波乱の幕開け
第43話 来栖家の朝①
◆
時刻は6時30分と、学生が起きるには少し早い時間だ。それでも部活をやっている生徒達だったり会社員はもっと早く起きていたりする。
そんな中、一人の恋する少女は今日という日を万全に迎える為に前日から準備していた事の最終確認の為に早起きをしていた。
「………よし!お弁当オッケイ!身嗜み、オッケイ!!」
そう言うと、最後はアクセサリーが沢山付いている自分のスマホを制服の内ポケットから取り出す。スマホの電源を付けてカメラ機能で自分の顔を見てニッコリと笑う。
「今日の私も……完璧ね!!」
リビングでそんな事を呟いているのは星宮高校の制服に身を包む今をトキメクギャルJKこと来栖愛莉だ。愛莉は一人そんな事を呟くと高校に登校をする最終チェックをしていた。
外見がギャルっぽい愛莉だが、内面はとても優しく、気配りが出来る完璧美少女なのだ。一つ難点があると言えば、好きになった男性が鈍感野郎ということだけだろう。
今日は土日を跨いだ月曜日。
月曜日と言えば学生、社会人関係なく誰もが嫌う曜日だ。ただ、それとは別で今日からは健一と愛莉が約束した「偽彼氏・彼女」をする日でもある。
その為か愛莉は今日の月曜日までにやる事は全て終わらせていた。健一の高校での噂の抹消から始まり、愛莉が在籍している生徒会への根回し、健一が好きそうな身嗜み、後は健一の為に作ったお昼に一緒に食べる為のお弁当だ。
お弁当に関しては金曜日に健一と別れる時に用意すると健一には伝えていなかったが、愛莉なりのサプライズとして用意していたのだ………それが、健一への死のカウントダウンを示しているとは知らずに。
ただ、愛莉が作ったお弁当は自分で自画自賛する程の出来まいだった。以前から(健一を好きになってから)こんな事があると予想していた愛莉は来栖家お抱えのシェフに小学生の頃から弟子入りをしていて、今ではそのシェフから称賛される程のお手前になっていた。なので、自信を持っていた。
「良く言うもんね。男性は胃袋から掴めと。健一も見てる限りだとコンビニ弁当ばかりだから作ってあげたら喜ぶでしょ。それもこんなに超絶・美少女のこの私が手ずから作ってあげているんだから!それも、愛情たっぷりの!!」
誰に自慢をしているのかは分からないがその場でふんぞり変えると自慢の大きな胸を突き出しながら自信の現れか高笑いをあげていた。
そんな時、愛莉がいるリビングの扉が開くと小学生ぐらいの愛莉と似た髪色を肩ぐらいまで伸ばしている可愛らしい少女が目を手で擦りながら入って来た。その少女は眠気まなこのまま高笑いを未だにしている愛莉を見ていた。
その少女は今起きたばかりなのかウサギがプリントされている白とピンク色の可愛らしいパジャマを着ていた。そんな少女は口を開く。
「………お姉ちゃん。朝から騒いでどうしたの?」
「あら?くるみじゃない?おはよう。起こしちゃったかしら?」
少女に気付いた愛莉は背後を振り向くとその少女、くるみにそんな事を言う。
このくるみという少女は愛莉の妹だ。愛莉とはかなり歳が離れていて今は小学2年生だといい、健一が好きそうな年頃だ。………ただ、勘違いしてはいけない。健一が好きと言ってもLoveではなく、likeの方だ。流石の健一でもロリコンは願い下げだった。
まぁ、そんな事は置いといて愛莉の猫がわいがっている妹が現れた。
「お姉ちゃんおはよう。私も起きる時間だったから気にしないで。それよりも何か、良いことでもあったの?」
愛莉の問いに妹のくるみはそう聞いて来た。聞かれた愛莉はそんなくるみに詰め寄りながら抱っこすると自分の嬉しさを告げる様に話す。
「そうなのよ!お姉ちゃんに良いことがあったの!聞いてよくるみ!なんと!念願の彼氏が出来ましたぁーーーーーーー!!(偽)」
愛莉はそう言うと喜びを身体全体で表現する様にくるみを小さな抱えながらその場をクルクルと回っていた。
だが、抱えられているくるみからしたら溜まったものではなく………
「お姉ちゃん!分かった、から!下ろしてーー!」
愛莉に抱えられているくるみはそんな抗議の声を上げて宙でジタバタしていた。
そんなくるみに気付いた愛莉は直ぐ様に動きを止めると申し訳なさそうにくるみを床にそっと下ろす。
「ご、ごめんくるみ!お姉ちゃんあまりの嬉しさに舞い上がっちゃってさ!」
愛莉はそう謝る。くるみは少しボサボサになってしまった髪を手で梳かしているが、別に対して不快に思っていないのか笑いながら愛莉に顔を向ける。
「良いよ、別に。お姉ちゃんが前から話していた好きな人?と恋人さん?になれたから喜んでいるんでしょ?」
小学2年生とは思えない少し達観した様な表情で暴走していた愛莉を笑いながら許していた。
そんな出来た妹に少し驚いていた愛莉だったが「くるみが良いなら」と言い苦笑いを浮かべていた。
ただ、そんな苦笑いを浮かべている愛莉にくるみは気になった事があるのか話しかける。
「確か、お姉ちゃんが好きだって言っていた人は……健一さん?と言う名前の人、だったよね?」
「うん?そうよ?それがどうかしたの?」
くるみの質問にそれがどうかしたのかと思った愛莉はなんでそんな事を聞くのか不思議な顔を作りくるみを見ていた。
そんな顔で見られたくるみは質問の理由を姉の愛莉に伝える。
「うん。前、お姉ちゃんがその健一さんと言う人に私も小さい頃遊んでもらったって言っていたけど記憶が曖昧だからどんな人なのかなぁと思って………」
「あぁ、そう言う事ね。くるみはあの時まだ赤ちゃんだったから流石に覚えてないかぁ〜以前言った様にくるみは良く健一に遊んでもらっていたのよ?」
愛莉の話を聞いたくるみは頷く。
「そうなんだね。でも、その健一さんがお姉ちゃんの恋人さんになればいずれ一緒に暮らすんだよね?……ケッコンするんだから」
「ふぇっ!?」
くるみのいきなりの爆弾発言に愛莉は瞬時に顔を真っ赤に染めると変な声を上げ、その場で硬直してしまった。
ただ、そんな愛莉の事に気付かないくるみは話を続ける。
「私はケッコンについてはあまり分からないけど……うちのパパやママみたいにラブラブするのかなぁ?お姉ちゃんもそんな風になるなら私、一人になるの、かなぁ?」
そんな事を一人呟くくるみは一人になってしまうと思っているのか少し寂しそうな表情を浮かべていた。
そんな妹の言葉を聞いて姿を間近で聞いていた姉の愛莉は硬直している場合では無いと思ったのか、顔をまだ真っ赤に染めたままだがくるみに顔を向ける。
「く、くるみ!大丈夫だから!あなたを一人にする事なんて無いと思うからそんな事を気にしないの!」
「………そうなの?でも、恋人になったら二人の時間の方が大事なんじゃないの?」
愛莉の話を聞いていたくるみは尚も暗い顔をするとそんな事を上目遣いで聞いて来た。
(くっう!そんな暗い表情も可愛い!って、今はそんな事を考えている場合じゃないわ!くるみを説得……というか落ち着かせないと!)
かなり歳が離れている自慢のマイ妹には弱いのか、くるみに上目遣いを向けられた事によりたじろいだが。愛莉はテンパリながらも大事な妹にある事を伝える事にした。
「くるみ、大丈夫よ!私が「もし」その、健一とけ、けけけっ………け、結婚!……したとしてもくるみを絶対蔑ろにしないから!」
結婚と言う言葉を言うのが恥ずかしいのか最大まで顔を真っ赤に染めた愛莉はようやくくるみに伝えたい事を言えた。
「もし」と言う時に強調されていたり、「結婚」と言う時にどもりまくっていたがそれは気にしない事で。
言われたくるみは………
「………本当?」
目をうるうるさせながらそう聞いて来た。
なので愛莉が言える事はただ一つで。
「当たり前じゃない!私はあなたのお姉ちゃんよ?今まで嘘なんてついた事ないでしょ?」
「………うん!私のお姉ちゃんは嘘をつかない!そんなお姉ちゃんが大好き!!」
そう言うと花が咲いた様に笑顔を咲かせたくるみが愛莉に抱きついて来た。
抱き付かれた愛莉はと言うと。
「あはぁぁぁぁーーーん!!」
と、頬をだらしなく蕩けさせると嬉しそうに奇声を発していた。
マイ妹からの抱擁は愛莉の脳のキャパをオーバーしてしまった様だ。
そんな姉妹の百合百合しい抱き付き?抱擁?が5分程続いたと思ったらくるみから抱擁を解いて来た。
その事に少し残念そうな顔をしている愛莉だったが、自分もこの後直ぐに学校に登校してあわよくば健一と会えればと思っているので、時間はそんなに割けないと思っている。なのでなんとか自分を圧した。
(………抱擁は解かれちゃったけどしょうがないわね。私もこの後直ぐに家を出て運が良ければ健一に会って今日からの約束の確認もしたいし。健一の場合万が一忘れている場合があるから………)
そんな事を内心で考えていた愛莉だが、制服の裾を誰かに引っ張られている様な感じがしたので考えるのを一旦やめて目前を見たら……くるみが頬を膨らませてこっちを見ていた。
「もう!やっとお姉ちゃん反応してくれた」
「あぁ、ごめんね?お姉ちゃんちょっと考え事しててトリップしていたわ」
プンスカ怒っているくるみを可愛いと思いながらも愛莉は謝った。
そんな愛莉に「もう!お姉ちゃんはたまに健一さんの話をすると考え事をするんだから!」と怒っていたが、くるみは怒るのを止めるとある事を伝えてくる。
「お姉ちゃん。一つ良い?」
「なぁーに?何でも聞いていいわよ?」
そんなくるみにニッコリと笑いかける愛莉。
笑顔を浮かべてくる姉に妹のくるみは………
「じゃあ、いつ健一さんとお姉ちゃんの赤ちゃんができるの?」
大切な大切なマイ妹の口からある言葉が無邪気な笑顔で紡がれた。"結婚"とはまた別の爆弾発言を投下してくるのだった。
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