第15話 能力者?



 だが、流石に自分の方にほとんどの女子達が指を指しながらヒソヒソと話している光景はいくら鈍感な健一でも何かがおかしいと気付いたのか、自分の背後を見た。


「………何もいねぇじゃねえか……女子達が朝から騒いでるから、不審者でも現れたのかと思ったわ」


 何かを勘違いしたのか自分では無く、背後に不審者でもいるかと思っていた健一だった。でもそれはあながち間違いでは無い。──女子生徒達からすれば健一は間違いなくなのだから。


 俺は関係ないから良いやと素通りしようとしたが、放って置く事の出来ない言葉を健一の耳が捉えたので立ち止まってしまった。


「恐ろしいわ……あのお方が2年生のという人物なのですね。何か他の人とは違うオーラを出していますわ………」

「そうなのですよ……それに、ここだけの話なんですけどね、あのお方と目を5秒合わせると──「」してしまうらしいわ!」

「──そんな!?じゃあ私達は………」

「えぇ、もうあのお方と目を5秒合わせてしまったわ──どうしましょう………」


(──いや、何もどうもしなくても良いわ!何だよ俺と目を5秒合わせると「妊娠」するって!!そんな能力持ってないわ!?マジで誰だよそんなデマ流す奴………)


 流石に健一もその女子生徒達の会話は無視出来なかったので、心の中でツッコミを入れてしまった。


 健一はちょっと間違いを正そうと声をかけようとしたが。


「ちょっと──「キャーーー!?」……おぃ……何故叫ぶ」


 女子達は叫び声を上げてしまった。


「不味いですわ!あのお方、私達に変な事をするつもりですわ!」

「いゃーー!!近付かないで下さいまし!!」


 ただ、話しかけただけなのにパニックになってしまった。健一もどうすれば良いのか分からずその場で途方に暮れてしまった。


「えぇーーー」


(何かヤバい事になったんだけど、これ俺逃げてもこの場にいてももしかしたら生活指導行きじゃね?──それは嫌だ!生活指導だけは嫌だ!!俺が何回受けてきたと思うんだ!!それにあそこ生徒指導室にはがいるから行きたくない!)


 今までの女子への過剰な行為で何回先生方に怒られたか、自分が悪いのは分かるが「次何かを起こせばどうなるか分かっているよな?」とおっかない先生達と自分のから口酸っぱく言われているのだ。 


 健一は内心「ヤバい、不味い、どうしよう」と思っていたら健一の後方から優しげな男子生徒の声が聴こえた。


「やあ、お嬢さん達。どうしたんだい?この男子生徒が君達に何かをしたのかい?」


 ある男子生徒が優しげに健一を指差しながら声をかけると、今さっきまで叫んでいた事が嘘の様に静かになった。静かになったが、直ぐに健一とはまた違うベクトルの騒ぎになってしまった。


「きゃーー!!嘘!?に声をかけられてしまいましたわ!」

「あわわわ……今日の髪型大丈夫かしら!?」


 他の場所でも女子生徒達の騒ぎが起きていた、それを起こした本人は先程名前が出た通り七瀬という。簡単に説明すると健一の親友兼幼馴染のハイパーイケメン男こそ、七瀬悟だ。


 ゆるふわな茶髪を揺らして優しげな目をしながら歩いて近付いてきた。


 健一も声を聞いただけで気付いたのか「悟が来たなら安心だろう」と思い、情けないがこの事態の修復を任せる事にして静観をする事にした。


 でも、悟自身は穏便に済ますわけにはいかなかった。何故なら自分の大事な幼馴染は何もしていないのに、周りの女子生徒達から悪口を言われているのだ。そんな場面を見ていて何もしない男では無いのだ。


 健一自身はいつもの事だからどうでも良いと思っているかもしれないが、悟には許せなかった。


「──君達、もう一度聞くけど……俺の親友の健一は君達に何かをしたのかい?俺は後方から見ていたが、健一は何もしていない様に見えた。なのに君達は悪口を言い、健一が話しかけただけで……その態度はどうなんだ?」

「「──っっ!!」


 憧れの先輩にそんな事を言われた女子生徒達は落ち込んでしまい、俯いてしまった。でも自分達が悪い事を言ってしまった事は理解出来ているのか、健一に体を向けると謝った。


「三丈さんに悪口を言ってしまいました……私はなんて酷いことを………」

「私もですわ、ただの噂かもしれないのに勝手に思い込んでしまい、三丈さんに酷いことを言ってしまいました。七瀬先輩に言われて漸く気付けました」

「「本当に申し訳ありませんでした!!」」


 2人揃って謝ってきた。


 ただ、なんとしてもと呼称を付けない後輩お嬢様達。


 謝罪された健一は──


「お、おう……君達が悪い事を言ったと分かってるなら俺からは何も言わないさ、俺も噂になる様な似た事をやった自覚があるからお互い様という事で」

「「許してくれてありがとうございます、三丈さん」」


 2人の女子生徒にそう伝えた健一だが、内心困惑していた。


(──またかよ……俺が何を言っても聞きやしねぇのに悟が伝えればころっと考えが変わりやがる、まあ、騒ぎが収まればなんだって良いけどな)


 健一はどうでも良さそうに欠伸をしていた。


「よし、3人共和解出来たかな?」


 悟にそう聞かれたので3人は頷いた。和解出来た事が分かった悟は女子生徒達に向き直った。


「君達に強く言ってしまって済まなかった。つい親友が悪口を言われていたからカッとなって君達に強く当たってしまったよ……怖くなかったかい?」

「い、いえ、別に怖くなんて無かったです!それに私達が三丈さんに酷い事を言ってしまったので親友であられる七瀬先輩が怒るのは当然です!!」

「そうです、そうです!それに七瀬先輩に話しかけられて光栄と言いますか、何と言いますか………」

「ふふっ、落ち着いて喋って良いからね?」


 そんなしどろもどろに伝えてくる後輩が可愛くて悟は破顔してしまった。その悟の表情を間近で見た2人の女子生徒は恋する乙女の様な表情になっていた。


 そんな中、間近でそんな恋愛小説のワンシーンのような場面を見せられていた健一は内心毒づいていた。


(分かった、分かったから……和解出来たから早く俺を解放してくれ……何でこんな状況に俺が立ち会わなくちゃならんのだ。甘々な空間は俺には合わんわ……早く解放してくれねぇかなぁ)


 口から砂糖でも吐きたくなるほどの甘い空間に耐えられなくなっていた健一は「どうにかしてここから逃げられないか?」と考えていたら良い案を思いついたので今も尚、甘々な空間を作り出している悟達の横から言葉を投げかけた。


「あぁー、悟達?もう朝のホームルームの時間も始まると思うから早く学校の校舎に入ったほうがよく無いか?話なら後ででも出来るだろ」

「………そうだったな。君達、またこのお返しは後日返すから楽しみにしていてくれ、君達が先生達に怒られたらいけないから先に校舎に入ったほうが良いよ」


 健一に言われて、直ぐにホームルームの時間が迫っている事に気付いた悟は女子生徒達にそう伝えると先に校舎の中に入らせる事にした。女子生は女子生徒で悟に今度何かお返しされると聞き、夢みがちな表情になりながらもしっかりとした足取りで校舎の中に入っていった。


 そんな女子生徒達を見送ったら、悟が健一に今日1の笑顔を向けてきた。


「健一、今日は災難だったな!だけど無事何事も無く解決出来て良かったよ!」

「………あぁ、それは俺も良かったと思っているし、悟には助かったと思っているが──その太陽より眩しい笑顔を俺に向けるのを辞めろ、俺の目が腐る」


 健一はそういうと悟の笑顔防止の為か、何故か持っていたサングラスをかけ出した。


 その光景を見て悟は爆笑していた。


「あはははっ!!健一は今日も面白いな!」

「何も面白く無いわ……ほら俺達もふざけてないで早く教室に行くぞ」

「ちょっ!?置いてくなって!健一!」


 そのまま悟を置き去りにしながらスタスタと歩いていってしまう健一を追う様に悟は駆け出していった。


その光景を見ていたまだ残っていた生徒達は何か不思議なものでも見るように健一達を見ていた。


 それは当然だ。1人は私立星宮高校1の人気者、反対にもう1人は私立星宮高校1の嫌われ者(女子から)。そんな2人が仲良くしているのだから不思議に思うのも当然の事だ。


 悟が健一に信頼を置いているのも当たり前なのだ。今は健一が悟の事をヒーローとでも思っているかもしれないが悟からしたら健一という存在は今も昔ものヒーロー的な存在なのだ。


 昔、お金持ちという事と子供ながら顔が整っていた事で他の子には仲間外れにされていた悟だが、1人だけ自分と仲良くしてくれた男の子がいた。そんな誰も友達が出来なかった悟に手を差し伸べてくれた。


 それが健一なのだ。健一自身も昔の事なんてそんなに覚えてないかもしれないが悟は忘れないだろう、今の自分があるのがこの親友がいたからだと。

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