思うとゾッとしていた。
こんな時は早く帰るに超したことないと若干早歩きで下駄箱に向かっていった。ただ健一は下駄箱近くに到着はしたがそのまま近付いていいのか悩んでしまい、柱の影に隠れて一旦様子を見る事にした。
──その原因は何故か2年2組の下駄箱前で愛莉が自慢のお胸様を両手で抱えるようにして腕を組み、仁王立ちをしているからだ。
誰かを待っているようだが悟はあの場にいた為恐らく健一を待っているのだと思われる。
「──げっ……なんで下駄箱に愛莉がいるんだよ………」
さっき幼馴染をやめると言った手前。話し難いと思い、どうするか健一は考えてしまい動けなかった。
(──どうする?あんな事があったから顔合わせ辛いし……それに愛莉達先に帰ってるかと思っていたわ………)
頭を抱えてどうしたらいいか考えてしまった。──でも別に自分は特に怪しい事をやっている訳ではない為、ここは一か八か平静を装って下駄箱に行ってみる事にした。もしかしたら、本当にもしかしたら──自分を探しているわけじゃないのかもしれないから。
下駄箱に近付くと愛莉は健一が近付いて来てるのが分かったようだが、何故かその場であたふたとしたと思ったら、いつもの太々しい雰囲気に戻り健一に向き直った。
「──コホン、ヤッホ!偶然ね、健一!」
「──何処が偶然なんだよ……俺達のクラスの下駄箱にいてそれは無いだろ」
当然の事を健一は愛莉にツッコミを入れた。
が、あんな事があった後なのに愛莉がいつも通りの事に健一は安心していた。
「うっさいわね!そこは合わせなさいよ!」
「はいはい、ごめんなさいねぇ。気が利かなくて」
「その澄まし顔が、本当ムカつくー!!」
そんな昔と変わらない会話を2人はしていた。 愛莉は愛莉でムカつくと言っているが顔は嬉しそうに笑顔なので本心では無いのだろう。
「それで?何か俺に用があるんだろ?悟に聞くならさっき一緒にいたんだから聞くもんな」
「物分かりが良くて助かるわ。そうね、健一に相談というか、手伝って欲しい事があるのよ」
「ほーん?愛莉がねぇ……そんでその内容は?」
健一がそう聞くと愛莉は一度深呼吸をすると話だした。
「──私ね、気になる人というか……好きな人が前からいるの。好きなら付き合いば良いじゃないか──とか思うかもしれないけど。その人に好きって伝えるのは簡単だけど断られたら嫌だなぁ〜とか思っちゃうのよ、それに一番の難点は──彼が鈍感な事なの」
「──ほう?」
──悟の事だな※違います
完全に勘違いをしている健一だが、健一だからしょうがないだろう。
「だからね、そんな彼に振り向いてもらう為に、偽彼氏を作ってラブラブな所を見せてその彼に嫉妬してもらえないかなぁーと思ってるのよ?あわよくば彼がその勢いで私に告白をしてこないかなぁ〜と、思うのよ?」
「そうか」
──お前のそのダイナマイトボディで悟に迫れば告白なんて直ぐにOKをもらえると思うがな……俺は
そう思いながらも愛莉の胸をガン見している健一だった。
そんな健一の視線に気付いたのか愛莉は気付いているようだが、健一の反応を楽しんでいるのかわざと腕を組み胸を強調させていた。
──っ!!この、淫魔め!
そう思いながらも目を逸らすどころか余計に愛莉の胸を見続ける健一。
男なんて所詮そんなもの。穴があれば入りたいと同じ様に、胸があればガン見したいと思うのと同様だ。
そんな馬鹿な事を健一が考えていたら愛莉が胸の強調を辞め、真剣な顔になったので健一もこれから何を言われるのか分からなかったため、身構えた。
「──それでね、その偽彼氏役なんだけど〜誰か暇な知り合いでもいたら手伝って貰おうと思ってたんだけど、誰かいないかなぁ〜?」
そんな事を言いながら暇という言葉を言う時に強調しながら健一の方をチラ、チラと見て来ていた。
「………‥」
(──わっっかりやす!!単純に俺にその面倒くさい偽彼氏というものになれと言いたいんだろ……絶対にやりたく無いがな!)
健一は無言になりながらも断固拒否と考えていたので、何も知らないフリをする事にした。
「うーん?愛莉が頼めばその辺の誰かがその彼氏役?になってくれんじゃね?お前結構人気みたいだし」
「──っ!!……このっ!………」
健一がわざと知らないフリをしているのを気付いた愛莉は健一の態度に少しイラッとした様な顔付きになったが、健一に目くじらを立ててもしょうがないと思ったのか直ぐに冷静になり、いつも通りの受け答えをした。
「………まぁ?私ぐらいのレベルになれば数多の男子がこぞって彼氏役に立候補したがると思うけど……それはそれで嫌なのよ」
「………何でだ?」
「だってもしかしたら偽彼氏になった途端その相手が勘違いして本当に私の事を彼女だと思い込んで振る舞って──無理矢理迫って来たら嫌じゃ無い?」
本当にそうなるのが嫌なのか自分の身体を両手で抱くと身震いしていた。
「でも、もしかしたら、だろ?本当にそうなるかは分からないんだから一度試してみたらどうだ?それにそんな簡単に勘違いなんてしないだろ?──漫画やアニメじゃあるまいし」
そんな事を言われた愛莉は、健一の他人行儀な態度が気に食わなかったのか尚も食い下がった。
「健一の言う通り試すのも良いかもしれないけど、それよりももっと合理的な方法が、手っ取り早い方法があるのよ………」
「………へー、そんな方々があるのか?」
健一は愛莉のその言葉に本当に何かあるのかと思って聞いてしまった。
──それが愛莉の誘導尋問だとは知らずに。
(ふふっ!健一もこれには食いついたわね?どうせ私自ら彼氏役になれ!とか言われないと思ってるんでしょ?──甘いわ!そんな考え甘過ぎるわよ、健一!!)
愛莉は勝ちを確定したかの様に内心ほくそ笑んでいた。
「あるわよ?……人畜無害で勘違いをしなさそうな男が目の前にいるじゃない?──そう……健一が私の偽彼氏になるのよ?」
「なっ!?」
その言葉を聞いた健一は瞬時に気付いた。自分が嵌められた事に。でも今更気付いたところでもう遅かった。遠回しに言うのはやめる事にした愛莉は畳み掛けるのだった。
「健一なら……やってくれるわよねぇ?勘違いをしない──健・一さん?」
だが、それでも健一は抵抗をした。
「い、いや、だとしてもだ!俺は一度も彼女が出来た事が無いからやめた方が良いぞ!そうだ!花丸なんてどうだ?」
尚も言い訳を並べて自分の友人を犠牲にしようとしている卑しい健一の姿を見た愛莉は、ついに我慢の限界がきたのか命令口調で伝える。
「あぁーもう、つべこべ言わずにアンタは私の偽彼氏になりなさい!こんな美人な女性が偽でも彼女になるんだから光栄に思いなさい!!」
左手を腰に付けて右手を健一に向け、人差し指をビシッと向けると愛莉は健一に自信満々にそう言い放った。
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