第47話 これって、修羅場ですか?①




 ティナと別れた愛莉は登校時間がギリギリとなっていると言うこともあり、校則で走れ無いながらも出来るだけ早歩きで自分のクラスまで向かっている。

 

 愛莉が所属しているクラスは2年1組だ。健一達がいる2年2組が本当は良かったが、こればかりは運なのでどうしようもないと思っていた。ただ、1組しか変わらないのであまり大差は無いとも思っている。


 そんな愛莉は遅刻する事なくクラスに着くことができ、普段通りクラスメイト達全員に朝の挨拶をしていた。


「皆、おはよう!!」


『『愛莉様、おはようございますですわ!!』』『おはよう、来栖さん!』


 そんな愛莉の挨拶に殆どというか──男女問わずクラスメイト全員から挨拶を返されていた。愛莉は健一にも言っていたが社交性も良く、人と仲良くなるのが得意だった。その事もあり、クラスメイト全員と仲良くなっていた。


「あはは、今日も皆元気ね!」


 愛莉は皆の顔を見るとそう返事を返し、自分の席へと着席した。他の生徒達は愛莉と話したそうにしていたが、今の時刻は8時32分と朝のホームルームまでそんなに時間が無いため動けなかった。


 それに、先生が来るのも時間の問題なので今は耐えて、後で話そうと他のクラスメイト達は思っていた。


 そんな中、直ぐに愛莉達2年1組の担任の先生も来て朝のホームルームが始められた。朝のホームルームも恙無く進み、1限目が始まるまでに他のクラスメイト達が愛莉の席へと押し寄せると話し合っていた。


 その後は1限目、2限目──と時間が進んでいき、遂には愛莉が待ち望んでいた健一とのランチタイムであるお昼休みが到来した。


 10分休みの時に健一と会えなかった分、その間に他のクラスメイトや友人とは話し合って、お昼休みは今日も一緒に取れない事を話していた。


「──愛莉ちゃんは今回も悟君に会いに行くんだね〜熱々だね〜?」

「──まぁ、そんなところね。でも葵。いつもお昼、一緒に出来なくてごめんね?」

「い〜よ〜、少し寂しいけど他の友達とお昼をエンジョイしてるからさ〜」


 愛莉は一緒に話していた葵という人物に謝罪をしていた。本名を──橘葵と言い。この葵という女子生徒は1年生の時からの愛莉の友人でウマが合い良く一緒に行動していて、今では親友と呼べる存在となっていた。勿論、お嬢様でもある。


 外見は茶髪をゆるふわパーマにした髪型、顔はとても整っていて男子達には人気が出そうな顔つきをしていた。体型も愛莉程ではないが出るところも出ていてスタイルが良く、とても優しい少女だ。少しポワポワとしているところはあるが、そこも魅力的なのだろう。


 この葵という女子は愛莉が悟に会いに行くと絶賛勘違いを起こしているが、愛莉は特に否定をする事はなかった。それには理由があり、悟を狙っていると思われていた方が色々と行動がしやすいからだ。なので何も言わない。


「じゃあ、葵、いつも通り私は行ってくるわね!」


 そう葵に声をかけると二人分のお弁当を持って愛莉は席を立つ。そんな愛莉を目敏く見ていた葵は感心していた。


「おぉ〜〜!愛莉ちゃん。今回はお弁当を作ってきたんだね〜愛妻弁当だね〜ヤケちゃうね〜」

「まぁ、この頃料理の練習も兼ねてね」


 そんな事を嘯くと愛莉はそのままお弁当を持って隣のクラス──健一の元まで向かう。


 愛莉を見送った葵は一人、誰にも聞こえないぐらいの声量で呟く


「うん、うん。恋だね〜愛だね〜やっぱり女子高生たるもの恋愛はしなくちゃね。私もにアタックしなくちゃな〜でも未だに私はと話した事もないしな〜遠くで見るばかり。勇気、出さなくちゃな。待っていてね──


 誰にも聞こえない程の声量で呟くと葵は頰を少し朱色に染めていた。


 何か波乱の予感が──親友同士が好きになった人物とは──



 ◇閑話休題それはさておき


 

(──私がお弁当を渡したら健一の奴どんな反応するかしら?受け取ってくれるとは思うけど──なんだか、緊張するわね)


 愛莉は内心で少し怖気付きながらも健一に渡すはずのお弁当を自分のドキドキとしている胸に押し当てていた。そのまま自分の気持ちを落ち着かせる様に健一達がいる2年2組へと歩いていく。距離は近いのに今はなんだか物凄く遠い様に感じられた。


 ただ、着いてしまった。健一が待つ場所に辿り着いてしまった。そんな中、ここでグダグタしていても時間が過ぎ去っていくばかりなので決心を決めた愛莉は2年2組のドアに手をかけると勢いよく──開けた。


「健一達、お昼一緒に食べま──へ?」


 愛莉は元気よくいつも通り声を掛けようとした。ただ少し違う所はにではなく、に向けて声を掛けた。だが、愛莉は最後まで伝える事はできず、口籠ってしまった。


 ──何故なら、愛莉の目前に信じられない光景が今、正に来り広げられているのだから。



「ギャアァァァァァッーーー!!?」



 ──と、獣の雄叫びと間違えてしまう程の音量で──健一が叫び声を上げていた。


 そんな健一は何故か鈴のメイドであるレイナにジャーマン・スープレックスを掛けられていた。健一に掛けているレイナは鬼の様な表情をしている。レイナの近くにいる未央は健一の顔面を無表情で鷲掴みをして握り潰している。そんな未央の隣ではいつも冷静沈着な風香が顔をこれでもかと言うように真っ赤に染めると憤怒の表情を浮かべて健一を見ていた。


 鈴に至ってはスマホに向かって──「健太郎ごめんね、どうやらパパとママは倦怠期?みたい。健一を調教して元の仲のいい夫婦に戻るから」と訳の分からない事を泣きながら永遠と呟いている。近くで見ている悟と花丸の目は──死んでいた。


 周りで見ている他の生徒達は自分達は関わりはありませんと言うように目を逸らしていた。


 そんな地獄絵図の最中──


「ちょっ!?アンタ達ナニやってるのよ!?」


 ──と、何も分からないながらも愛莉もその地獄絵図の中に加わるのだった。健一にお弁当をあげる事しか考えていなかった愛莉は2年2組のこの状況地獄絵図に全く気付かなかった。よく見ると廊下に他のクラスの生徒達が物珍しい物を見る様に観に来ていた。


 

 ◇閑話休題時間は少し遡る



 愛莉と葵が話し合っている同時刻。健一達のクラスも4限目の授業が終わったので各自お昼休みをとっていた。


「ふぁーー、眠。やっと終わったわ、授業」

「ははは、健一は今日も眠そうだな?」


 健一が眠そうにしていると近くまで来ていた悟が笑いながら話しかけてきた。今日は悟は女子生徒達に囲まれる事なく健一の所まで無事来れた様だ。因みに花丸は今購買に行ってパンを採集しに行っている。


「そりゃあ眠いわ。昨日も夜遅くまで起きていたし──まぁ、それは俺が悪いんだがな。けど、先公も委員長も俺を狙い過ぎじゃねえか?何で俺が授業中に船を漕いでるだけで注意されるんだよ………まだ寝てねえだろうが」

「まぁ、健一の事を先生も風香もしっかりと見てくれてる──って事じゃないか?」

「──納得いかねぇだろ、普通」


 今日の授業の出来事のグチを腕をダラーんと机に投げ出して言っている健一に対してニコニコと笑顔の悟はやんわりと受け答えをしていた。


 そんな話を二人が話していると購買に行っていた花丸が戻ってきた様だ。花丸は教室の扉を開けると両手一杯に持ったパンを抱えながら健一達の元へ向かって来る。


「健ちゃん!悟!お待たせ──ぐあっ!?」


 ──ただ、花丸が教室の扉から一歩、進んだ瞬間背後から来た物凄い力で──吹き飛ばされた。吹き飛ばされた花丸は教卓に突っ込むと教卓と共に教室の端まで吹っ飛ぶ。そのままうつ伏せになりながらピクリとも動かなくなった。


 ──ほう?花丸もやるな、現実世界でヤ○チャの真似を身体を張ってやるとは。


 その花丸の姿はさながらサイバイ○ンに自爆されたヤ○チャの如く姿だった。まぁ、そんな馬鹿な事を考えていないで花丸を吹き飛ばした人物に顔を向けると──そこには腕を組み無表情を顔に貼り付けた未央が仁王立ちで立っていた。その横には何かそわそわとした様子の鈴の姿があった。そんな鈴はお弁当の様な物を二つ胸に抱えて持っている。未央と鈴の背後には何故か不機嫌な表情を浮かべたレイナが鎮座していた。


 そんな3人を見た健一はある事を考えた。


 うんうん、また、悟に会いに来たんだな。


 そう思った健一は隣にいる悟に向けて顎をしゃくると「早くあっちに行け」と合図を送る。そんな健一の様子を見ていた悟は苦笑いを浮かべていたが、そこから動く気配は無い。


 何故か動かない悟に煮えを切らした健一は合図で分からないなら言葉で伝えるだけだと思い口を開こうとした最中──先にレイナが話しかけてきた。


「──恐らく、今、三丈様が考えている様な事は全て外れてますよ?なんせ──私達は三丈様と一緒にお昼を取りに来たのですから」


 レイナは未だに不機嫌な表情のままそんな事を伝えてきた。伝えられた健一は──


「──え、俺?」


 と、呟くと自分の顔に指を向ける健一。


 ──愛莉との約束も鈴との約束も──ましてやレイナとの"今度ご飯を一緒にでも"という約束を完全に忘れていた健一であった。



 ──今、ここに"修羅場"へのゴングの鐘が鳴り響く。




 

 




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