第3話 勘違い②


 双葉は双葉でいつもの無口が嘘の様に流暢りゅうちょうに喋り出し、健一の事を赤子でも見るように微笑んできた。


 ただ、そんな事を言われた健一は屈辱の一言に過ぎる為、ありもしない記憶を捏造ねつぞうして話す事にした。


 ──言わなければ後から変な事にならなかったはずなのに。


「ばっ!バッカお前……本当に俺はモテるしぃー!モテモテでしょうがないんですけど!?……それに猥褻な行為?痴漢?そんなの序の口だろ!俺はもっと上に行ける男だぜ?なんなら今から強姦も出来るぜ!?」

「………‥」


 言ってしまった。モテないと言われて頭に血が昇り、暴走していたと言うこともあるがそんな事を健一は声高らかに双葉に言ってしまった。


 双葉はさっきまでは優しい表情をしていたが、健一の話を聞いた直後。それも身を潜め、今は道端で汚物でも見た時の表情になると健一から視線を離すと無言で内ポケットから取り出したスマホを操作しだした。


(──俺、なに言ってるんだよ!?いくらモテないと言われたからと言っても暴走し過ぎた。それよりさっきから悪鬼あっきみたいな表情で双葉は何をしてるんだ?)


 健一が変な事を言った直後恐ろしい表情になり、今も尚スマホで何かを操作している。そんな双葉が気になったので聞いてみる事にした。


「な、なあ?双葉?双葉さーん?聞いてる?」

「………‥」


 健一は懸命に話しかけたが、一向に顔を向けてくれないし聞いてもくれない。


 ただ手に持っているスマホを弄るだけだった。それが何か分からないが異様に怖かった。それから何も起きないまま数分が経つとようやく顔を上げてくれたのでさっきの事は冗談だと伝える事にした。


「やっと顔を上げてくれたか──双葉、さっきの事は冗談だからな?間に受けるなよ?」

「──連絡した」

「は?連絡?何に?」

「………‥」


 冗談だと伝えたが、双葉は何かを連絡したと言ったきり、無言になってしまった。



 ◇



 そんな双葉の様子が怖くなり、もう一度に連絡したのか聞こうとした。

 

 その理由はもしかしたら健一が今本当に強姦をするかと勘違いして警察に連絡を入れた恐れがあるからだ、流石に無いとは思うが最悪のパターンは払拭ふっしょくしときたいから伝えようとした。


「双葉?本当に聞いて……んあ?」


 「聞いてくれ」と健一は言おうとしたが、もうすっかりと真っ暗になっている空から「バタバタバタ」と何かが風邪を切る音が聞こえた為、空を見上げたら──航空機こうくうきが健一達の頭上に飛んでいた。


 それも三機も空で低空飛行ていくうひこうをしている。その状況を見て健一は口を開けたまま何も言えなくなって唖然あぜんとしながら空を見上げていた。


 人間とは想定外な事が起こると脳の処理が追いつかなくて大体の人は無言になる物だ。


 ただ、言える事はマジピエン助けて


「………‥」


 航空機とは、よく自衛隊の人達が乗っている迷彩柄めいさいがらの戦闘機の事だ。訓練や様々な任務を行う時に使われているが、人1人が簡単に呼べる様な物ではない。


 ではそんな物を誰が呼んだと言うと──一人しかいない。ここ日本で三大財閥と言われている双葉財閥の令嬢、双葉鈴の手によって自衛隊は呼ばれた。


 健一は何も言えないまま未だに唖然と見ていると、空中で低空飛行をしていた一機の航空機が広い屋上に降り立った。


 降り立った途端、中から迷彩柄の服をまとった人達が瞬時に5人出てくると銃を持ちながら鈴の元に来た。


 その中のリーダーと思われる人物が、双葉の目の前で片膝を付くと安否の確認を取り出した。


「──鈴様!我々双葉家直属の自衛隊が只今到着致しました!お怪我はありませんか?」

「ん、大丈夫。それよりさっき伝えた通りにして」

「はっ!分かりました!お前らその男を取り押さえろ!!」

『はっ!!』


 リーダーが他の自衛隊の人に声をかけると惚けていた健一をすぐ様囲み、地面に縫い付けると動かない様に羽交い締めにしてしまった。


 された健一は何をされたか一瞬の出来事だった為わからず。ただ、カエルが潰れた様な泣き声を上げることしか出来なかった。


「グエッ!?」

『鈴村様及び他の人達に卑猥な行為をしようとした男──確保!!』


 健一を取り押さえた自衛隊の人達はリーダーと双葉にそう伝えた。取り押さえられている健一本人は今、何が起きてるのか分からずパニックになっていた。


(ちょっ!?何々!いきなり戦闘機らしき物が来たと思ったら自衛隊の人に取り押さえられるとか訳が分からねぇ──ぐっ!地面に顔を無理矢理抑えられてるから上手く話せないし………)


 健一がその場からどうする事も出来ず、無駄な抵抗をしていると双葉達が話しだした。


「鈴様、私が意見を出すのもおこがましい事ですが、この少年を取り押さえました。が、本当に警察に受け渡しても宜しいのですか?空から少し様子を見させて頂きましたがこの少年は──鈴様のご友人ではないのですか?」


 リーダーが双葉にそう聞いてくれた事により、健一は助かる一筋の希望が見えた。


(そうだ、良いぞリーダーさん!もっと双葉に言ってやれ!この後警察に捕まるとかマジ勘弁なんで!)


 健一が心の中で警察に捕まるのは勘弁と思い双葉に助けてくれとアイコンタクトをとった。


 当の双葉はそんな健一のアイコンタクトなど見ていなく、今一番言って欲しくない一言を自衛隊に伝えた。


「──健一は友人。だけどその友人が間違った道を進もうとしてるのを止めるのもまた友人の私の務め。他の人に迷惑をかける前に私が、終わらす」


 双葉のしっかりとした考え、それに昔より成長した双葉を見れて自衛隊の人達は感銘かんめいを受けていた。


「──そうですか。鈴様にも考えがおありでしたのですね。分かりました。このおうぎしっかりとこの鈴様のご友人を警察の方達に無事届けましょう!」


 リーダー、改めて扇という男性は双葉の命に従い健一を警察署に連れて行こうとした。だが、健一はそんな理不尽訳がわからないな事があってたまるかと思い暴れだし抵抗をした。


(うがぁー!こんな事で警察に捕まるなんて屈辱だわ!周りにも親にもなんて説明すれば良いんだよ!多分捕まっても俺は未成年だからそんなに罰は無いと思うが──今後に響くから嫌だー!)


 健一は捕まってしまった後の事を考え、どうにかしてこの状況を唾棄するために色々と考え、無駄な抵抗だと分かっていても暴れだした。


 そんな健一を見て何を思ったのか扇が双葉にある事を提案する。


「──鈴様、もしかしたらこの後当分の間この少年とは会えないかもしれません。最後に伝える言葉があるなら今伝えてあげて下さい」

「………ん、分かった」


 小さく返事を返した双葉は自衛隊に今も尚取り押さえられている健一の元に向かった。


健一も双葉が近付いてくるのに気付いたので暴れるのを辞めて喋る事が今は出来ないので話を聞く事にした。


「健一、残念だけど今の暴走している貴方じゃ真面な考えが出来ないと思うから、この後一度刑務所に入って今の考えを冷静になって考えて。それでもまだ強姦をするとかふざけた事を言うなら徹底的な調──指導も辞さない」

「………‥」


(だから!真面な考えはもうしてるわ!喋れないから何も言えないけどね!!それに最後絶対お前調教って言おうとしただろうが!──双葉の野郎この状況を楽しんでやがるな………)


 双葉にそう言われたが、何も喋る事が出来ない健一は心の中でそう考えることしか出来なった。なので何かを訴える様に無言で双葉を見つめていた。


 見つめられていた双葉は何かを感じ取ったのか自衛隊の人達に健一の拘束を少し緩めて喋れる様に伝えた。


「………扇、この状況じゃ健一は何も喋れないと思うから喋れる様にしてあげて」

「はっ!お前らその少年の頭の拘束を少し緩めて喋れる様にしてあげろ!」

『はっ!』


 扇に言われた他の自衛隊の人達は何も文句を言う事なくすんなりと健一の頭の拘束を緩めて話せる様にしてあげた。


ようやく解放された健一はまず話す前に呼吸を整えると双葉達に勘違いだと伝える事にした。


「はぁー、ようやく息が出来る。やっと喋れるわ。まず双葉、俺の話を聞いてくれ」

「ん」


 健一の言葉に短くだがしっかりと返事を返してくれた。


その様子を自衛隊の人達は静かに見つめている。


「さっきの俺の強姦とかあれは冗談だからな?ちょっとムキになって口に出ちまっただけだから。それも俺がそんな事出来る訳ないだろ?だから俺の拘束を解いてくれる様に伝えてくれ!」

「………‥」


 健一の言葉を聞き、しばし無言になった双葉は少し考える仕草をすると答えが出たのか口を開く。


「ん──健一はまだ反省してない。取り押さえて」

「何でだよ!?待て、話し合いが出来るのが人の特権だべっ!!?──」


 双葉の言葉にツッコミを入れながらも話を聞いてもらおうとしたが、双葉の命で直ぐ様に動いた自衛隊にまた取り押さえられてしまった。


「健一、私は残念。頭が良い貴方ならもっと真面な考えを出すと思っていたけど、もう既に頭の中が性欲で支配されているみたい。次は刑務所の面会室で会う。その時は冷静になっていて」

「………‥」


(これ……もう詰んでね?双葉は何も聞いてくれないし──)

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