第19話 無口少女の恋心②



「──健一、何でドアを閉める?」


 ドアの隙間に自分の足を差し込み、ドアの閉会を止めた人物は無表情で健一に話しかけて来た。


 その人物は健一の後輩の双葉だった。


「いや〜、そのな?双葉が先客でいたから1人の時間を作った方がいいと思ってな?」

「そんな気遣い不要、健一もここでお昼食べるんでしょ?」

「そ、そうだが、何で双葉がその事知ってるんだ?」


 流石に健一も驚いてしまった。健一が職員室でぼっち飯をしているのは担任の教師である堂本先生しか知らない筈なのだ。


(あれ……俺双葉に話したっけ?……いや誰にも話していない筈だよな?じゃあ、何で双葉が知ってるんだ?堂本先生が双葉に教えたとか?でもそれしかねぇよなぁ〜)


 健一は双葉が何で自分が職員室で昼ご飯を食べているのか頭の中で考えると一応纏まったのか、双葉の言葉を待つ事にした。


「ん……それはGP ──ゴホッ、ゴホッ……ごめん咳き込んだ。堂本先生に教えてもらったから」


 GPと言った後にわざとらしく咳き込んでいたが、今はそこに触れない事にした。自分の聞き間違いかもしれないし──なんだか聞くのが怖いから。


「あ、あぁー、やっぱり堂本先生か!そうか!だから知ってるんだな!」

「………ん」


(──今、咳き込む前に何か言おうとしたよな?GP?……GPS ──じゃねえよな?ある訳ねぇか。そんなもん俺にくっ付けて誰が得するんだよってな)


 違和感を覚えた健一だったが、双葉がそんな事をする筈がないと思った。なのでその話題はもう辞めにして双葉にある事を聞く事にした。


「けどよ?双葉はいつも友達と昼飯食べてるんじゃないのか?その子達は良いのか?」

「ん、本当は未央達と食べるつもりだったけど、他のクラスの子達が今日、七瀬先輩に今度良い事をしてもらえると約束してもらったらしくそれが気になって、皆その子達の教室に行って話を聞いてるらしい」

「ほーん、そか………」


 一応その話は健一も知っている、それも今日目の前で悟自身が下級生達に約束をしていたからだ。──後、今双葉の口から出た未央と言う子は、双葉の親友兼悟の義理の妹だ。


 本当の妹では無くなのだ。健一自身もあまり知らないが悟が小さい頃、悟の父と未央の母が再婚したらしい、それで義理の兄妹となったという。健一曰くだと「義理?何だよその裏山死い事──最高じゃねぇか!義理と言えば結婚出来るんだぜ?」との事だ。


その話を聞いた悟は少し引いていて、未央なんて汚物でも見るような目を向けていた。


 そんな昔の記憶を思い出していたら、双葉に話しかけられた。


「──だから、私は1人ここで静かにお昼を食べていた。決して健一と一緒のぼっちと言うわけではない」

「──ぐはっ!!」


 健一は双葉のその辛辣な言葉に吐血を吐きその場で倒れてしまった。


「ん……健一、そこでふざけて寝転がらないで早くお昼ご飯を食べた方がいい、時間は有限」


 健一がふざけて寝転がっていると思っているのか、健一にそんな事を言うのだった。お昼休みの時間は双葉が言うように限られているので、直ぐに立ち上がるとコンビニ弁当を取り出した。


「………ヘイヘイ。全くうちの後輩様は……可愛げが無いんだから」

「──っ!!」


 健一はただその言葉を口にしただけだったが、双葉にはかなり効果的面だったらしく。お昼ご飯を食べる手を止めたと思ったら、持っていた箸を落としてしまい、職員室内に双葉が持っていた箸が落ちる音だけが響いた。


「ん?どうした、双葉?箸落ちた………」


 健一はそんな双葉の行動が気になったので、「お箸落ちぞ」と双葉の顔を見て伝えようとしたら──驚き、声が出なかった。


 だって双葉はこの世の終わりのような顔を健一に向けながら、ポタポタと瞳から涙を流しているのだから。


「ふ、双葉!?どうした!何処か痛いのか!?」


 健一は何を勘違いしたのか、双葉にそう聞いた。──双葉が泣いてしまったのは健一に「可愛げが無い」と言われたからと知らずに。


「ヒック、ヒック──痛く、ない」

「そ、そうか?……でも泣いてるし」

「何でも……ない………」


 双葉は健一に質問されても何でも無いと言うだけで、何も答えてくれなかった。


 でも健一はそんな訳がある訳ないだろと内心で思っていた。


(いや、流石に泣いているのに何も無い訳無いだろ……もしかして俺の言葉が悪かったのか?──俺が可愛げが無いと言ったら、泣いてしまったような気がしたし………そう考えるとなんか納得してしまうのは何故だ?まあ良い、今は双葉を泣き止ますのが先だな)


「双葉ごめん!恐らくだが俺が可愛げが無いって言ったことが何か双葉の涙腺に触れたんだよな?だけど、泣かしたのは俺だ。だから……ごめん!!」

「………ん、じゃあ、あの可愛げが無いって言葉は──嘘?」


 まだ少し鼻声だがさっきよりはマシになった双葉が健一にそう聞いて来たので、今がチャンスだと思った健一はたたみ込んだ。


「お、おぅ!嘘に決まってるだろ?俺もちょっと皮肉を言っただけだし、言葉の綾って奴だよ!それに双葉が可愛く無い訳ないだろ?それの逆でこんなに可愛いじゃないか!!」


 健一はこの場を収めるために少し大袈裟に言った。健一が言った「」と言うのは嘘ではない。健一の本心から出た言葉だ。


 双葉も健一の想いが通じたのか少し笑顔を取り戻した。


「ん……私は可愛い……なら健一は私が可愛いと言ったからその証明ができる筈……私がもしも、万が一にも健一に告白をしたとして──受け入れてくれる?」

「──えっ?」


 双葉の言葉に驚くと健一は少し思考を止めてしまった。ただ、それは当然だ。こないだもう彼女なんて作らないと決めた手前、ここで「はい!」と言ったら自分が決めた事が嘘になってしまう。


 でも、ここで嘘でも「はい!」と言わないと後々がまた困る事になるかもしれない──


(それに、双葉もどうせ冗談だろ?ここは無難に答えるか………)


「おう、当たり前だろ?双葉には一度告白を断られているが、それとこれとはまた別だ。こんな美少女に告白なんてされたら──「はい」と答えるに決まってるだろ?……俺は双葉の想いをきっと受け入れる筈だよ」


 健一はそんな言葉を双葉に伝える。ただ、何故かその言葉がスッと自分の口から出た事に少し違和感を感じていた。考えるよりも今は双葉の様子の方が気になっていたのでそれ以上は考えるのも


 健一の言葉を聞いた瞬間、双葉の顔は今まで見た事が無いのでは?と言わんばかりに「パーー!」と笑顔が弾けた。


 そのまま、双葉はある事を呟く。


「ん、健一と私は──恋人」

「………あ?」


 双葉の意味不明な言葉に健一は素で返してしまった。 ──だって、何故か双葉がなんて訳の分からない事を言うのだから。

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