第36話 星宮水族館(レイナサイド)②



 

 その頃のレイナは──



「──ふぅ、三丈様とお嬢様は無事合流する事が出来たみたいですね。それに2人の口先を見ていましたが三丈様はしっかりと鈴様の服装を褒めていたのが口の動きで分かりましたので今回は、及第点をあげましょう」


 そんな事を健一と鈴から5メートル程離れたビルの影になっている場所にいるレイナは1人呟いていた。


 口の動きだけで健一が何を言っているか分かると言っていたが、レイナ程の超人になればそんな事は些細な事だ。


 ただ、レイナの服装が駄目だった。健一達を尾行するつもりで変装をしてきてる様だが、黒色のコートにサングラスという成り立ちで怪しかった為、通行人達に現在進行形で怪しい目で見られていた。


 中には──「あの人怪しく無い?警察に電話した方が良いんじゃ………」と言っている人がいたり、他にもチラホラとレイナを不審がる声が聞こえる為、その事に気付いたレイナは瞬時にその場から離れることにした。勿論、健一達の尾行を続けながら。


 何故か服装は怪しい格好のままで変えるつもりはない様なのか、そのまま健一と鈴のデー──遊びを尾行していた。


 人々の視線が届かない位置に着くとレイナは人心地つく事にした。その時にしっかりと健一達が自分から見える範囲にいるか確認する事も怠らない。


「──危ないですね。一般ピーポーに警察を呼ばれる所でした。まぁ、呼ばれても説明をすれば何も問題は無いと思いますがそれで2人を見失ったら本末転倒ですからね……それにしてもお二人は楽しそうですね、あんなに顔を近づけて……あれではキスが出来て──はっ!………どうしてこんな事を考えているのかしら、私は?」


 遠くから健一と鈴の仲睦まじい光景を見ていたレイナは気付いたら変な事を考えてしまい、口に出してしまった。


「この頃おかしいです。気付いたら三丈様の事ばかり考えてしまい、挙句には……あんな三丈様そっくりな人形なんて作ってしまいました。誰にも見られていないと思いますが万が一にもお嬢様に見られでもしたら………」


 レイナは鈴に見られた時のことを考えてしまい震えていたがもう既に遅い。鈴にバッチリと見られた後でしっかりとレイナは鈴に恋のライバルとして敵対視されているのだから。それを知らないレイナはまだ大丈夫だと安心していた。


 そんな事よりこの頃の鈴の不可解な行動をレイナは疑問に思っていた。


「………仕事に支障はありませんがお嬢様に少し敵対されている様な目をこの頃向けられますし……今回もそうです。お嬢様に遠くから尾行してなど言われてしまいました。──はぁ、それもこれも全部三丈様のせいですね。あの方とあってから私は少しおかしいのですから………」


 レイナはなんともまぁ理不尽な事を言っている。これを健一が聞いたら「俺、関係ないだろ!?」とツッコミを入れるかもしれないが、レイナが今言った事はあながち間違いではない。ただその気持ちにレイナが気付くかはまた別の問題だが。


 レイナ自身はそのおかしい感情がとまだ気付いていないが、昨日、主人である鈴に変な事を言われてから感情がおかしいのだ。


「………昨日もお嬢様は何故か私が三丈様と仲が良いと言っていましたし。まぁ、仲は悪くないと思いますが、それ以上の感情など………これは私の考えすぎだと思いますが、もしかして私は三丈様の事が好き──だったり?──いえ、無いです。それは絶対ありえませんね!」


 一瞬変な事を考えてしまったレイナだったが直ぐに健一など好きになってなどいないと否定していた。だが、何故か高鳴る鼓動。火照る顔が気になり両手で仰いだり、深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。


「──あんなひ弱で軟弱な男など誰が好きになりますか……まぁ?話も合いますし、お嬢様を命懸けで救ったのは評価しますが……それでもありえません。ましてはお嬢様の意中の相手なのですから、以ての外です。もし私が本当に三丈様を好きだとしてもこの気持ちは表に出しては、いけません………」


 レイナは健一の事など好きでは無いと否定しているが身体は正直なのか、と思っている。それでも鈴の想い人だと知っているので、そんな気持ちを持ってはいけないとそれ以上レイナは考えない様にした。


 でも、こんな変な気持ちになってしまったレイナはこのムカムカやイライラをぶつける為にこの遊びデートが終わったら絶対に健一にこのモヤモヤした気持ちをぶつける事にした。


「ふ、ふふっ……ふふふふ………三丈様には悪いですがこれが終わったら私の相手サンドバッグになってもらいましょう。そう思うと少し気持ちが晴れた様な気がしますね……やっぱり三丈様が原因ですか。そうですか!そうですか!!」


 レイナはそんな風に簡潔に自分がおかしい事が健一のせいだと決め付けると、見えづらくなっている健一達に向けて意気揚々にかけていくのだった。


 大きな声をあげ、いきなり走り出したそのレイナの光景は見る人によっては完全に不審者にしか見えなかった。でも、それでもレイナの顔は何故か──晴々としていた。

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