第37話 星宮水族館③
◆
レイナが全部健一が悪いと決め付けていた時、2人は既に星宮水族館の館内に入る所だった。
「へくしゅんっ!」
「ん!?」
入る所だったが、健一が受付を済ませて、さあ館内に入ろうかと思った矢先、いきなり健一が大きなクシャミをした。
その事に鈴は驚いていたが直ぐに心配した顔を健一に向けていた。
「健一、風邪気味?体調悪いなら、やめとく?」
「いや、問題ない。ただクシャミをしただけだからな、驚かせて済まなかった」
そう言いながら健一は持っていたポケットテッシュを出すと鼻を擤んでいた。
「ん、なら良い」
健一の言葉に鈴は安心していた。そんな鈴におちゃらけた様に健一はある事を口にする。
「もしかしたらレイナさんが俺達の事を何か話していたりしてな?1人だけ仲間外れだから〜とかさ?」
「ん、それはありえる……でも女の子と2人で遊んでいる時に他の女性の名前を出すのは、減点」
健一の言葉に鈴は同意をしていたが、他の女性の名前を出されたのが気に食わなかったのか健一にパンチを入れていた。──そのパンチは力が入っていなかったので全く痛くは無いが。
健一も鈴がふざけてパンチをしてきてるのが分かったのか笑いながら鈴の相手をしていた。ただ周りでその光景を見せられている客は──「はよ水族館の中に入れや、このバカップルが!」と内心思いながらも砂糖を一袋食べた後の様な顔をして健一達を見ていた。
そんな周りの状況に気付かない健一は。
「悪かったって。でもそれってデートの時だけじゃね?今の俺らに当てはまらないのでは………?」
「………関係ない。デートだろうと遊びだろうと他の女性の名前を出すのはマナー違反。これ、試験に出る」
「………まぁ、覚えとくわ」
鈴の言葉に適当な相槌を打つと健一は鈴と一緒に漸く水族館内に入った。水族館の中に入ってまず健一が思った事は──人の量が多いという事だ。
勿論、土曜日という事もあり家族連れだったり、友人同士だったり──カップルだったりがいるから人が多いのは当たり前なのだ。
それも今の時期は、ここ星宮水族館の人気のペンギンショーが見える。それに加えてなんと……ペンギンの赤ちゃんとの触れ合いも出来ると言うのだ。なので人の量が例年よりも多くなっていた。その事を知らない非リア代表の健一は「うえっ!人の量に吐きそう…‥家に帰りたい」と呟くと既に帰りたいオーラを出していた。
その逆に鈴は目を輝かせると「ふおぉぉ!!」と声を上げていつもの無表情をキラキラの笑顔に変えていた。
そんな鈴の表情を見た健一は──
(──まぁ、鈴も早速楽しんでいるみたいだから良いか。この際オレも楽しむとするか〜)
そう、内心で思うと隣の鈴に声をかける。
「よっしゃ、鈴!今日でこの水族館を制覇するぞ!」
「ん!健一は分かっている!でも、制覇も大事だけど楽しむのも、大事」
「だな、よし!楽しみながら行くか!」
「うん!」
健一と鈴はそう言うと近くに置いてあったパンフレットを見ながらあーでもない、こーでもないと話しながらも水族館を散策した。
初めは乗り気では無かった健一も気付いたら自分も楽しくなり鈴と水族館をエンジョイしていた。ただ、水族館内を見ている時に少し危うい時はあった。生き物を見るのは良いのだが、ある生き物を見た時に鈴からある事を聞かれた健一は言葉に詰まり、動揺を隠せずにたじろいでしまった。
それは──「チンアナゴ」がいるエリアを見た時の出来事だった。初めは鈴は始めて見るチンアナゴに珍しいのか夢中で見ていた。だが、健一達の近くでチンアナゴを見ていた家族の男の子がある事を父親に聞いたのだ。
──「お父さん、何でこのお魚は「ちんちん」みたいな形をしているの?」──と。
その質問にお父さんはなんて答えたら良いか困惑をしていたが、健一の方が助けて欲しかった。何故なら──「健一、「ちんちん」って何?」と無垢な表情で鈴に聞かれたのだから。
その事に同様した健一はその事実を伏せて何かを話さなくてはと思ったのか、その場で目を瞑ると起死回生の為に脳をフル回転させた。そこで行き着いた答えは──嘘を付く事だった。
なので「あぁ、「ちんちん」?それは「珍珍」って事だな!珍しい魚って事だよ?」と嘯いた。その事に「ん、そう」と鈴は呟きそれ以上は何も聞いてくる事はなく、出てきたり隠れたりする「チンアナゴ」の様子を鈴は興味深そうに真剣に観察していた。
その事に健一は心底安堵していた。
もし、鈴に事実を伝えるものなら雰囲気も悪くなるし、何処かで見ているはずのレイナ──ハンターに折檻を喰らうのは目に見えてるからだ。そんな少しの危機がありながらも二人は他のエリアも散策していた。
探索をし始めてから訪れた場所が、海エリアだ。
目前に広がる程の大きい水槽の中がトンネルの様になっていて、そのトンネルを通ると自分達も海の中に入っている様な雰囲気を味合わせてくれる場所だった。そのトンネルの中から見えるのは、様々な海の生き物達だ。そんな海の生き物達が本物の水中の中にいる様に見る人々を魅了してくれた
そんな中、健一が探索をしていて一番に目に入ったのが──イワシの群れだった。勿論、他の魚などもいるが、どうしてか健一にはイワシが気になってしまった。
「はぇー、イワシって本当にこんなに群れるんだなぁーー。テレビでは見た事があるけど生で見ると、なんか、こう凄えってなるな」
頭が良いがあまり語彙力がない健一は今、まさに水槽の中で群れで動いているイワシを見ていた。そんな子供の様な健一の姿を見た鈴はクスッと笑っていた。
「ふふっ、健一子供みたい。いいこ、いいこしてあげようか?」
「いらんはそんなもの!」
そんな事を二人は話してた。
周りから見たら完全にカップルに見えるが二人はカップルではない。そんな事を知らない人々は健一達の会話を微笑ましそうに聞いていた。そんな中、イワシのエリアを離れるという時に健一がある事を呟く。
「………なんかさぁ、水族館来て魚を見ていると、華麗とか可愛いとかカッコいいとかを思う前に──お腹が空くんだけど。これって俺だけ?」
「…………」
何気なく健一はそう呟く。隣の鈴は何も喋らず無言だったが、隣から「くぅ〜」という可愛らしい……お腹が鳴る様な音が聞こえてきた。隣にいるのは鈴な訳で、健一がそちらを見てみたら──
「──ッ!!」
何かを我慢しているのか、恥ずかしいのかお腹を左手で押さえながら顔を真っ赤にしていた。その状況を見て健一は──
「なんだ、鈴もお腹空いたのか?」
「…………」
──と、デリカシーの欠片も持たない健一は鈴にそう聞く。聞かれた鈴は尚更顔を真っ赤にしてしまい、下を向いてしまった。
その光景を見ていた周りの人達は「あーあー」とでも言いたそうな顔で健一を見ている。
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