0.【コードネーム『死神』7】
トイレから男を引きづり出して連結部から投げ捨てる。
捨てる前に役に立ちそうなものは抜いておいた、このベルトなんてナイフを仕込んだ隠し武器だ。
殺人の痕跡を消してトイレを調べると、荷物入れにトランクが入っていた。
だが文書らしいものも何もない。
(そういえば、死神から何も合図がない。あと五分で終点の『
女を始末すると言っていたが、成功したのか怪しい。
返り討ちに会うことはあり得る話だ、この列車に乗ってからあいつを見ていないことを考えるともう殺されているのかもしれない。)
終点の『
駅の改札へ向かうエルフの婦人の後ろ姿を見た。
急いで列車を飛び出し、追いかける。
(死神はやられた!!トランクのメモはあのエルフの仕業だろう。
エルフは失われた魔法の力をほんの少し使えるだとか聞いたことがある。俺たちが接触した時点で、その能力を使って監視して対策を立てていたに違いない。
死神とは名ばかりの役立たずめ、あのコードネームと態度だけが大きいだけだ。
人の噂なんて尾ひれがつくもの、怖がっていたのが馬鹿みたいだ。)
女を追って辿り着いたのは『
不意に頭上から声が降ってきた。
「あなた〜。あの男のお仲間なの?それとも別の国かしら。私を追ってきたんでしょう?」
「さぁ、何のことだい?」
「とぼけないでいいわ。あの男が盗んだ機密も全部私が手に入れたのよ。協力者に運んでもらって今頃本国についた頃よ。」
「いい声だ、こんな暗い場所じゃなくてバーでその顔と声を堪能したいぜ。」
「ダメよ。貴方は今ここで死ぬのよ。」
(どうにかしてこの窮地を乗り越えなければ、……いや、最後の手段だ。)
「あんた?情報は欲しくないか。金もやるよ。一生遊んで暮らせるぐらいの金どうだ?」
「」
「『霧江』に木を植えた。金と情報だ。証拠もある。俺は写真を持っているそいつの。そいつを探せばいい。」
ザッザッ、地面に着地する音がする。
(掛かった!!)
ベルトの隠しナイフを右手で抜き取って振り向きざまに横に切りつける。
正面から男の声が聞こえる。
「お前は喋りすぎなんだよ。」
空を切る。
しゃがんで俺のナイフをかわし、脇の下に拳を入れられる。衝撃で右腕が上がる。
次に右顔面を拳が突き抜ける。
ズバンッッ
「今まで敵国だけでなく仲間の諜報員も裏切って金をもらう、自国の情報も気持ちいいくらい漏らしていたのだろう。そのおしゃべりな口で。」
女の顔が青白く照らされる。
その目は忘れない、殺気のこもった黒い目。
男の頭から髪が落ちる、俺を騙す為の変装だった。
・・・・・・一体いつから。
いやそんなことはどうでもいい、こいつは俺を殺せない。
俺にはまだチャンスがあるー
「三人目の豚がどこにいるかを聞きださないといけないから殺せないとか考えているだろうな。」
「!?」
「なぁ、お前がもしも忠誠心がある奴なら今も三人目も血眼になって探すのが普通だろ、でもお前は最初から隠すのに必死だった。緊張していた事も情報も嘘も……必死に隠して。
三人目を匿っているのは自分なんだからな。」
「な……まっ待ってくれ。お前にも悪い話じゃないだろ?そもそも俺が口を割らなければあいつの居場所もわかんないだろ?任務も果たせない。金はやる!!命は……」
「三人目はお前が俺に会う前に始末した。」
言っている意味がわからない。
「お前が監視されていないわけがない。昨日のうちに始末した・・・おかげで寝不足だ。一時間ぐらいだがな。」
「それに司令書には、『キジと一緒に、三匹の子豚を加工しろ』お前も始末しろって書いてあんだよ。」
「な……」
殺される、怖くなって足が震える。立てなくなってコンテナに寄りかかる。耳元で死神が囁いた、
「なぁ最初に言っただろう。俺にコードネームは無いんだよ。
正確に言えば、コードネームを知ったものは殺さないといけないんだよ。なぜなら俺は痕跡も正体も知られてはいけない幽霊だからさ。」
男のナイフを持つ手をそっと握って首をかき切る。
血飛沫を噴き上げて男の首が項垂れる。
「鳴かぬキジは撃たれまい……か。」
静かな男の死体を見下ろした後、三船は髪をかき上げた。そして月を睨みつけた。
「死神と呼ばせろだとか、あの野郎ふざけやがって。いつか殺す、『藤巻賢二郎』。」
男の顔は返り血が月の光を反射して青白く輝いていた。
◆
ー時は遡る
「おい、藤巻いつまでそんな格好をしている。」
「気に障ったなら失礼しました〜。ははは、若返った気分であります。上官殿。」
「用事が終わったならさっさと出て行け。お前の趣味には付き合わん、その笑顔は気持ちが悪い。」
「ははは、これから死ぬとも思ってない者がどう思いながら心を挫かれるのかを想像したら楽しくて仕方がないのですよ。では失礼。」
帽子を取った男はそばに置いてある鏡を見て髪を整えると部屋を出ていった。白髪混じりの茶髪のオールバック、色男と言わんばかりの容姿には渋さを感じるしわがある。だが鏡に映った笑顔は全てを台無しにする。
ニタニタとして、邪悪そのものと言わんばかりであった。
「今頃どんなふうに感じているんだろうか。弟くんの意識が無い間に手が汚れていくんだ。兄としては嫌だろうなぁ。面白いなぁ、魂が二つある兄弟。しかも自分で殺しておいてまた生かす、エゴイストだねぇ。」
男はそんなことを考えながら門の前に止めてあった黒塗りの車に乗り込む。
彼の名前は『
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