第10話 デート?違う、デットの間違いだ!②
◆
健一が選んだ店は本格的なイタリアンなお店だった。
ただ、それが功を成したのか運が良いことに双葉はイタリアン料理が好きなようで健一のお店のチョイスに大喜びでトマトパスタを頼むと美味しそうに食べていた。
健一がこんな店を選ぶのも意外かもしれないが、この男健一はデートは妥協をしないタイプだ──まぁ、今まで一度もデートなんてした事はないが。
「どう、双葉さん?結構雰囲気あるし良いお店でしょ?ここね悟が教えてくれたんだ?俺じゃあ良いお店は選べないからね………」
「………そうなの?悟先輩が?」
「そうそう、勿論双葉さんの事は何も言ってないよ?家族と今度ご飯に食べに行くからって嘘をついて教えてもらったんだ」
「そうなんだ、ありがとう。もっと悟先輩の事──教えて?」
「任せてよ!悟はね──」
健一は悟の事だったら今までほとんどの時間を共有して来た親友なので大体な事はわかる為、嘘偽りなく双葉に面白く悟がどれ程凄い男か教えてあげた。
◇
「──ありがと。悟先輩の事色々と知れた……健一は良い友人なんだね?」
「いやー俺は良い友人かは分からないが悟はとても良い友人だな。うん!双葉さんもお目が高い……それと健一じゃなくて三丈で良いよ?──出来たら悟みたいに先輩と付けて欲しいなぁ〜……なんて?」
健一はそう聞いたが。
「ん、無理。三丈はなんか言い難いし健一に先輩の敬称は似合わない」
と言ってきて、どうしても先輩と言ってこない後輩に健一は「さいですか」と言うとがっかりしていた。
健一の夢は後輩に先輩と言って慕われる事だった。でも、今も継続で誰も自分の事を「先輩」と言ってくれる人は現れそうにない。
高校の連中は絶対言わないだろうし、悟の妹の未央なんて「カス・クズ」と言うのは当たり前。この頃はその中にゴミも入る始末だ。
「──そう、まあ俺の事は良いや。この後はご飯を食べ終わったら少し休憩を入れてショッピングモールにでも行こうか?」
「ん、それも健一に任せる」
「ああ、任された」
健一と双葉は昼ご飯を食べ終わったのでその場で少し休憩を入れると、ショッピングモールに行くために今までいた店から出て歩き出した。
今日駅で会った時は緊張していたのか双葉は全然喋ってくれなかったが、今となっては慣れてきたのか無表情は貫きながら健一と楽しそうに話しながら歩いていた。
(良かった。なんとかデートぽい雰囲気は出せてるの……かなぁ?双葉さんも最初よりは緊張がほぐれたみたいだし。正直俺じゃデートの相手なんて出来ないと思っていたから楽しそうな双葉さんを見れて安心したわ)
健一が内心、安心しながら次のショッピングモールではどんな風に楽しませるか考えていた。そんな時、近道を使う為に人目が少ない路地を選んだ。
──だが、それが不味かった。
前から歩いて来るヤンキーの様な見た目の男達に話しかけられてしまったのだ。
「おいおい、そこのカップル?──いや顔が釣り合ってないから友達か?まあ良い。そこの男女ちょっと俺らと付き合ってくれねぇか?」
「そうそう、もしかしたら楽しい事……できるかも知れないぞ〜?」
ガラの悪い男達2人に健一と双葉はそう話しかけられてしまった。
普段の健一だったらそんなもの話しかけられても素通りするだけだが……今回は双葉も一緒にいる。その双葉が男達に話しかけられた事で足を止めてしまったのだ。
(──チッ……面倒臭い奴等に絡まれたな、それに俺と双葉さんが釣り合っていないのなんて最初から分かってるわ!このボケカス共!一言多いんだよこのアンポンタンがッ!)
健一は内心暴言を吐きながらもこの状況をどうするか考えていた。隣の双葉を横目で見ると目の前の男達が怖いのか震えていた。
(そりゃあそうだよな。双葉さんはモノホンのお嬢様みたいだしこんな事に遭遇した事ないわな)
そう健一が思っていると震えながらも双葉が小声で話しかけてきた。
「け、健一……どうしよう」
「双葉さんはそこでじっとしててくれ、こういう相手は俺が対応するからな?」
「………大丈夫なの?」
心配そうに聞いてくる双葉に笑顔を向けると安心させるように話しかけた。
「おう、任せとけって!今は偽でも君の彼氏役だぜ?絶対守るからさ!だけど危なさそうだったら俺を置いてもいいから逃げてくれよ?」
「うん……分かった」
納得してくれたのか双葉は頷いて健一の近くから少し離れた。
その様子を確かめた健一は男達に顔を向けた。
「………待っててやったが、見せてくれるじゃねえか?だがどっちも流す訳がねぇがな……ある人物からお前らを脅してくれと頼まれてるからな」
「………何だと?」
男の今言った言葉が健一には何か引っかかった。ある人物としか言っていないが健一にはその人物が誰なのか何となくだが分かった。
(最初はあんなに邪魔してきていたあの銀髪の女が何もしてこないと思ったら──こういう事か?双葉さんは知り合いじゃねぇのか?)
銀髪の女と目の前の男達が繋がっていると決まった訳では無いが少し探ってみる事にした。
「なあ、あんたら。俺達を狙うように誰かに言われたみたいだが誰に言われたんだ?」
「──はっ!答える訳ねぇだろ?これでも相手側からは金を貰ってる身だからな。それに今から俺らにボコボコにされるお前が知る意味は──無いだろ?」
「──テメェ」
男にそう言われた健一は教えてくれそうに無いからどうするか悪態を吐きながらも考えていた。
(………1人だったらどうとでもなると思うが相手は2人もいるし、背後には双葉さんがいる……でも俺の考えている通りあの銀髪の女が関わっているなら双葉さんは……大丈夫──なのか?今、目の前の男も俺をボコボコにすると言ってただけだもんな………)
双葉は助かるだろうからと思い健一はどう動くか考えていた時、目の前の男とは違うもう一人のヒョロイ方の男が声を上げた。
「ちょっ、リーダー!あの女に男の方を痛めつけるだけで良いと言われましたが、女の方は逃して良いんですかい?かなりの上玉ですよ?」
その話を聞いていた健一はあの銀髪の女で確定だと思った。
「バカ!お前バラすんじゃねぇよ!?……まあ良い。バレたならバレたでやりようはある、あの女は多分手を出しちゃいけねぇ人種だが、目の前のこいつらだったら──バレなきゃ良いだろ」
「………ひっ!」
そう言うと男達は双葉にイヤらしい視線を向けていた。その視線に気付いたのか双葉は少し悲鳴を上げた。
そんな双葉を自分の体で視線から隠すようにする健一だが、今の状況はさっきよりも中々ピンチな状況になっていた。
(チッ、あのヒョロガリのせいで双葉さんまで標的になっちまったじゃねえか、あの銀髪の女もそうだ……選ぶならもっとマシな人種を選べや……でもあの銀髪の女で確定なら双葉さんは安全だろ。なら俺が耐えるだけか………)
もうこの状況は逃げられないと察した健一は、あの銀髪の女の思惑通りこの男達と闘う事を決心したのか双葉に近付くと小声で声をかけた。
「………双葉さん。今から俺がこの男達を抑えとくからさっきも言ったが君はその内に逃げるんだ」
「で、でも、目の前に大人が2人もいる……健一じゃ勝てない!」
「はははっ、心配してくれるとはありがてぇ……だけど大丈夫。こういう状況には慣れてるからさ。だから俺を置いて逃げてくれよ?人を呼ぶとかもしなくて良いから、後ろを振り向く事なく走るんだ。──いいな?」
健一がそう言うと双葉は今までに無い真剣な表情で双葉を見てきた。
「………本当に、大丈夫?」
「当然!俺は嘘はつかねぇ。それに君は悟の彼女になるかも知れない子だ。そんな子を危ない目に合わす訳にはいかないからなぁ」
「ん、分かった。また後で合流しよう」
「おう」
話がついた双葉はその場から逃げようとしたが……男達はそんな事をさせないと健一達の事を囲い込んだ為、双葉はその場から離れられなかった。
「お前等馬鹿だな。小声で話し合ってたけど今からお前らが何をしようかなんて最初から分かってるわ!どうせその女だけでも逃がそうと思ってるんだろ?」
「………だったら、何だよ?」
「図星を言われたからってそう怒るなよ……まあただ、お前をその女の目の前でボコボコにして後はお楽しみタイムと行かせて貰うだけだ」
「「ぶはははははっ!!」」
そんな事を言うと男達は何がそんなに楽しいのか馬鹿笑いをした。
だが、そんな事をやらせないと思った健一は余裕からかそんな馬鹿笑いをあげている1人の男向けて渾身のタックルをかましてやった。
「これでも食らえや!!」
「がふっ!?」
健一がいきなりタックルをしてくるとは思わなかったのか馬鹿笑いを上げていたヒョロガリは健一と共にその場で倒れてしまった。
自分の作戦が成功した健一は男を押さえながら双葉に叫んだ。
「双葉さん!!逃げろ!」
「──っ!!」
でも、それでも今の状況に恐怖を抱いているのか双葉は上手く声も出せないし動けないらしい。
そんな双葉を見ていた健一は少し苛つき声を荒らげた。
「逃げろと言っているだろうが!?動け!走れ!双葉!また後で会うんだろ!?なら……逃げろよ!」
「──っ!!う、うん!」
やっと健一の言葉が通じてくれたのか、健一が押さえ込んでいる男がいた抜け道から逃げていった。
運が良い事に他の男も健一がいきなり襲いかかってくるとは思わず動けなかったから双葉は無事逃げることが出来た。
(良かった……最後ちょっと口が悪くなったけど無事逃げてくれたみたいだ。後はこの状況をどうするか………)
健一が次どうするか考えようとしていた時、他のもう一人の男に顔を殴られその場から転がっていってしまった。
「がはっ!?──くそっ!」
殴られた痛みに耐えながらも直ぐに起き上がったが、さっき健一がタックルをして倒した男は既に起き上がっている。今は健一の事を憤怒の目で見てきている。
「テメェ、やってくれるじゃねえか……良いぜ、そんなに俺達にリンチをして欲しいならお望み通りしてやるわ!!」
「ああ!殺してやる!!」
その最悪の状況の中、健一は笑っていた。その笑みは別にこの状況が余裕だからでは無い。──その逆の切迫の状況で絶望なのだ。だから健一は無理にでも笑っていなくては恐らく立ってもいられないだろう。
さっき双葉にこういう喧嘩みたいな事は慣れていると言ったが──そんなのは嘘だ。
嘘も方便とよくいうだろう。健一は少しでも双葉を安心させる為に嘘を付いたのだ。それに健一はただの学生で喧嘩なんて生まれてこのかた真面に一度もやった事がない男だ。そんな状況でこの状況は怖くて堪らない。
だけど──
「男には、無理だと分かっていてもやらなくてはいけない時があるんだよ!だから俺は逃げない。お前らなんて怖くなんてねぇよ!!」
そう男達にも自分自身にも伝えるように魂の啖呵を切った。
その状況を見た男達は「ただの痩せ我慢だろう」と思い健一へとゆっくりと笑いながら近づいて来る、そんな男達を見た健一の内心は。
(怖い、逃げたい!怖い、逃げたい!怖い、逃げたい!怖い、逃げたい!──でも、でも!ここで逃げたら双葉さんに追いついてしまうかましれない。せめて逃げる時間だけでも稼がなくては……足が震える。歯が軋む。身体が動かない。でも、無理やり動かすしかないだろ!)
無理矢理にでも健一はそう考えると自分から男達に突っ込んで行った。
「うおおオォーー!!怖くなんてあるもんかぁー!!この──クソッタレ共がっ!?」
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