第48話 これって、修羅場ですか?②
そんな何も分かっていない様子の健一を見たレイナは──「これだから三丈様は」と小声で呟くとため息を吐いていた。
少し小言でも言ってやろうとレイナが思ったその時、それよりも早く未央が口を開く。
「──健一さん。何?私の親友の鈴に手を出したの?それに、どんな手品を使ってレイナさんもたらし込んだの?──何か、答えてよ?ねぇ?──健一、サン?」
いきなり矢継ぎ早にそんな事を呟くと仄暗く目のハイライトを消した未央がそう、健一に伝えてきた。今は"クズ、カス、ゴミ"とかではなく、健一さんとちゃんと昔の様に名前を呼んでくれたので本来なら嬉しいはずなのだか、全然喜べなかった。
だって──
未央ちゃん、怖!?え、何?最後、カタコトになってるよ!?どうしたの?普通に戻ろうよ!!?
──まぁ、単純に未央が怖いからだ。
ただ、怖がっていても何も始まらないので健一は様子が"少し"おかしい未央を落ち着かせる事にした。
「み、未央ちゃん!まずは落ち着け!多分君は何かを勘違いしているはずだ。いや、絶対にしている!!」
「──私が、勘違い?」
今も目のハイライトを消した未央は首をコテンと横に傾けた。いつもだったら可愛いその仕草も目の保養になるのだが、今は恐怖しか湧かなかった。
だが、話は聞いてくれるぐらいの理性は残しているみたいだ。ここで話を逸らそう。
そう思った健一は──
「そうそう、勘違いさ?鈴ともレイナさんとも一年前に悟との繋がりで知り合いになってさ。今は悟共々仲良くさせて貰ってるってわけよ?だから、別に疾しい事はなんにも無いから安心してくれよ」
"悟"と言う時にわざと誇張する様に話す健一。
「──分かり、ました。今は、健一さんのお話を信じます」
ただ、それが功を成したのか不承不承ながら納得?してくれた未央は一旦冷静さを取り戻す様に深呼吸をすると、鈴の元まで下がる。
(──ふぅ、焦った。マジで焦ったわ。一瞬未央ちゃんの表情が怖くなったからヤンデレ?になったかと思ったわ。まぁ、なわけないか。アレは"フィクション"の中だけだよな、流石に)
そんな事を内心で考えた健一だったが、現実でヤンデレなどあり得ないと考えた。そんな事よりも今は未央が普段通りに戻ってくれた事を安堵していた。
──が、それでは問屋は下ろしてくれないらしく。
「………で?そんな事はどうでもよくて、前まで鈴の事を"双葉"と呼んでいたはずだよね?なんで"鈴"になってるの?やっぱりナニかあったんだよね?そうなんだよね?ね?ね?──ネ?」
「──おぉっふ」
安堵して気を抜いていた時、俺の直ぐ目の前に来ていた未央ちゃんは目と鼻がつくのでは?と言わんばかりに俺に密着している。
その未央の勢いに飲まれてしまった健一は変な声を上げる。
(──いや、待て待て待て!ここで怖気ずくな、三丈健一(16歳)。別に疾しい気持ちがあって鈴の事を名前で呼んでいる訳ではない、訳を話せば納得してくれる!それに、ここに鈴もいるじゃないか!!)
希望を見つけた健一、この絶望となっている状況を覆す為に口を──
「──未央様、お二人の話の途中おこがましいですが、私も三丈様に──レイナと名前で呼んで頂いています。それにこの頃は愛称を込めて──レイにゃんと呼んで頂いています。ですよね?──健ちゃん?」
そんな事を愉悦の笑みを顔に張り付けてヤケに早口で話すレイナ。そんなレイナに間違いを正す様に健一は──
「いや、そんな事一度も──んぐっ!?」
──間違いを正そうとしたがそれも叶わない。何故なら──未央に口、というか顔面を正面から鷲掴みにされているのだから。
「健一さーん?ナニ?もうそんな仲睦まじそうな呼び方で呼び合う中なの?どうなの?そうなの?──答えてよ?」
「…………」
(────答えられるか!まずはその手を話してから言えぇ!!……ぐおっ!顔が、顔が潰れる!!それに、レイナさんめ、完全にふざけていやがるな。あの表情が物語っているわ!クッソ、俺が何をしたと言うんだ………)
健一が心の中で泣いていた。その時、何も悪いと思っていない様な表情のレイナは突然申し訳なさそうな表情を作ると健一に話しかける。────この前の鈴と健一の水族館デー………の借りを返す様に。
「────あぁ!健ちゃんごめんなさい。"コレ"は私と健ちゃんの秘密だったわよね?………と、未央様、出過ぎた真似をしました。ただ、これは私────レイナと健ちゃんとの問題なので関係のない未央様は、どうか忘れてください」
「…………」
そう、話すと近くにいる未央に深々と頭を下げるレイナ。そんなレイナを頰を痙攣らせて無言で睨んでいる未央。────と、未央に顔面を未だに鷲掴みにされている健一。
(────忘れるのも何もそんなもの全部、捏造だろうがぁ!!やめてくれ!それ以上未央ちゃんを刺激するのはぁ!!さっきから、顔に、かかる圧が増してるからぁ!!?)
ただ、そんな健一の願いが叶わず、尚もレイナは健一を危機に陥れる。
「あら?あらあらあら?健ちゃん、どうしたの?そんなにもの欲しそうな顔をして────"おっぱい"は帰った後でしょ?」
健一の顔を見たレイナは
それを目の前で見て、聞いた未央は────
「────ッ!?────フンッ!!」
何を想像したのか顔を真っ赤に染めるとさっきよりも健一の顔にかける圧を数段上げる。
「────!!────ッ!!?」
健一の声にならない絶叫が響き渡る。
そんな健一の表情を見て恍惚な表情になり身体を抱く、レイナ。
(────死ぬ!マジで死ぬ!!比喩表現なく!!?逃げなくちゃ、逃げなくちゃ!そもそも、レイナさんみたいな歳上の人の胸なんてこっちから願い下げだわ!!)
そんな事を聞こえないと分かっているから内心で絶叫する健一。だが、健一は忘れていた。レイナがただの鈴の護衛役ではない事を、それに────年齢にめっぽう敏感な事に。
健一からの"何か"を感じたレイナは────
「────アァ!?」
どのヤンキーでも裸足で逃げるのでは?と言いたい程の剣幕で健一を睨む
「────ッ!!」
そのレイナの剣幕が怖かったのか、青い顔を作りその場を瞬時に離れる未央。勿論、健一は置いていく。
「────三丈様。私も少し、そう、少し。ふざけました。ただ────言いましたよね?あれほど女性の年齢を無闇に口にしたり、馬鹿にしたりしてはいけないと?もう、お忘れだと?」
顔を下に向けながら教室の床に倒れる健一の元に亡霊の様にゆっくりと近づいてくるレイナ。その表情は下を向いているからか綺麗な銀髪が顔を隠し見えない。だが、今はその見えない表情がとても恐ろしかった。
そんなレイナは先程のふざけていた時とはうって変わって今は何か、怖い。
なので、未央に掴まれていた顔が今も痛いが健一はなんとか弁明の言葉をひり出す。
「────ッ!?ち、ち、違う!俺「おっしゃいましたよね?」────おっしゃいました」
自分の言葉に被せるように怒気を込めて伝えてくるレイナ。その言葉を復唱する健一。せめて何かを言わせてくれと思ったが、今のレイナに何を言っても意味がないのは健一は知っている。良く、知っているので素直に言う事を聞く。
「────はぁ、自分で弁明も弁解もできないとは情けないお方。やはり私自ら"躾"をする必要がある様ですね。あぁ、嫌だ。嫌ですが────コレも三丈様が少しでもマシになる為です。分かりますね?」
「うん」
レイナは顔を上げると呆れた様な表情をしながらも「嫌だ嫌だ」と言いながら何処か嬉しそうだ。そんな中、子供の様に素直に返事を返す健一。
既に俺は何も言い訳を言う気力は残っていなかった。色々言ってやりたい事は勿論ある。あるが、多分今言っても全て返り討ちにされるのは目に見えていた。
なので、今は何も、何も────
「────貴方達、ちょっと待ちなさい!!」
健一がレイナから説教を受け、未央が健一の事を汚物でも見る様な目を向けている時、ある人物が声を掛ける。
その、人物とは────
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