19.【夢から連れ出して1】
『撮影旅一日目』
機関手を除く全員が食堂車両に集められてメンバーの紹介をした。
確か乗客名簿にはこう記されていた。
【乗客名簿】
撮影会社スタッフ 計十人
監督『ジャコウ・レーシガ』
監督 秘書二人 撮影スタッフ 四人 美術 二人 コーディネーター 一人。
劇団スタッフ 計八人
劇団支配人兼事務所社長『
女優『フレーシス・マグナレット』『清水すみれ』『西川まりえ』
俳優『
会社側 計六名
『三船春ニ』『鈴島麗奈』 添乗員兼連絡係二名 機関士 二名 調理スタッフ 二名
町田さんが一人一人読み上げていく、会社スタッフと撮影会社スタッフの紹介はすんなりとすんだ。
続いて劇団側だが・・・
「俺のこと知らない奴なんているのか~。
この俺の名前は『田城小五郎』。ショーの本場『バサナシア共和国』でも名を馳せてるんだぜ。」
「ねぇ、いつまで聞かなくても前口上を聞かせるの?これ以上不快にさせないで。
ただでさえその汚い口調を我慢してるのに・・・。部屋に戻るわよ。」
西洋風の短いスカートを履いた茶髪の女性が早歩きで出て行った。
「まりえさん!!待って。」
彼女を追いかけて黒髪の和服を着た女性が出ていく。
「あ~・・・そ、そうでした!!
打ち合わせを行いしだい撮影になりますので今日はゆっくりお過ごしください。
何か必要なものなどがございましたら添乗員のお二人か撮影スタッフの方に仰ってください。」
町田が声を上げると皆次々と食堂車両から出ていく。
出て行こうとする麗奈さんの顔は血の気がひいて真っ青になっていた。
人がほとんど出てから麗奈さんを追いかけようとするとバーカウンターで長い煙管を蒸している女性に声をかけられた。
「あなた・・・ちょっとお待ちなさいな。面白い目をしてるわね~。」
「はぁ」
顔をスレスレまで近づけてくる女性は金色の長いうねりがかかった髪に全身黒のドレス姿だ。
一眼見た印象はどこかおとぎ話に出てくる魔法使いのような・・・魔女のような・・・。
「ふぅ~」
煙をかけられる。
「貴方はどちら?表・裏?」
「そんな質問を堂々としてくるということはお前が護衛対象か?」
「そうよ。私が『フレーシス・マグナレット』。貴方には舞台でも守ってもらったわね。」
「一分一秒も無駄にしたくない。挨拶が済んだなら仕事に戻るぞ。」
「三日目の撮影前に手荷物車両の鍵を開けておいて。以上よ。」
「承った。」
雪一は目を閉じる。
「ちょっと添乗員さん。聞いてる?」
「えっ。お客様いかがなさいました?」
「何でもないわ、ふふ。」
食堂車両を出る。
僕は添乗員室へと向かい、添乗員室『001』の扉をノックする。
麗奈さんの部屋だ。
「麗奈さん・・・います?」
少しすると扉が開かれる。
相当弱っているようだ、立つのが辛そうなくらい震えている。
肩を支えて椅子に座らせる。
「春二くん・・・」
椅子に座ったまま額に手を当てている。
「やっぱり辛そうですね、今日は休んでいてください。」
「そんなこと・・・いや、お願いしようかな。
色々思い出して体が震えるの、まさかまたこの列車に乗るなんて・・・。」
僕は少しでも元気づけようと思って思い出話を始めようとする。
「この列車で初めて麗奈さんに会ったんでしたっけ!!
教育係になってくれて、毎日麗奈さんに叱られて。
覚えてます?列車に乗ろうとしたら違う電車で・・・こんなこと言う雰囲気じゃないですよね。」
麗奈さんはうつむきながらポツリと呟く。
「君は覚えてるの?あの事件のこと。」
「途中までは・・・なぜか記憶が途中からないですけど。」
「それはっー。」
突然立ち上がってこちらを見る。目には涙を溜めている。
「いや・・・覚えていないんだもんね。」
互いを見つめ合う、互いに何かを言おうとしている事だけが伝わるがそれを拒むように沈黙が支配する。
言うべきなのか、聞くべきなのか。
沈黙は唐突に終わりを迎える。
「すまないちょっと小道具の準備を手伝ってもらえないか?」
撮影係の男がドアを開けて入ってくる。
「はい、今行きます。それじゃあしっかり休んでください。」
「あ・・・うん。」
麗奈さんにそう告げて、撮影係の男と一緒に出ていく。
出て行く時の彼女はとても寂しそうだった。
添乗員室の近くにある手荷物車両入ってから荷物の確認と目的の小道具の準備に取り掛かった。
中にはたくさんの木箱やトランクが並べられていて、その一つ一つに何が何なのかがわかるようにタグが取り付けられていた。
「俺は全部揃ってるか確認するからあんたはAー13のトランクとBー2を出してくれ。」
指示通りにトランクを探す。手荷物車両の入口から順番にタグを見ていく。
入ってすぐにAー13は見つかった。また順番に倉庫を見て回ると、奥の右の棚にBー2のタグを見つけた。
だがその奥に変なマークが描かれたタグがつけられた風呂敷を見つける。
「よし・・・確認終了。お~い見つかったなら準備しに行こうぜ。」
「あっ、はい!!」
両手に二つのトランクを持ったまま小走りで入口の方へと向かう。
棚のトランクがあった空間の奥にあった風呂敷には、
壺から体をうねらせて這い出てきている百足の絵が描かれていた。
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