第21話 エピローグ



「ん、だから味は保証する、健一も焦らさないで早くから揚げ、プリーズ?」


 双葉はそう言うと両手を出して「そのから揚げをくれくれ」とでも言うように健一に伝えて来た。


 そんな双葉に苦笑いを健一は浮かべていた。


「分かった、分かった。ただ、俺の箸のまんまで良いのか?」

「気にしない」

「そか……じゃあ、食べな」


 そこは「あーん」だろと双葉は言いたかったが、今は健一に食べさせてもらうだけでも嬉しいので、それはまた今度の機会にと思うことにした。健一が差し出してくるから揚げを「パクッ」と小さな口で食べる。


「………ん!!──!!?」


 双葉はから揚げを食べた瞬間声が出せなかった。──別に不味いから声が出せなかった訳では無い、その逆で天に昇るほどに美味しかったから、声が出なかったのだ。


 これは比喩的な表現では無い。本当に今まで食べて来た物の中で1番美味しかったと思えた。なのでそんな美味しい物を食べて蕩け切っている顔など健一に見せられないと思い、から揚げを食べた瞬間に自分の顔を手で覆ったのだ。


 ──だが、それを違う解釈をした健一は。


「双葉!?大丈夫か!顔を覆うほどに口に合わなかったのか!ほらぺって出して良いからな?」


 勘違いしている健一は双葉の身を案じてかそう伝えて来たが、双葉は今出来る精一杯の抵抗をした。顔を両手で覆いながらも首を横におもいっきり──首が取れるんじゃ無いかというほどに振った。


 その光景を見た健一はそんな双葉に少し恐怖を抱いたが──「大丈夫ならいいか」と思い、双葉が落ち着くのを待った。


 それから5分間双葉は悶えていたが、ようやくいつも通り?の双葉に戻ったので健一に自分のオカズをあげる前にお礼を言う事にした。


「健一……さっきのから揚げ。今まで食べて来た中で1番美味しかった。また、交換しようね?」

「──っ!お、おう。それは良かった、あんな物で良ければ今度もやるよ」


 平静を装って健一は双葉にはそう伝えたが、上目遣いでお礼を言ってくる双葉の笑顔に少しドキッ!としてしまったのは内緒だ。


 まぁ、悟られていないだろう。


 その後は約束通り双葉も健一にオカズをあげた。


「はい、健一、コレあげる」

「おう……と、美味いな!冷凍物とはまた別格だな!」


 双葉ので健一に食べさせてあげたと言うのに何も反応を示さない健一に少し──ヤキモキを双葉はしていた。


 でも双葉には今日の楽しみが出来た。だって健一の口の中に入ったこのお箸をどうするかを決めるのが双葉にはとても楽しい事だから。──別に双葉は変態では無い。これは愛あっての所行だから皆は目を瞑ってあげて欲しい。


 昼休みの時間も終わりに近付いていたので2人は早めに弁当を食べると5限目の授業の為、別れる事にした。


「双葉、今日はオカズ分けてくれてありがとうな!やっぱり一人で食べるより他に人がいた方が食べやすいな!また今度一緒に食べような?」

「ん……分かった。それと私も今日は楽しかった、でも一つだけ健一は忘れている事がある」

「──忘れている事?」


 健一は本当に分からないのか、その場で手を顎に当てると考える仕草をし、考え込んでしまった。


 その様子を見た双葉は時間の無駄だと思ったのか、自分が教える事にした。


「………前、今度2人で遊ぶと言った。それを忘れていた健一には──ペナルティ」

「忘れていた……ごめん双葉!これは俺が悪い!!」


 健一は本当に自分が悪いと思ってるようで頭を下げて双葉に謝って来た。だが、その様子を見ていた双葉は──ほくそ笑んでいた。


「まあ、健一もしっかりと反省してるみたいだからペナルティは簡単なものにする」

「結局あるのね……まあいい、ドンとこいや!」

「ん……健一はこれから私の名前を下の名前で呼ぶ事」

「………それだけ?」


 ペナルティという程だからもっと簡単でも健一が困る事だと思っていたから拍子抜けしてしまった。


「ん、それだけ。健一は他のが良かった?」

「いや、それが良いです!」


 双葉はそう言いながらも悪い笑みを浮かべながら聞いて来た。なのですぐ様に健一はこの話を終わりにしようと思い、これ以上余計な事を言わないように努めた。


「ん、じゃあ、早速私の名前呼んでみて?」

「………いきなりは、ハードルが高いと言いますか、なんと言いますか………」

「………未央は名前で呼べるのに私は駄目なんだ……へー?……ふーん?」


 そう言いながらも冷たい視線を向けてくる双葉に耐えられなくなったのか健一がヤケクソ気味に口を開いた。


「未央ちゃんは悟の妹であってだな、昔から付き合いがあるからであって。──あぁ、もう分かったよ!言えば良いんだろ、言えば!──その、鈴?」

「………聞こえない〜」

「くそったれ!………鈴!!」

「ん、よく言えました。これからもよろしくね……健一?」


 双葉、改めて、鈴の言葉に健一は疲れ果てた表情を浮かべながらも伝えた。


「あぁ、こちらこそよろしくな……鈴」


 2人はそういうと、どちらともなく笑顔を浮かべ職員室から出てそれぞれの教室へと向かった。 だが、その別れる途中に鈴が健一に振り返ると──


「………健一……必ず私の恋人にするから、待ってて」


──と、言った。


 鈴が何かを呟いたのが聞こえたのか健一は後ろを振り向くと。


「なんか言ったかーー?」


 と、伝えて来た。


 そんな健一に鈴は首を振ると想いは今は伝えないと言う様に違う言葉を送る事にした。


「………何でもない……また今度って言った」

「そうか……じゃあ、また今度な〜」


 そんな事を言いながら、鈴とは違う方向に歩きながらも手を振ってくる健一を愛おしい物でも見るように鈴は自分もちょこんと手をふりふりしながら見続けていた。


 ──今回は計画通りに事が進んだ。本当はレイナも健一と会おうとしていたが、健一と2人っきりでお昼ご飯を食べれると思っていたので、レイナに無理難題強制命令を押し付けて健一と合わせないようにした。


それのおかげか成功して名前呼びで呼び合うまでの進展が出来た。──でもこれじゃあ他の人と同じ土俵にすらまだ立てていない。


 鈴は知っている、健一の事を狙っている女子達を。相手は美少女だったり幼馴染だったりするからそんな簡単に勝てないと鈴は思っている。でも、それでもこの恋心を諦めたくない、たとえ相手を蹴落としても、それに鈴には確かめたいこともある。


 1年前の不良に絡まれた時、健一に言われた言葉、それに健一をあの時初めて抱きしめた時に感じたのだ。


 この懐かしい感じを私は知っていると、でも健一と一緒でそれが何なのか分からなかった、だからそれが何なのか知りたい、それを知らなくちゃいけないと誰かが言ってくる様な気がするのだ。


 ──世は海○時代……ではないが、恋愛時代。男女が好きあい、ラブラブする時代。


 そんな中、自分の好きな人を好きはなる人も存在する訳で──そんなライバルに勝ち恋人栄光を勝ち取とろうと躍起になっている人々が沢山いた。その中には勿論、鈴達もいた。



 ◇閑話休題恋愛時代とは?



 春、それは寒い冬から気温が上がり始め日中は暖かくなる時期であり、秋と並んで一年の中では最も気候の良い穏やかな季節とも言われる。


 暖かくなる事で生物も動き始め、温度が上がり、日差しが強くなる、そのおかげで植物の活動が始まる時期でもある。

 

 春に咲く植物の中で最も印象深いものが桜だ、日本においては特に桜の開花が文化と密接な関わりを持ち、桜の開花宣言が地域ごとに出され、それをとも言う。


 桜舞い散る季節の4月は卒業式や入学・入社式などがあり、一般的にはの季節とも言われている。そんな出会いの季節では学生、社会人と関係なく彼氏・彼女を作ろうとする人々が増え、雰囲気に乗せられカップルの成立が高いと言われている。


 ただし、健一から言わせると──


「──はっ!カップルが出来る?あれは嘘だ。ただその場の雰囲気で彼氏・彼女になっているだけだ。だから言おう……恋愛なんて、恋なんて──クソ食らえだと」


 恋に敗れ、恋を諦めた男はそう呟くのだった。


 この鈍感男が今後しっかりと恋愛が出来るのか、波乱を呼ぶ学園生活は今、動き出す始まる

 



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