第13話 喧嘩を制するものは……何を制するの?③



 双葉のその言葉に胸がと痛む感じがしたが正直それがなんの痛みなのか健一にはサッパリ分からなかった。


 今は身体中が痛むから多分それのどれかの痛みだろうと納得する事にした。


 なので健一は頑張ってその痛みを顔に出さない様にして双葉の質問に答える事にした。


「あ、あぁ。好きな人ね……好きな人か……ん?──よく考えたら俺、好きな人出来た事ねぇわ………」

「ん?そうなの?」

「あ、あぁ。俺も今双葉さんに言われて気付いた事なんだけどな……多分だが今までで人を好きになった事が俺は──無い。だって記憶に無いから」


 健一のその言葉を聞いて双葉は驚いた顔をしていた。正直、健一の方が自分で自分の事を驚いていた。


(──おかしいな……何で自分でこんな簡単な事に気付かなかったんだ?俺は彼女が欲しいのは確かだ。だが、今まで俺が告白をしてきた人の中で本当に好きになった人はいたか?──多分いなかったと思う……外見が良かったりしたら直ぐに告白はしていたが、その人を好きになってはいない……じゃぁ、恋って、恋愛って何なんだ?──俺には分からない………)


 考えても考えても何も思い浮かばず、自分が今まで何をしていたんだと頭を抱えて考えていた時、暖かい温もりが健一を覆う様に上から被さって来た。


その時、気付いた──この温もりを。金木犀の様な優しく甘い香りを。この懐かしさを健一は知っていると。──でもそれがなんなのかが分からなかった。


 そんな健一に被さっていたのは双葉だった。


「健一、まだ何処か痛いの?とても苦しそう……先生呼ぶ?」

「──っ!」


 双葉に優しくそう声をかけられた時、何故か、何故か──昔の幼少の頃の記憶を少し思い出した様な気がした。でもそれは所々断片的でどんな記憶かは分からなかった。


 それが知りたくてまた考えようとしたら……健一は涙を流していた。


「はは……なん、だよ?なんでこんなに涙が出てくるんだ?分からねぇ。でも、止まってくれないよ………」

「健一……本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ!おっかしいなぁ?なんで涙が出るんだろう?ま、まぁ?時期止まるよ──止まってくれるはず」


 健一はそう言うが、どうしても、何をしてもその涙は止まらなかった。──でも健一には分かる。この涙は悲しいから流れているのではない。嬉しいから流れているのだと。涙を流す理由は分からなかったが何となく心の中がスッキリした様な気がした。


 そんな中、双葉はそれ以上健一には何も言わず涙を流し続ける健一の頭をただ優しく撫で続けるのだった。



 ◇閑話休題涙が止まらない



 それから30分ぐらい経っただろうか。長い間健一は泣いていた。


 今は涙も止まったが、その間双葉にずっと頭を撫でられていた事を考えたら、年下から慰められた屈辱と恥ずかしさが織り混ざり双葉の顔を上手く見れなかった。


「その……双葉さんごめん。恥ずかしい所見せた。それに今日はありがとう……お見舞いまでこんな長い時間付き合って貰っちゃってさ」

「んーん、私がしたくてした事。それに私こそ今日のデート──偽デートだけどとても楽しかった」

「そか……なら良かったわ」


 健一はそう言うと安堵の表情になった。そんな健一に双葉は提案をして来た。


「ん、それで健一が身体が治ったらで良いけど、また偽デート手伝って欲しいけど……手伝ってくれる?」

「──良いぜ?後輩のお願いだ。それに乗り掛かった船だからなぁ、最後まで付き合うぜ──もしかしたら頼りのない泥舟かもしれないがな?」

「ふふっ──チョビっとだけ期待してる」


 双葉は左手の親指と人差し指で何かを摘む様にしながら伝えた。その時初めて健一にちゃんとした笑顔を見せてくれた。


 その笑顔を見た健一は──


「ははっ、今の双葉さんの笑顔良いな!今の笑顔を見せれば大抵な男はイチコロだろう──勿論悟もな?」

「………健一、は?」


 健一が笑顔を褒めたら健一はどうなのか聞いて来た。


 そんなの初めから決まっている。


「俺か?俺なぁ……勿論イチコロだが親友の想い人を今更好きになる程クズじゃねぇよ?」

「──そう。その言葉を聞けただけで何か自信が出た。──じゃぁ、健一またね?」

「おうおう、夜も遅いから気を付けて帰れよ?本当なら双葉さんを送りたい所だが……今の俺じゃ──無理だからなぁ」

「大丈夫、もうお父さんが迎えに来てるから」

「そうか、なら待たせても悪い。じゃあな!」


 悔しそうに言う健一に双葉は親が迎えに来てくれている事を伝えると、健一と別れの挨拶をして病室を後にした。


 健一以外誰もいなくなってしまった病室内は少し寂しかった。


 でもまた朝が来て放課後になれば双葉が来てくれると約束してくれた。だからちっとも寂しくなんて無かった。


「ふっーー、今日は濃ゆい1日だったなぁ……明日から何しよう?かなり暇だぞ?まぁ……学校が休みになったのは楽が出来るからいいか………」


 独り言を呟く健一だが、何かを忘れている様な気がした。だが、まぁ忘れるぐらいだからどうでも良い事だろうとその時は考えると──悟達、幼馴染に今日見舞いに来てくれた事のお礼のラ○ンを入れると眠りに付いた。


 ──だが、この時健一は気付いていなかった。健一と櫟が作った初めての動画が恐ろしい再生数になっている事を、その時は確認もせずに寝てしまった。


 櫟から沢山の連絡が来ていたのに。



 ◇閑話休題それはさておき



 朝8時頃に健一は起きると看護師が用意した朝食を食べた後、何をしようかとカーテンを全開に開いて何処までも続く青空を眺めながら考えていた。


 その時、昨日双葉と会う前に櫟と初めて作った動画をアップした事を今思い出した。


 昨日は色々とあり忘れていたがどうせ適当にふざけながら作った動画をアップしただけだから、そんなに再生なんてされていないだろうと思い軽い気持ちでYouT○beを開き自分達が出した動画を見たら──


「── oh……wats?」


 と、何故か外人の様に喋ってしまった。でもそれ程驚いたのだ、だって昨日まで登録者数が200人だったのに今はどうだ?── 3万人とかどう考えてもおかしい数字になっていた。それに再生回数も30万回となっている。


 流石に寝ぼけていて他の動画と見間違えたと思い何度も見たが……健一と櫟が上げた「くぬぎ丘のたけやん」とか言う投稿主の名前が出てきた。


 それも昨日上げた動画の題名なんて「野生の帝王がカップラーメンを食べてみた」とかいうクソダサイ動画だ。なのにおかしい事になっていた。


 だって、考えてみてくれ?白と紫色の全身タイツ姿の変態がフリ○ーザに似せた声を出してカップラーメンを食べてるだけの動画だぞ?カップラーメンを食べる時に熱かったからちょっとドラゴン○ールネタを入れたけど、それでもこの再生数とかはおかしい。


「………これどうするの?アレか?なんかネット用語?とかであったけど、バずるだっけか……俺もそこはあまり詳しくないから分からんが──櫟っちに聞こう」


 そう思い直ぐにYouT○beを閉じてラ○ンを開き櫟を探すと……150件という恐ろしい数の通知が来ていた。


 正直それに驚いていたが、それを気付かなかった昨日の自分にも驚いていた。とにかく昨日櫟から来た通知を全部確認する事にした。


 そしたら色々な櫟からの通知が来ていた。それを全部簡単に纏めると──「僕達が上げた動画はネット界隈でバズったよ!Twit○erのトレンドにも載っているから見てみて!」と書いてあった。


「………‥」


 無言で言われた通りTwit○erを開きおすすめトレンドなる物を見たら──「フリ○ーザ系You○uber」というのがトレンドの1番上にあった。


「──ははっ、はははっ!──冗談だろ?そんなバカな事がある訳無いだろ………」


 信じたくは無かった健一だったが、ネットに書かれている事だし、櫟も連絡して来てることから嘘では無い事が証明されている。


流石に驚き過ぎて何も言えなくなってしまった健一は何を思ったのか櫟に直接ラ○ン電話をかけたのだ。


 電話は「プルルル」「プルルル」と2コール程すると櫟が出てくれた。


『もしもし?健一君……だよね?』

「あっはい、健一です……いきなり連絡してしまいすみません」

『ああ、良いんだよ。昨日僕の方でも連絡したけど全然既読が付かないし、電話も繋がらなかったからどうしたのか心配していたから、今元気な声を聞けて良かったよ。多分今連絡をして来たのも僕達の動画の事だと思うけど、先に三丈君が昨日何かあったのか聞いても良い?』

「あぁ、それなんですが………」


 健一はそう前置きをすると昨日あった事を話す事にした。──勿論デートをした事は伝えると面倒臭い事はわかっているのでぼかしながら話した。


 昨日公園を歩いていたら暴漢に絡まれてそのままボコボコにされたから今は病院で入院中、命に別状は無いが最低でも1ヶ月間は動けないから動画の投稿は出来そうに無いと伝えた。


『………そんな事があったんだね。でも三丈君に命の危険は無くて良かったよ。それに動画の件は心配しなくていいよ、僕の方でTwit○erに新しく「くぬぎ丘のたけやん」というアカウントを作ったから今は投稿出来ない事を伝えとくよ、後は動画の方にコメントも沢山来ていたからアンチ以外はしっかりと返しておくよ』

「何から何まで任せっきりですみません!」

『良いんだよ。言ったでしょ?僕達は2人で1人だって、君が苦しんでいる分僕は色々と次の動画の企画とか準備しとくよ。だから、今度また動画を撮れる時は楽しくまた撮ろうね、だからさ三丈君。──安静にするんだよ?』

「はい、分かりました。色々とまたご迷惑をおかけしますと思いますが宜しくお願いします!」

『ふふっ、了解。今度三丈君が復活したらご飯でも食べに行こうね!』

「はい、楽しみにしています!」


 そう言い、健一と櫟は通話を終えた。


「良かったー、櫟っちもそんなに怒ってなかったな……それどころか心配してくれたたよ、良い人と巡り会えたな。今俺が出来ることは早く傷を治すことか……櫟っちに言われた通り安静にしておこう」


 その後は双葉や健一の幼馴染達がお見舞いに来たり、櫟と次の動画について電話で話し合ったり充実な日々が過ぎていった。


 丁度1ヶ月程経った時、病院の先生から完治したからもう退院しても良いと言われた。


予想よりも直るのが早かったからなんでなのか先生に聞いたら「若いから治るのが早いんだろうね」と言われた。


 若いって良いね!


 入院中で変わった事と言ったら双葉さんと呼んでいたが、今ではと呼ぶ様になった事だ。は何か堅苦しい感じがするからやめて欲しいとの事だ。


 まぁ、双葉の健一の呼び名は変わっていないが。後は健一に酷い事をして来たレイナとの和解をしっかりとした。今では普通に話す中だがちょくちょく弄って来るのがうざい。


 その後は退院した事を良い気になり、櫟だけに退院した事を話しそのまま高校に登校したら先生は勿論。悟達にも物凄く怒られた。



 ピエンそれはさておき



 動画も櫟と沢山作りそれをアップしたらまたバズってしまった。


 その後は喜んだが、慢心したらいけないと思い初心を忘れないように心掛けて動画制作を取り組んだ。


 双葉とも何回か偽デートをした。その時は毎回ついて来るレイナと色々あったが、中々楽しかった。



 ◇閑話休題過去の回想終わり



 YouT○beの話を考えていたら、昔の出来事を想い出していたような気がした。──が、今はそんな事よりも夜も遅いから早く帰り夜ご飯を食べて寝なくてはいけない。

 

 だって明日もまだ朝から早い学校生活があるのだから。


「はぁー……そういやあん時も彼女を作らないとか言ってたっけ俺……それも今となっては1000回も告白をして惨敗と……何やってんだろう俺──潔く諦めよう。俺の彼女探しはもう無理だろ」


 健一は今回の出来事でキッパリと彼女探しを諦めることにした。


 諦めることにしたが、何か気になる事がある、それが何なのか分からないが何かがおかしいのは分かる。だって、前回の1年前も双葉を助けた時に彼女を作らないと誓った筈なのに気付いたら女性に告白をしている自分がいた。


 なら、告白をするなと思うかもしれないが、気付いたら1000も自分の意思とは反対に告白していたのだ。


 これは「何かの病気か呪いか?」とも思った。だががそんな事、ファンタジーじゃあるまいしこの現代にある訳が無いと、健一はそれ以上考えるのをやめた……それよりも目先の事が心配だった。


「──明日も学校とか面倒臭……世界滅ばねぇかなぁ〜」


 そんな嘘か本当かわからない言葉を呟き健一は帰路についた。

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