第49話 これって、修羅場ですか?③





「────委員長!良いところに来てくれた!!」


 健一の窮地に駆けつけた人物は────委員長こと、葉先風香だった。風香の登場で動きを止める未央とレイナ。


 風香は片手で自分のお弁当を持ちながら健一達の元へ歩いてくる。その姿は健一からしたら一筋の希望、正に勇者の様にも見えた。────ただ、一つ気になるのは風香がお弁当を持っているのとは違う手を後ろに隠している事だ。


 まぁ、そんな些細な事は今の健一は気にはしない。一人でいい、一人、自分の事を助けてくれる存在がいれば状況は変わるのかもしれないのだから。なので希望を抱いて風香からの助けを今か、今かと待つ健一。


(助けて欲しい、けど。多くは望まない。別に助けなくてもいい。ただ、この変な雰囲気を無くならせてくれれば────)


 そう考えた健一は期待を幾ばくか込めた目で風香を見る。


 健一に見られた事に気付く風香は何かを察したのか一つ、頷く。


「────あなた達、さっきも伝えたけど待ちなさい。そして、少し落ち着きなさい。それで────周りを見てみなさい」


 風香にそう言われた未央とレイナの二人は一度健一から離れると周りを見回した。そこには──── 2年2組のクラスメイト達がドン引きをした様な表情で見てきている事が窺えた。


「………騒ぎすぎました。ごめんなさい」

「少々はしゃぎすぎました。私も申し訳ありませんでした」


 二人は現状を理解できたようでションボリとすると健一に顔を向けて謝ってきた。


「────あ、や、ま、まぁ?分かってくれたならいいよ。うん。それよりも昼休みも無くなっちゃうから弁当食べようぜ!」


 助けて欲しいと思っていたが、暗い雰囲気になるのは健一としても本意ではなかった。なので、出来るだけ明るく振る舞う事にした。


 そんな健一の言葉を聞いた未央とレイナも少し表情を元に戻してくれたので良かった。


「────さぁ、元通りになったのならお昼を食べちゃいましょう。健一君の言う通り、早くしないとお昼の時間は無くなってしまうわ」


 風香のその言葉を聞いた健一達は机を付けて自分のお弁当を広げる。そんな中、まだ鈴は椅子に座りながらもソワソワとした様子で下を向いていた。その事に気付いていた健一だが、今は救世主である風香にお礼を伝える事にした。


「委員長。助かったわ!マジで!!サンキューな!」

「ふふっ、いいわよ。それに、あんなギスギスとした雰囲気では私達も、周りも楽しくお昼を過ごせないでしょ?」

「────確かに。でも、ありがとな!」


 健一が思っている事を素直に伝えると風香は健一の顔を見て一瞬顔を染めた。だが、それは本当に一瞬で直ぐに普段のクールな表情に戻る。


 そんな二人の様子を見て未央とレイナは少し不機嫌な表情になっていた。まぁ、蚊帳の外というのもあるが。


 そんな中、健一が自分のお弁当である────"コンビニ弁当"を開けようとすると────


「────時に、健一君。聞きたいことがあるのだけど────いいかしら?」

「んあ?なんだ、委員長?」


 丁度、健一が今まさにお弁当を開けようとしている時に話しかけられた為、適当な返事になってしまう。それでも無視をする行為はしない健一は風香に顔を向ける。


 健一が反応したのを見計らってか、風香は健一達の元に来た時から後ろに回していた左手をみんなが見えるように机の上にスッと出す。その事にみんな「?」とハテナを頭の上に浮かべながら風香の手の中を見た。


 そこには────


「────スマホ、ですか?風香先輩。それがどうかしたのですか?」


 風香の謎な行動にいち早く反応したのは未央だった。そんな未央が言う通り、風香の左手には黒色のスマホが握られていた。そのスマホを健一達は知っていた。風香が普段から愛用している物だと。


 なので尚更風香のその不可解な行動が分からなかった。それにそのスマホの画面はブラックアウトしており、電源すら付いていなかったから謎が深まるばかりだ。


「────まぁ、そうね。未央ちゃんの言う通り、このままでは私が何を伝えたいのか分からないわよね。なら────こうしたらどうかしら?」


 風香がそう言うと自分のスマホを操作して電源を付ける。そこに写っていたモノは──"痴漢"と呼ばれる現場を押さえた写真だった。


 写っている人物は女性と男性の二人。場所は電車内。そこで女性が吊り革を掴んでいる。そんな女性の後ろにぐらいのがポッコリと出た男性が立っていて前にいる女性のお尻を触っていた。


 そんな写真を見せられたみんなの反応は────


『────は?』

「え?」


 それぞれ違う反応を見せる。未央とレイナは────の顔を見ながら低い声を出す。健一は未央とレイナに睨まれながら困惑。


 ただ、その理由もある。


 何故なら────その写真に写っている中年男性の顔がなのだから。その中年男性の顔には何故か"合成"された健一の写真が貼られていたのだ。それも何故だかこちらを見ているという。


 なので未央とレイナは健一を睨んでいた。ただ、そんなとばっちりを受けた健一は────


(────お、おーい!なんてものだしてんの!!委員長、なぜさっきの変な雰囲気を振り返すような物見せたし!!それに………笑えよ、健一!!────いや、そもそもそれは俺では無いし、痴漢をしてて笑ってたらやべーけどもぉ!!)


 ────健一は内心で一人ツッコミを繰り出していた。今、健一が考えていた通りその合成されている健一の顔の写真は何故か真顔のうえこちらを見ているというなんともシュールな写真だった。なので、健一は思わずツッコミを入れてしまう。


 そんな中────


「────健一サン?この写真の言い訳を聞いても?」

「────三丈様、次は務所の中で会いましょう」


 またもやハイライトを消した目を向けてくる未央。既に健一が捕まっている前提で話を進めているゴミを見るような目線を健一に向けるレイナ。


 だが、納得がいく訳のない健一は────


「ちょ、ちょっと!委員長!?」


 原因の発端である風香に縋るように伝える健一。そんな健一に風香は────


「あら?これは健一君じゃないの?」


 自分のスマホの画面に映る写真に写っている"コラ画像"が本当に健一だと思っていたと言う様に話す風香。


 そんな風香に健一は────


「違うに、決まっているだろうがヨォォォオ!!?」


 座っていた椅子から立ち上がるとおもわず絶叫を発した。


 どうやら勇者や救世主だと思っていた人物は────魔王だったようです。





 ただ、健一達がそんな茶番をやっている時、悟は花丸の救助に向かっていた。未だに教室の床に倒れ込む花丸の身体を揺する悟。


『おい、悠太?大丈夫か?』

『…………』

『────ッ!?………死ん、でる?』


 返事を返さない花丸に対してオーバーリアクションを取る悟。


 まぁ、こっちも健一達と同レベルの茶番を繰り広げていたが。



 ◇閑話休題メッチャ説明した



 あの後はなんとか健一の弁明で未央とレイナは納得してくれたようだ。必死に訴えかけた事が伝わったようだ。事の発端の風香は終始────「じゃあ、この写真はなんなのかしら?」と、呟いていたが。


 その事に健一は「俺が聞きたいわ!!」と言いたかったがまた変な話に持ってかれたらたまったものではない為、無視をした。


 そんな中、やっとの事お昼を食べれると思ったので健一は一息吐くとコンビニ弁当を────


「────け、健一!!」

「…………」


 ────開けようと思ったが、教室に入ってきてからずっと無言だった鈴の言葉に止められてしまう。またもや健一はお昼を食べれず。その事に泣きそうになった健一だったが、鈴の方になんとか顔を向ける。


 そこには自分の赤色の巾着の包みのお弁当とはまた別の青色の巾着で包まれたお弁当を健一に渡すように腕を向けてきていた。


 その鈴の行動が分からない健一は────


「ん?それ、くれるのか?」


 やはり、完全になんのことか忘れている健一はそう鈴に聞く。


「う、うん!健一の為に作った。前ので約束した通り健一の好み通り作ってきた。それにこれは私の花嫁修行にもなる、と言った。いずれになる健一には食べる権利がある!」


 健一が自分との約束を忘れている事など知らない鈴は健一にお弁当を手渡しする。だが、直接手渡しするのが恥ずかしかったのか支離滅裂な事を言っている鈴。


 そんな鈴が話す言葉の数々にはここで言ってはいけない禁句ワードが入っていた訳で────


「────健一さん?今の鈴の話はどう言う意味合いで?"デート"とか、他にも不遜なワードが聞こえたのですが?が?────何か、弁明は?」


 健一の真横からのっそりと顔だけを出すまたもや目のハイライトを消した未央。


「────三丈様、ついにお嬢様を毒牙に………私を倒してから進みなさい!!」


 何故かラスボスの様な雰囲気のレイナ。


「────お、夫!?健一君!?あなた、双葉さんと既に夫婦なの?!?」


 鈴の話を間に受けている風香天然


「────は、ははっ。お昼食べない?………駄目?」

『『…………』』

「────ですよね!!知ってたわ、こんちくしょう!!」


 そんな健一の言葉など意味もなく三人の無言の圧力。鈴は健一に伝えたい事を言えたからかお弁当を未だに突き出しながら一人照れている。


 そんな三人に問い詰められている健一は現実逃避をする様に天を仰ぐ。まだ、地獄は終わらないようで。


 愛莉が来るまで残り────7分。

 


 






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