第20話 無口少女の恋心③



 恋人とはどう言うことかと聞こうとしても双葉は熱に浮かされた様な顔をして健一の言葉など聞こえて無い様だ。


 健一も健一でどうせ言葉のチョイスの間違いか、冗談だろとは思ったのかそれ以上はその話題を広げる事は無かった。


 ──それが後に大変な事になると知らずに。


「それより健一、もうお昼休憩も少ないから早くご飯を食べた方が良い、私が食べさせてあげる?──恋人みたいに………」


 双葉にそんな事を言われた。最後の言葉は小さくて聞き取れなかったが、下級生に食べさせてもらうなど言語道断、それもガチのお嬢様にやらせることでは無い。


「いや、良い、1人で食べれるよ。双葉は自分の分食べちまいな」

「ん、分かった」


 健一と双葉は話し合うと黙々とご飯を食べ出した。


 だが、健一がコンビニ弁当の中に入っていたから揚げを半分食べた時、違和感を感じた。その違和感を辿ってみたら──何故か双葉がご飯を食べる手を止めて健一が箸で持っているから揚げを見つめていた。


「ジーーっ」

「………いや、声出てるから、何だよ?双葉はこのから揚げが、欲しいのか?」


 健一が聞くと双葉はコクリと頷いた。


「ん、欲しい……頂戴?」

「でもなぁ……コレ、俺が食べた食いかけだぞ?それでも良いのか?」

「………‥」


 食べかけのから揚げだと双葉に伝えてみても考えは変わらない様だ。だってさっきからずっとから揚げに双葉は視線を向け続けているのだから。


「しかにコレ、コンビニ弁当だぞ?別に俺はコンビニ弁当を悪く言う気はねぇが……双葉は家柄的に食べて良いのか?」


 健一が言う通り双葉はこう見えても日本でも有名な双葉財閥の一人娘のお嬢様だ。


 そんなお嬢様がコンビニの弁当を食べても良いのか?食べさて後から何か言われないか?と健一は危惧しているのだ。だが、双葉はそんな事を関係無いと言わんばかりに健一の言葉に首を振っていた。


「んーん、関係無い。私だってコンビニ弁当を食べる時もある。それに──マ○クだってレイナと行ったことがある!」


 ドヤ顔をして何処か誇らしげに言う双葉にこれ以上言っても意味ないかとから揚げをあげる事にした。


 だが、健一はふと気付いた。


 この状況──


(──待てよ、待ってくれ。もしかしてこれはあの世界七不思議の中に数えられる、男達の夢の──なるものではないのか?※違います)


 健一は頭の中で馬鹿な事を考えながらも内心でもしかしたら自分も間接キスが出来ると喜んでいた。だが、それを双葉に感づかれない様に顔に出さずに大人の対応をする事にした。


「──ふふっ、双葉?良いのか?」

「………何が?」

「分からないか。この状況が──間接キスだと言う事をな!!」

「………‥」


 健一はそう伝えたが双葉の表情は何も変わらなかった。それどころか「それが何か?」とでも言いたそうに健一を見ていた。


 その事に健一は驚いていた。


(なん……だと?間接キスだぞ?それを驚かないだと?そんな事が、そんなことがぁ──あってたまるか!※たまります──待てよ?双葉はお嬢様だから間接キスを知らないのでは?)


 健一は双葉が間接キス自体を知らないから何も反応が無いのではと決め付けた。


 が、とうの双葉は──


(──間接キス。きす、キス。健一と間接キスが出来る──フヘッ!今日はレイナも連れて来てないから誰にも邪魔遠される事はない)


 ──と、こっちはこっちで健一との間接キスに興奮をしていた。


よく双葉の口元を見てみると口の端がヒクついてるし、何を想像しているのか頭の上から少し白い湯気を出している。その状況でも健一は目の前のというワードがとても衝撃的な事だからか気付かない。


「………間接キスとかは知らないけど、私から提案がある。健一からそのから揚げを貰う、でも貰うだけじゃ悪いからこちらもオカズを1つあげる──交換する」

「そ、そうか……じゃあ、交換という形で……それより双葉の弁当旨そうだなぁ。親が作ってくれるのか?」


 健一は何気なくそう双葉に伝えたが、双葉からしたら「待ってました!」と声高らかに言いたいほどだった。何故ならこのお昼に健一とというものは初めから双葉の計画通りに事が進んでいるのだから。


 双葉がどうしてこんな事をするのかと言うと、双葉は1年前からの事が好きだからだ。皆も薄々分かっていたと思うが……双葉自身1年前は本当に悟の事が好きだったが、それは外面だけで好きになっただけだったのだ。よくあるだろ?一目見ただけで「あの人良いなぁ」という時を。──それを世間ではと言うのかもしれない。


 でも、そんな時健一と偽デートをしたり、助けられたりしていたら気付いたら健一の事を双葉は内面も外面も──どちらも好きになっていた。好きという気持ちは人それぞれあるがいつ好きになるか、どんなタイミングかなんて誰にも分からない。


 ──気付いたらものなのだから。


 そんな中、双葉は健一に自分の恋人になってもらう為に奮闘しているのだ。


 ここ1年関わって気付いたことが、健一は鈍感なので待っていたら絶対この恋は叶わないという事だ。それに健一はモテて無いと思っているが、双葉が知っている中では何人か絶対に健一の事を好きだと思っている人物を知っている。双葉の1番の誤算は、健一に告白をされた時に何も考えずに断ってしまった事だ。


 でもそれはいくらでも双葉自身で覆らせる、それが今なのだ。


 なので、双葉は──


「──違う、このお弁当全部私の手作り」


 ──攻めれる時に攻めて、攻めて、攻めまくり──健一を自分の虜にしようと企んでいた。


「マジか……凄えな。俺は料理はてんで駄目だから羨ましいわ」


 双葉の企みなど知らない健一は驚いていた。そんな健一の表情を見た双葉は今直ぐにでも満面な笑顔になり、健一は罠に嵌ってるんだよと言いたいほどだった。


 後、補足だが、健一のスマホの中には双葉がこっそりとGPSのアプリを入れているので健一の行動は逐一双葉に監視されているのだ。


 健一自身はそんな物スマホの中に入っている事すら知らない。それはやり過ぎだとか愛が重いなんか言われるかもしれないが、そうでもしないと健一が誰かに取られそうだから嫌なのだ。以前の健一だとあっちへふらふら、こっちへふらふらと女性の元に向かっていたが、何か心境の変化でもあったのか今は健一のそんな行動が無くなったので双葉は少し安心している。


 それでもまだではあってもでは無い。誰かに取られるのも時間の問題だと双葉は思ってる。だって──自分の護衛兼メイドのレイナですら健一に恋慕の感情を抱いてると知っているのだから。


 ──一度盗聴器とかを健一に付けようかと思っていたがそれは辞めといた。健一のプライベートを壊したくは無いから……GPSを付けてる時点でアウトというのは言わない事で。


「──女性が料理を出来るのは当然のこと。私はも兼ねて小さい頃からやっている。他の家事もバッチリだから今からでも嫁げる!!」


 健一の顔を真剣に見ながら伝えた。


「そ、そうか……金持ちの家は凄えな、本当に花嫁修行なんてあるんだなぁ」


 双葉は遠回しにいつでも健一のお嫁さんになれると伝えたつもりだったが、やはり健一には通じなかった。


 先程健一と双葉が恋人と言った時もそんなに反応が無かった為、こんな事じゃ健一が気付く筈がないと、一筋縄ではいかない事は分かっている。

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