第2話 勘違い①



 そう、健一が呼んだ女子生徒は目の前にいる双葉鈴ではない。


 なのに彼女が来てしまった、そんな双葉は健一の叫びなんて聞こえてないと言うように無表情で見つめていた。


「これ」


 この状況どうするかと思っていた時、双葉が持っていた手紙を渡して来たので反射的に受け取ってしまった。


「ん?これは……手紙だよな?誰からだ?そもそもこれを俺が見ていいのか?」

「良いと思う。健一に渡してと言われた」

「………そうか、じゃあ拝見させて頂こう」


 年上を呼び捨てにするなとか言ってやりたかったが、いつものことなので黙認する事にした。


手紙の中身を見てみたらこんな事が書いてあった。



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       三丈健一様へ


 今日は三丈先輩と屋上で大切なお話をするおつもりでしたが、行く前にある友人から三丈先輩のお話を聞き、会いたくなくなりました。はっきりと言うと……生理的に無理なので、これからは近寄らないで下さい。


 手紙を渡すのも嫌だったのでその友人に伝え、届けて頂く事になりました。


 今後はもう会う事は無いと思いますが、もし三丈先輩が私の目の前に現れたら容赦なく警察に通報を入れます。


              九条実里くじょうみのりより


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「………‥」


 手紙を読んだ健一は情報量が多過ぎて脳がキャパオーバーしてしまったのかその場で動かなくなってしまった。


 その様子を見ていた双葉は健一に近づくと持っていた手紙を奪い、そのまま自分のポケットに入れた。


「一応、届けた。私の友人が変態にそそのかされそうになっていたから、魔の手から救った。私は偉い」


 いつもの無表情を少しドヤ顔にして言う双葉を見て、健一はトリップしかけていた脳を働かせて今起きた事を考えてみる事にした。


(──惚けてる場合じゃないな、俺は今日九条ちゃんに告白をしようとした。だが途中に友人……恐らく今、目の前でドヤ顔?をしている双葉に何かを言われたから今日来なかった、なら双葉に直接聞いてみるしかないか)


「──なあ、双葉。聞きたい事があるが良いか?」

「………ん?何を聞く?スリーサイズ?好きな人のタイプ?」

「いや、別にお前のスリーサイズも好きな人のタイプもいらないんだが………」


(──てか、双葉は見た感じ色々と小さいって分かるし、好きな人も知ってるからそんな情報本人から聞いても何の得にもなんないわ)


 心の中でそう考え、的外れな事を言う双葉に頭を悩まさせながらも手紙の事を聞く事にしたが、何故か双葉がジト目で見て来ていたので健一は「何かしたか?」と思っていた。


「──健一、今、変な事考えた?顔で分かる。何を考えた?」


 双葉からそんな事を聞かれた。だが健一は惚ける事にした。


「──ん?何も考えてないが?強いて言うなら双葉は今日も可愛いな、ぐらいだな」

「──っ!!」


 健一のその場凌ぎの言葉だったが、効いてくれたようで双葉は少し照れているのか下を向いてしまった。


 その様子を見て健一は内心ヒヤヒヤしていた。


(あぶねぇー!?変な事を考えたのは俺が悪いが、そんな顔に出てたか?……まあ良い、危機は逃れたようだから話の続きをするか)


「ま、まあ。その話は一旦置いといてだな。まずさっきの九条ちゃんからの手紙の件を教えてくれ。手紙を渡しに来てくれたって事は双葉も事情を少しは知ってるんだろ?そもそもある友人に聞いたってあるけど──あれ、双葉の事だろ?」


 健一は今も少し悶えてる双葉に聞くと、話を聞いていてくれたのか顔を上げてくれた。その顔はまだ少し赤らんでいたが。


「………手紙にも書いてあったと思うけど、健一が気持ち悪いから会いたくないと言っていた。それに──実里に伝えたのも私であっている」

「そ……そうか」


 言い訳など何もしない双葉に逆に驚き、何も言えなくなってしまった。


 だが、健一は手紙の最後の一文がどうしても気になったのでそれだけでも知りたかった。


「そのな?双葉が九条ちゃんに何かを伝えて今日来なかったのは分かったが、手紙の最後にあった「目の前に現れるだけでも警察に通報する」ってどう言う事だ?俺の何を双葉は伝えたんだ?」


 健一もこの高校に来て1年過ごし、色々とやらかした自覚はある為、自分が他の皆からどう思われているかは知っている。だが、流石にいくら友人から何かを言われようがなんて物騒な言葉は出ないと思う。──思っている。会わないだけならまだしも。


 双葉は健一の話を聞くと話し出した。


「ただ」

「ただ?」

「………健一は猥褻わいせつな行為や痴漢ちかんをよくする変態だから少し考えた方が良いと伝えただけ」 


 双葉は純粋な目をして健一にそう伝えた。本当にそう思っているのかその双眸には今はいらない信頼が久々と伝わってくる。ただ、そんな事を言われた健一は黙っているわけにもいかなく。


「「伝えただけ」じゃないわ!?それに猥褻と痴漢だー?そんな事やった事ないわ!」

「──そうなの?」


 信じていないのか首を傾げていた。


「当たり前だろうが!?」


 双葉の少し首を傾げる姿は可愛かったが、今はそれよりも名誉不遜めいよふそんな言いがかりを止めたかった為、健一はツッコミを入れた。


「………そう。でも噂されている。健一がそう言う事を他の女子生徒にやってると、だから自分の友人が毒牙どくがにかからないように伝えた──屋上に行けば三丈健一に強姦されると」

「さっきより酷くなってるわ!それに女子がそんな言葉を使っちゃ駄目だろ………」

「ん、気をつける」


 女子がそれも財閥の令嬢がそんな言葉を使っては駄目だと伝えたら、しっかりと分かってくれた様だ。


 双葉は聞き分けが良く、とても可愛い後輩だ。だが、何かズレているような気がして、健一はあまり関わりたくないと思っている。


 ──他に関わりたくない理由はいくつかあるが、今はいいだろう。


「噂ねぇ……また変な噂が1人歩きしてるのか、人の噂は75日続くと言うが俺の噂は何故か信憑性が付いて一向に止まる気配がないしなぁ」


 気怠げに言う健一だが、自分が引き起こしてしまった事に尾びれが付き、今も噂をされている状況だ、後の祭りだと分かっているので自分からはそれ以上は何も言わない。


 そんな健一の様子を見て言い過ぎたと思ったのか双葉が頭を下げて謝ってきた。


「ごめん、健一」

「ああ、いや、別に双葉が謝る必要はねぇよ。九条ちゃんの件は少しは反省はして欲しいが、元々の原因の噂は俺が招いた事だからな」


 健一は辛気臭い表情を辞め、双葉に笑顔を向けるといつもの無表情を少し和らげた様な表情に変わった。


「ん、でも本当にごめん。健一は異性にモテないから腹いせに猥褻な行為や痴漢を働いたと思っていた。でもそれも私の勘違いだった」


 双葉には一切悪気は無いのだと思うが、と言う言葉を聞いた健一は少し眉を吊り上げると双葉の間違いを訂正した。


「そうそう、勘違いだよ──けどな?はちょっと辞めてもらおうか?俺だってやろうと思えばモテるんだぜ?これでも恋愛マスター(ゲーム内で)って知り合いから言われるほどだからな!」


 その話を聞いていた双葉は無表情の表情を可哀想な物でも見るような表情に変え、優しく健一に言葉を投げかけた。


「健一、無理はしなくていい。私は分かっているから、健一が今まで約1000回も告白を断られているのを知っている。だからそんな嘘は良い。──ほら、探せばもっと良い人は近くにいるから、ね?」

「………‥」


(いや、何で俺が1000回女子に振られてる事知ってるんだよ!?口には出さねえが怖えよ!それも噂で流れてるの?マジで誰だよ。流してる奴──それより、俺の他に1000回も告白を断られている奴なんている?いねぇ「自主規制」)


 そんな事を声には出さずに考えていた。

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