第40話 開花、母性本能全開!②


 健一と鈴の二人はあの後ペンギンショーが始まる時間ギリギリまで探索をしていた。


 鈴が口にしたアシカやイルカもしっかりと見ることが出来て鈴もご満悦だった。


 今の時刻は14時40分と、ペンギンショーが始まる時間に近付いている為お手洗いを済ませた二人は一番前の席というベストポジションが取れたのでこれから始まるであろうペンギンショーの話をしていた。


「後少しで始まるな、ペンギンショーって何やるんだろうな?」

「ん、それはペンギンのショーに決まっている」

「いや、まぁ、それはそうなんだけどさ?どんなショーや見せ物をするのかなと思ってさ」


 健一は鈴のその言葉に苦笑いをしていた。


「………動画とかで見たことはあるけど、どの水族館でもやる事は違うみたいだから分からない」

「ふーん?そんなもんなのか、俺はペンギンは好きだがそういった動画とかは見ないからなぁ……まぁ、それで楽しみではあるが」

「ん、どんなショーをやるのかを考えるのも大切だけど、楽しめれば、それで良い」

「だな」


 二人がそう話し合っていると周りで少し騒めきが起きた。なので話を一旦辞めてその騒めきの原因を目で追うと……柵の向こうのステージに飼育員らしき一人の男性が出てきた。


 それは今からペンギンショーが始まる合図なのだろう。その事が分かると二人は静かにする事にした。それは周りも一緒で飼育員の話を聞く様に皆静かにしていた。


 飼育員の男性も皆が静かになったことが分かると観客全員に聞こえるように大きな声を出した。


「えぇ、お集まりの皆様、本日はここ星宮水族館にご来場して頂きありがとうございます!本日は30分という短い時間ではありますが、ペンギン達のショーを楽しんで行ってください!!」


 そう言うと会場に来た人々に向けて頭を下げた。


 それが合図なのか見ていた子供達が「早くペンギン見たい!」や「どんな事をやるのかな?」などひっきりなしに話だした。


 その事に飼育員の男性は苦笑いをしながら口を開く。


「楽しみなのは分かります。が、初めに今回のペンギンについて少しご紹介をします……子供達の皆はペンギンさんについて聞いてくれるかなぁ?」


 飼育員の人が子供達にそう聞くと………


『『『聴きまーす!!』』』


 と、皆一様に大きな声を出し返事を返してくれた。その事に飼育員の男性は笑顔を向けて頷く。


「分かりました。では、今回登場するペンギン達はフンボルトペンギンと呼ばれているペンギンです。皆様も一度は見たことがあると思いますがお腹が白く背中が黒い事が特徴な代表的なペンギンですね。今回はそのフンベルトペンギン達による楽しいショーを見せてもらいます!」


 その話を聞き、子供達は「早く見たい!」とヒートアップしていた。


 ただ、飼育員の男性はそんな中、話を続ける。


「私達トレーナーがサインを出し、そのサイン通りにペンギン達に動いて貰います、が……彼等は自由です。ショーの時間でもほとんどが自分の好きな事をして聞いてくれません。ですが、思う様に行動をしてくれない中、たまに私達を驚愕させる様な一面も見せてくれますので、皆様は目を離さずに是非楽しんで下さい!!」


 話が終わったのか、またも観客に向けて頭を下げる飼育員の男性。だが直ぐに頭をあげるとペンギン達の登場の合図を送る。


「では、話も長くなってもつまらないと思いますので早速ペンギン達に来てもらいましょう!……ペンギンの皆、おいで!!」


 飼育員の男性がそう言うとステージの奥の大きな扉が開くと女性のスタッフが一人バケツを持って出てきた。


 その女性のバケツを持つ手の反対側には魚の様なものを持っていた。ただ、それも気になるが……その女性の後を着いてくる……というか女性の持つ魚を追いかける様に15頭程のフンボルトペンギン達がペタペタと歩いて来た。


 ただ、そんなペンギン達の登場によって会場中で歓声が上がった。それは大人も子供も関係なく楽しそうに騒いでいた。


 勿論、それは健一と鈴も一緒で。


「うわっ、ペンギンだ!可愛い!!」


 健一はそう言い、自分のスマホをポケットから取り出すと写真を撮り。


「ふぉぉぉおーー!!!」


 と、鈴は生ペンギンが間近で観れたのが感動したのか目の前にあるステージ内侵入防止のための柵を乗り越えるんじゃないかと言わんばかりに掴み、興奮していた。


 そんな中、ペンギンを連れてきた女性はペンギン達にバケツの中に入っていた魚、餌をあげると飼育員の男性にバケツを渡し扉の向こうに戻っていった。


「はい。では、ペンギン達も来ましたのでまずは自由に動いてもらいましょう!……ほら君達動いて!」

『『『…………』』』


 飼育員の男性が声をかけても何も反応をしないペンギン達、よく見ると餌が入っているバケツだけを見ていた。


「………はぁ、君達は本当に食いしん坊だね。分かったよ。じゃあ……それ!」


 飼育員の男性はそんなペンギン達の態度に苦笑いを浮かべるとペンギン達が泳ぐ様にある水辺に向かい餌を少し投下した。


 その瞬間………「くる〜あ〜」と鳴き声を上げながらほとんどのペンギンが我先にと水辺の餌に向かって飛び込んでいった。


 だが、それで良い。ペンギン達が泳ぐ姿を見た観客達は……


『うおっ!凄い反応!』

『ペンギンさんお腹空いていたんだね!』

『泳いでいる姿かわいい!!』

『………なんか、ペンギン達の餌やりを見ているとさっき昼ご飯を食べたばかりなのにお腹空いてきた………』


 と、大満足な様だった。一人お腹を空かせている人はいたがほとんどの人の喜んでいる声でそんな言葉はかき消されていった。


「健一、健一!ペンギン!ペンギンが泳いでいる!!」


 隣に座る健一の肩を揺さぶりながら話しかける鈴。


「あはは、知っているよ。可愛いな!(お前もな)」


(そんなにはしゃいでいる鈴の方が可愛いなどとは口が裂けても言えないが………本当にペンギンも可愛いな)


 口には出さないが健一はそんな事を考えていた。


 恐らく今健一が考えている事を直接鈴に言うものなら鈴の頭から「ポン!」と言う音が鳴り顔を赤くし、ペンギンなど目に入らない状態になるだろう。その後は恐らく今も見守っているであろうハンターに健一は八つ裂きにされるが。


 そんな事を健一は言わないし、そんな事を思われているとつゆほども思っていない鈴は屈託のない表情で返事を返す。


「うん、可愛い!だけど1匹だけ動かない子がいる。どうしたのかな?」

「ん?動かない子?」


 鈴の言葉が気になった健一は水辺では無く、飼育員がさっきまでいた場所を見てみたら、未だに一歩も動かないペンギンが1匹だけ佇んでいた。


「………本当だ。なんかやる気なさそうだなぁ………」

「ふふっ、健一みたい」

「いや、俺でもあんなにやる気はなくねぇよ………」


 隣でクスクス笑っている鈴に健一はそうツッコム。


 二人以外にもそんな動かないペンギンが気になったのか周りからも不思議そうな声が上がっていた。


 そんなペンギンに飼育員の男性は話しかける。


「君はどうしたのかな?他の仲間と同じ様に水の中に入ったり餌を食べなくて良いのかい?」

「…………」


 それでも何も反応を示さないペンギン。


「うーん、この子は食欲もやる気もなさそうだね………」


 そんな飼育員の男性の諦めの言葉に観客からは笑いが起きていた。


 それでも飼育員の男性はなんとかペンギンに動いてもらおうとして。


「………よーし、もしかしたら君は遊びたいのかな?ならこのハードルを飛んでみようか?飛べたらご褒美にこのお魚をあげよう!どうだい?」

「…………」


 未だに無言のペンギンだが、魚を貰えると聞くと「ピクッ」と少し反応を示した。その仕草を飼育員の男性は見逃さない。


「よし、決まりだね!じゃあ俺の合図に合わせて飛んでくれよ?………せーの!」


 飼育員の男性は持っている魚をそのペンギンの顔付近まで持っていくとハードルがある所まで誘導して飛ばせようとした。


 ………したが、少しそのペンギンがジャンプをしたと思ったら「バシン」とハードルを倒すだけで終わった。


 ジャンプをしたペンギンは無言のままその場で立ち竦む。


 観ていた観客達は「あーあ」という表情。


「………まぁ、頑張ったは頑張ったからお魚はあげよう。はい」

「あ、あ〜」


 魚を貰えたペンギンはいその場で直ぐに魚をたえらげると鳴き声を上げていた。


 その光景を見た飼育員の男性は………


「うん、食欲はあるけど、やる気は一つもないやこの子」


 と匙を投げるのだった。


 それを聞いていた観客からはまたもや笑いが起きていた。



 







 

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