第38話 星宮水族館④



 何も返答をせず無言で下を向いてしまった鈴をおかしいと思った健一はどうしたのか聞いてみようとした。


 だが──背後から凄まじい殺気の様な物が健一目掛けて放たれた。鈴の様子を見たかった健一だがそちらが気になってしまったので、恐る恐る見ると──


 5メートル程離れた柱の影で誰かがこちらを殺気立った目で見ている事が分かった。それと共に背後を振り向いた事で周りの自分達……というか健一を見る目が残念そうな人物を見る目線を向けられている事に気付く。


 そこでようやく気付く。


(──これ、もしかして俺……またやらかした?)


 そう考えた健一は直ぐ様に鈴の方に身体全体を向けると頭を下げながら鈴に弁明の言葉を告げる。


「鈴ごめん!その、違くてだな!お腹が空いているのは俺であって、お腹も鳴ったのも鈴じゃなくて、俺であってだな」

 

 と、支離滅裂な言葉を投げかけていた。ただ、そんな健一の態度がおかしかったのか先程まで真っ赤にしていた顔を徐々に元に戻しながら顔を上げて笑った。


「ふふっ。健一、何言ってるのか分からない。でも、ありがと。少し、落ち着いた」

「お、おう。なら良かったわ」


 そんな鈴を見て健一は安堵をする前に戦々恐々していた。


(──危っね!多分何も知らずにあのまま鈴に伝えていたら……さっき俺に殺気?の様な物を向けてきた人物にやられていたのだろう。誰が殺気を向けてきたかは大体は予想は付くけど………無駄な事を話すのはやめよう)


 そんな事を考えながらもあまり余計な事は口に出さない事を誓った。


 ただ、安心した健一に駄目出しをする。


「………健一、もう済んだ事だからあまり言いたくないけど、女性に対してデリカシーのない事は言っては駄目。人によっては不快に思ったり落ち込んだりするから、要注意」

「うっ………本当に、悪かった」


 本当に悪かったと思っているのか鈴に向けて頭を再度下げる健一。


 ただ、そんな健一に………


「ん。いいこ、いいこ。悪いと思った事に言い訳をせずに謝れるのはとても、いい事。健一はそれがしっかりと出来ているからえらい、えらい」


 そう言いながらも赤子の頭を撫でる様に自分の手が届く位置に来た健一の頭を慈しみそうに撫でていた。撫でられている本人は溜まったもんじゃなくて、顔を赤らめるとそんな鈴の手をやんわりと退けると抗議をしていた。


「や、やめろよ!ガキじゃあるまいし頭を撫でるなよ。それに、こんな人前じゃ恥ずかしいだろ!!」


 健一にそう言われてしまった鈴は名残惜しそうにしながらも健一への頭の撫で撫でをやめた。


「………む、それもそう。でも、人前じゃないならいい、の?」


 だが、何を勘違いしたのかコテンと頭を右に曲げると何か期待の眼差しの様な物を向けながらそんな事を聞いてきた。だが、健一が言いたかった事はそう言う訳ではなく………


「違う!さっきのは言葉の綾であってだな。俺が言いたいのは人の頭を撫でるなと言う事だよ!」

「むぅ、我儘な健一」

「誰が我儘だ!」


 普段通りの二人に戻ったのかそんな会話を周りで見ている人など知らんと言う様におっ始めた。


 ただ、さっきまで二人の会話を聞いていた人々にしては「はよ、何処か回れや!そしてどうかお幸せに!」とでも言いたそうな微妙な視線を向け続けていた。


 でも、そんな視線に自分達の世界を作っている二人は気付かない。


 次のエリアへと話しながら歩いていく。


・ 


 イワシエリア、海エリアを出た健一と鈴の二人は、川エリア、熱帯魚エリア、水中生物エリア……etc...と色々と楽しみながら見ていった。


 そんな時、健一が隣にいる鈴にこの後の予定を話す為に一旦歩くのをやめた。そんな健一の行動が気になったのか鈴は健一の顔を見る。


「鈴、時間もお昼近いし何か食べにいくか?」

「………ん、そう。もうそんな時間。楽しい時間は過ぎるのが早い」

「だな、それで?何処か食べにいくか?」


 時間が過ぎるのが早いからか少し、残念そうな表情を作っている鈴に再度、健一はそう聞く。


 聞かれた鈴は元の表情、無表情に戻すと健一に返事を返す。


「お腹も空いているからお昼食べる。今からパンフレット見て何処が良いか、決める?」


 鈴にそう聞かれた健一は首を振る。


 健一は何か案があるのかは分からないが鈴は健一の意見を聞いてみるためか口を噤む。


 そんな鈴の意図を理解したからか健一はある事を告げる。


「いや、なに。鈴と色々な所を回っていた時に少しパンフレットを見る機会があったから見たら、良い飲食店があってさ?」

「………むふぅ、そこはなんのお店?」


 期待を込められた目で見られて鈴にそう聞かれた健一はニヤリと笑う。


「そこは、なんと……鈴の好きなイタリアンな店だ!スパゲティや海鮮パエリアなんてのもあったぞ?」

「ん、そこで決まり。そこしかない」


 健一の口から出たスパゲティの名前を聞くと即答で応答した。


 その事に「はははっ、本当イタリアン好きだな」と健一は苦笑いをしていた。お昼を食べる場所が決まったので、その足で早目に向かう事にした。


 今は11時20分とお昼には少し早い時間帯なのかもしれないが、そのうち時間が経つと人が集まり並ばなくてはお店の中に入れなくなってしまうのを持ち越してか、鈴に配慮してか健一は提案をした。


 女性にモテない健一だが、そういうマメな所は配慮をする健一だ。その事が原因で健一が知らぬ間に健一の事を好きになっている隠れファン達がいるのは今はまだ、知らない。


・ 


「………三丈様にしては少し女性の扱い方が上手くなっていますね。まぁ、だとしてもまだ粗が目立ちますが。今度、調………教えないといけないですね、手取り、足取りと」


 ただ、一人健一達の動向を観察していた人物はそういうと妖艶な笑みを作っていた。


「今度、会えるのが楽しみですよ。今日はこのまま会えるかは分かりませんが………」


 ただ、そう呟くとその人物は何故かモヤモヤとした感情を覚えたのか難しい表情のまま健一達の後を追いかけて行く。









 

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