第41話 開花、母性本能全開!③
◆
あの後はペンギン達の餌やりやハードルのジャンプ・シーソーなどなどと色々な遊具で遊ぶペンギン達が観れた。
ただ、楽しい時間は直ぐに終わってしまう様で……
「ペンギンの皆〜時間だから集まって〜!」
そう言うと散らばっていたペンギン達は皆飼育員の男性の元へと素直に集まってくれた。
1匹だけ集まると言うかその場で立ち竦むペンギンはいだが、まぁ、全員いるので今回は良しとするのか飼育員の男性はそこには触れない。
15匹集まっている事を確認すると飼育員の男性は観客に顔を向けた。
「短かったかもしれないですが、これにて今日の星宮水族館のペンギンショーは終わります。……皆は楽しかったかなぁ?」
飼育員の男性は人の良さそうな笑みを浮かべると子供達にそう問い掛けた。
聞かれた子供達は………
『『『楽しかった!!』』』
と、皆笑顔を浮かべるとそう伝えてきた。そんな子供達を見て飼育員の男性は笑顔を浮かべた。
「そうか、なら良かったです。えぇ、ここで解散………と本来ならなりますが、今回からペンギンショーとは別である企画を行います。一応ホームページでも記載していたので知っている方が多いと思いますが、そちらにそのまま参加する方は待機していて下さい。只今直ぐにご用意しますのでお待ち下さい」
飼育員の男性はそう話すと一礼した後にペンギン達を連れてステージ奥の扉に入っていってしまった。
「………この後何かあるのか鈴は知っているか?」
「………ごめん。知らない」
「そう、だよなぁ」
何も知らない健一と鈴の二人はそんな事を話していた。
ただ、周りの人々はこの後何があるのか知っている様でほとんどの人が解散する事なくペンギンショーと同じかそれ以上にワクワクとした顔をして飼育員の男性が来るのを待っている様だ。
そんな他の人々の様子を見た二人はせっかくなので自分達も待ってみることにした。
それから5分〜10分程度待っただろうか。先程と同じ様にステージの奥にある扉から飼育員の男性が出てきたと思ったら、何か大きい箱型のカートを引いて来ていた。
何も分からない健一と鈴の二人は顔を見合わせていたが周りでは歓声が上がっていた。
「………はい、では皆様お待たせ致しました。準備が整いましたので只今からペンギンの雛との触れ合いの広場を用意致しましたので雛との触れ合いをしたい方は前へ出て来て下さい!」
飼育員の男性がそう観客に声をかけると………「わぁーー!!」と歓声が上がり女性や子供を中心に我先にとペンギンとの触れ合いの為かステージ上に上がっていった。
それを見て、聞いた鈴は………
「け、健一!?あれ見て!ペンギンのひ、雛がいる!雛との触れ合い!」
鈴は動揺を隠せずに隣にいる健一にすがる様に人々がペンギンの雛らしき生物と触れ合っている姿を見るとそう伝えてきた。
そんな鈴の様子を見た健一は何を言いたいのか分かっている様で。
「行きたいんだろ?なら、行けば良いさ。俺はここで見ているからさ」
鈴の頭をポンポンと軽く叩くと今も人で溢れているペンギンの雛との触れ合い広場に親指を向けて鈴に促した。
そう言われた鈴はぱーと顔を明るくしたが、少し思っていた答えと違かった様で無表情の顔のまま頰を膨らませた。
「む!行きたいけど一人じゃなくて健一も一緒!私一人じゃなくて健一も来る」
「はぁ、はいはい。分かったよ。行けば良いんだろ。行けば」
鈴にお願いされた健一は無駄な抵抗をする事なく直ぐに立ち上がった。
正直ここでごねて鈴の機嫌を損なうのも面倒臭いと思ったのは事実だが、健一自身もペンギンの雛は気になっていたので鈴に便乗する形で自分も見に行こうと卑しい考えを持っていた。
(………男性客が誰もいないから俺だけ一人意気揚々と行くのは恥ずかしいもんな)
本当の本心はこっちだった。
健一が考えている通り、子供なら男の子が何人かいるが、自分の様な高校生以上の男性は誰一人として居ないのだ。
なので少し遠慮というか抵抗があった為動かなかった……というか動けなかった中、鈴に「来てくれ」と頼まれた為に「鈴にお願いされたならしょうがないなぁ」という体で健一は動いたのだ。
そんな気持ちは表に出す事なく健一は鈴と共にステージの上に上がり、ペンギンの雛との対面を果たした。
そこではカートから下されたペンギンの雛であろう灰色のふわふわとした塊が10匹程いて人々に撫でられたり抱っこをされたりしていた。
「はわ、はわ、はわわわわぁー!!」
ペンギンの雛との対面を果たした鈴は謎の悲鳴を上げてワナワナと震えていた。
「く、くっ、くくく!」
健一は健一でそんな鈴の動揺している姿を見て笑いを堪えていた。
普段、無表情ばかりで普通の少女の様な表情をあまり見たことがなかったので悪いと思いながらも思わず笑ってしまった。
笑うのは悪いと思っているが、どうしてか笑いがこみ上げてしまのだ。
そんな鈴の様子を健一が見ていると人々の中から灰色の塊……もといペンギンの雛一匹が鈴の元によちよちと危なかしい足取りだが近付いて来ていた。
その雛は感動のあまり動けない鈴の足元に近付くと身体を擦り寄せていた。ただその行為はそれなりに擽ったいのか………
「ひゃぁ!ひぅっ!く、くす、擽ったい!!」
と、鈴から上がるとは到底思えない様な艶かしい声で悲鳴を上げていた。ただ健一はそんな鈴を助けようとは思わなかった。
何故なら、あんなにもだらしのない表情を作りながらペンギンの雛に戯れつかれているのだから。
逆に邪魔をするのは無粋だろうと思い、そんな鈴の姿を記念にと思いスマホのカメラで写真を撮る事だけに留めた。
勿論、ペンギンの雛の写真は連写した。
今後、疲れた時に癒しの為に見る様に永久保存版だ。
鈴がペンギンの雛と戯れている間に今さっき撮ったペンギンの雛の写真を厳選していると、ペンギンの雛を胸に抱いて少し興奮した様な表情の鈴が健一の元に歩いた来た。
「け、健一!この子可愛い。ふわふわしているし暴れない。とても良い子。この子、飼う」
「いや、可愛いし良い子なのは分かるが飼うのは……駄目じゃね?そいつここの水族館の動物だし」
健一がそう真っ当な事を伝えたが、健一の返答は鈴にはお気に召さなかったのかペンギンの雛をより一層強く抱くと頰を膨らませた。
「むぅ、お金ならある」
「そういう問題ではないと思うがなぁ〜」
「………健一はあれを言えばこう言う。揚げ足ばかり取る……パパは酷い人、健太郎もそう思う?」
何故か健一の事を「パパ」呼ばわりしたと思うと抱いているペンギンの雛に向かって「健太郎」などと名を勝手につけていた。
その事に健一はツッコミを入れようとしたら………
「………あ〜、あぁ〜」
と、鈴の言葉に反応したのか雛が鳴き声を上げた。
ただ、何故かその鳴き声は健一への非難混じりの声に聞こえた。
「………健太郎も私と同じ。健一、育児放棄はいけない」
「いやいやいや!待て、待ってくれ鈴。ちょっと話が理解できないのだが?」
「何を?」
逆に健一の話が理解できないのか首を横にコテンと倒すと聞いて来た。
その時にペンギンの雛も一緒に鈴の真似をして首を少し倒そうとしていたのが可愛かったのは内緒だ。首が無いからしっかりと曲げられていなかったが。
「いや、だからさ?何で俺が鈴の夫扱いになっていてその雛が俺達の子供?になっているんだよって話だよ」
「………何を言っている。健一は私の夫………夫?………はっ!」
少し暴走していた鈴はようやく健一が言いたい事が理解した様だが、自分が先程まで話していた言葉の数々を思い出してしまったのか顔を真っ赤にしてその場で動かなくなってしまった。
健一もやっと分かってくれたかと安心していたが「この微妙な空気をどうしようか?」と内心少し冷や汗をかきながら考えていた。
完全に鈴が暴走して変な事を言ったのが悪いが、今までの経験上ここで下手に変な事を言えばおかしな事になる事は健一は知っていた。
最悪、鈴が泣いてしまい。何処かで見ているであろうハンターに襲われてしまうと思っている。
そんな中、この危うい状況を何も知らないペンギンの雛は健一の顔をつぶらな瞳でただ、見ているだけだった。
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