閑話

第22話 決別………からの勘違い①




 健一は鈴と別れると自分のクラスに戻る訳ではなく、職員室近くをぶらぶらと歩き回っていた。早く教室に帰っても葉先に何か言われるだけだと思ったからだ。


 まだ5限目の授業が始まるまでに時間があるのでゆっくりと教室に戻るのだった。


「健ちゃん戻って来たか………」

「おう、花丸。何かあったのか?」


 健一はさっきまでぶらぶらしていたが今は教室まで戻って来ていた。ただ、戻って来たは良いが、教室の雰囲気が少し悪い様な気がしたので近くにいた花丸に聞いてみた。


「今はもう次の授業が始まるまで時間が無いから皆席に着いてるけど、健ちゃんが来るまでは悟といつものメンバーが騒いでいたんだよ」

「はぁー、珍しいなアイツらが騒いでいるなんて、なんかあったのか?」

「それがな………」


 花丸が健一がいない間に起こった事を話してくれた。


 内容は、健一が教室から出た後に悟の近くに葉先含めた幼馴染のいつものメンバーが集まったらしい、それはいつも通りなので良いのだが、その後が騒ぎになる原因だった。


 何故かいつもの幼馴染以外にも今日は他の生徒が来ていたのだ。それは今日の朝に健一の事を「歩く猥褻物」と呼んでいた女子生徒達だった。その2人が来た事により、初めは「誰なのか、何の為に来たのか」などの話だけだった。それなのにいきなり──健一の話になったという。


「………何で、そこで俺が出てくるんだ?俺関係なくね?」

「まぁ、最後まで聞けって」

「………分かったよ、続けてくれ」


 健一の話になった理由は、朝に出会った女子達から健一が女子生徒を「」という事をつい口に出してしまったかららしい。悟はそれは誤解だと皆に伝えていたようだが、他の幼馴染達はそれを信じてしまい「健一は今何処にいる?」という話になってしまった。


 その時、間が悪い事に葉先が健一の今日の不可解な行動について話したらしい。


 ──「昨日、深夜まで起きていた事を昼休みに話す」と言った筈なのにそれを話さず何処かへ行ってしまった事を、その話を聞いた幼馴染達は昨日の深夜まで起きていたのは「女子生徒を妊娠させているからなのでは?」と話が上がってしまい「健一が逃げたのは女子生徒を妊娠させた」のがバレたくないから逃走したのではと話がついてしまったという。


「………マ?」

「マジ」

「いや、冗談だろ!?何だよ俺が女子を妊娠させたって……考えた奴、絶対馬鹿だろ」


 健一は花丸から話を聞き、机に突っ伏すと頭を抱えてしまった。


(勘違いしすぎだろ……誰が女子なんか妊娠させるかよ、でもそれを信じるアイツらもアイツらでアホだろ………)


「………ヤベ、早退したくなったわ」

「あはは、はは……健ちゃん、元気だしなって?」

「この状況でどう元気を出せと言うんだよ………」


 健一が今からどうしようとしても時間は戻らないし、今すぐに誤解を解きたくても5限目の授業が時期、始まる。幸いな事に6限目の授業が体育なので早く教室を出れば葉先達には捕まらないと言う事ぐらいだ。


 恐らく葉先達も放課後に健一を尋問する筈だから今は睨んでくるぐらいだろう……現在進行形で健一は葉先に睨まれているから。


 そんな事を健一が悶々と考えていると5限目の担当の教師が来て、授業が始まった。その後の6限目の体育も無事葉先達に絡まれる事なく、帰りのロングホームルームまでこれた。


「──えぇー、今日も何事も無く無事1日が過ごせたようだな、ただし家に帰るまで気を抜かない事、皆は分かっていると思うけどね」


 堂本先生の言葉に健一を除いて「はーい」と答えていた。健一はと言うと。


(──俺はこの後も色々ありそうだから、多分無事過ごせねぇわ……気を抜きたいが多分抜いたら○される………)


 健一は健一でこの後の事を思うと身体が震えてくるので何も言えずに椅子に座っていた。──だが、神はそんな健一を見捨てていなかった。


「それでは皆気をつけて帰って……とその前に。──三丈、顔色悪いぞ?保健室行くか?」


(──堂本先生!貴方は女神か!!)


 健一は内心でそう思うと、この後の事で恐怖で震えている身体に鞭を入れて──「はい、保健室に行きます!」と言いこの場から逃げようとした。だが……神は健一を助けるのでは無く、やはり見捨てる事を選んだようだ。


「はい、保健室「堂本先生、三丈君は学級委員長の私が保健室に連れて行きます」………」


(あーんまーりだーろー)


 健一が堂本先生に保健室に行くと伝えようとしたが、葉先に言葉を被されてしまいその先を言えなかった。


「そ、そうか、三丈はそれで良いか?」


 堂本先生にそう聞かれたので「一人で行きます」と言いたかったが、前方から睨んでくる葉先が怖くて。


「は、はい!葉先さんに連れて行って頂きますーぅ」

「分かった。では葉先、三丈を頼む」

「分かりました。ほら健一君、一緒に今から保健室地獄に行くわよ」

「おぅ………」


 ──今、葉先が保健室に行くと言う時に違う言葉が込められていた様な気がしたが、健一はもう諦めたのか葉先にされるがままにされていた。


健一が葉先に連れて行かれる状態は堂本先生以外から見れば、さながら拷問部屋に連れて行かれる罪人に見えた。悟と花丸は健一の事を可哀想な物を見るように見ていた。


「………‥」

「………‥」


 健一と葉先はどちらとも無言で廊下を歩いていた、多分保健室だろう場所に向かっていたが、どうかここから逃げれないか考えていた。


(どうする?ここで逃げるか?多分委員長だけだったら逃げれる……が、ここで逃げたら多分もっと酷い目にあうだろうなぁ……どっちも嫌だな……はぁ、もう身を任せるか………)


 健一は腹を決めたのか、逃走を諦めて葉先の後を着いていくのだった。葉先が健一を案内した場所は本当に保健室だった。その事実に健一は驚いていた。


 内心違う場所に連れて行かれて葉先達に尋問の後に──リンチでもされると思っていたからだ。


「──健一君、体調悪そうだから帰る前に少し保健室で休んでいきなさい、私は先に教室に戻っているから」

「お……おう?」


 葉先は健一の返事を聞くと本当に保健室を後にした。その光景を見て健一は「罠か?」と一瞬思っていたがそんなに人を疑っても悪いかと思い保健室に入る事にした。


 ドアを開けたら。


「健一、待っていてやったわよ!」

「………待っていましたよ、カス」

「………‥」


 そこには、健一の残り2人の幼馴染が待っていた。その事実に絶望すると共に無言になってしまった。

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