グルメ回1話『霧江のお騒がせコンビの優雅な食卓』

列車が『霧江』を出て二日目。


 二人がいない鉄道社。机に顔をくっつけて項垂れる赤い髪の女性がいた。

スカートから出ている尻尾をぶんぶんと振って落ち着きがない。


「せ~ん~ぱ~い~!!い~な~い・・・。」


「おう!!ナトレわかりやすく元気無いな!!」


 後ろから声をかけるのはムキムキの坊主頭の『竹田誠』。


「だっって先輩いないんですもん。つまんない。」


 武田は少し考えて時計を見る。時刻は十一時。


「じゃあちょっと来いナトレータ後輩。俺がいいところに連れて行ってやる。」


 二人が課長の目を掻い潜り、町の大通りへとやってくる。


「何です~。まさかデートでもしようって魂胆ですか?私は先輩だけのものですから。」

「ちげーよ。飯だよ飯、美味いもんくって過ごしていればあっという間に一週間よ。」


「貴方天才ですか。」


 二人は町のメインストリートから抜けて、行列店を通り過ぎ。

通りの端の小さな料理店にたどり着く。


「大将!!今日は二人だ!!ジャンジャン持ってきてくれ!!」

「誠!!おまえツケも払わねぇで・・・おぉ?べっぴんさんが・・・」

「大将さん!!私には運命の人がいるので口説き文句は通じません!!」


 二人は外に並べられているテーブル席へと座る。


「ここはな小さいけど超美味い店なんだぜ。地元料理ってやつよ。

早いし盛りがいい、美味い。」

「へぇ~」

「小さいは余計だ。今日もどうせツケだろ?ほれ肉まん。」


 蒸籠を開けると蒸気に乗った少し甘いような生地の匂いが鼻腔をくすぐる。

一つ手にとって頬張ってみる。


はむっ


「ほぁぁぁぁふまひ!!

肉汁が垂れる、肉の旨さと出汁が絡み合ってそこにタケノコの味が混ざり合うと生まれる下の上の大洪水!!

生地の弾力と甘みが食べるスピードを加速させる、タケノコがアクセントになる!!

この味・・・生姜が入っている!!」


「おお、いい反応だ。大将次の料理を・・・」


 私は気がつくと蒸籠の中身を空にしていた。だが目の前の竹田先輩の席には空の蒸籠が三つおいてある。


「はっ・・・早い・・・」

「それ・・・つぎはこれだ。」


 目の前には小さい蒸籠と牛のテールスープ。蒸籠の中にはぎっしりと小籠包が詰まっていた。

箸で一つつまむと蓮華の上に乗せて少し齧る。


「先輩以外のものに魂を抜かれるわけが・・・はぁぁぁぁぁ!!

ふまひぃぃぃ。少し齧ると中の出汁が、ずっー。

肉まんと違ってもちもち食感、だけど汁だくで味も凝縮されている!!」


「おいおい後輩ちゃんよ~。そんなんで満足してたらまだまだ素人よ。」


 先輩が一つ小籠包を摘むとそれをスープの中に入れた。

次々に入れたら、箸で割った。


「に・・・肉が増えている!!そうかこれをするためにわざとギッチギチに小籠包を詰めてたのか!!

おのれ・・・大将の策かっ!!」


 テーブルの上で頭を抱えて敗北を知る。

美味すぎる・・・いやいや、私は何に負けたんだ?


「ほれ、ーつ、二つ。」


 次々と私のスープにも小籠包が浮かべられていく。大将まで参加し出した。

恐る恐る器に手を伸ばし、箸で割る。肉をかき出してスープを飲む。


「うぅぅぅ。美味いが過ぎる!!スープを吸えば肉が入ってくる!!

出汁が、胡麻の油が入ってくる。豚と牛が仲良く泳いで入ってくるー!!戦艦二隻が突進してくるようだ。

小籠包の皮も・・・美味っ・・カハッっ・・・詰っ・・・水。」


 喉に小籠包の皮が入り込む、世界がフリーズする。

竹田先輩は箸で小籠包を摘んだままの姿勢でこちらを見る。大将は慌てて水を取りに行こうとする。


・・・負けた・・完敗だ。

こんな美味いものは初めてだ。村のみんなにも食べさせたかった。

いつも鳥の丸焼きのみだったあの生活から・・・丸焼き・・・・焼き・・・・


「焼けばもっと美味いんじゃぁぁぁぁぁ無いのぉぉぉっぉっぉぉぉ!!」


 喉から炎が放たれる。直線上にいた竹田先輩が体をのけぞらせて避ける。

箸につままれていた小籠包が高火力で熱せられて程よい焦げめがつく。


「嬢ちゃん!!大丈夫かい!!」

「そんなことより・・・竹田先輩。食べてみてください。」


 竹田は焼かれた小籠包を二つに割って大将と分ける。

そして口へと運ぶ。


「「う・・・美味い。」」


「焼かれたことで香ばしくなり、中の出汁が熱で沸騰したのか空になって肉の方に旨味を託している。」

「醤油とかつけたら多分美味い!!何じゃこれは!!」


「ふっ・・・・我が村に敗北の二文字はない。それが掟。」


 こんな感じで盛り上がっているところに背後から足音が聞こえる。


「この私の追跡から逃れられると思っているのか・・・・かつて会社の番犬と呼ばれたこの私に・・・・」


背後には逆光で顔の片側だけが黒く映る課長の姿があった。


「「か・・・課長・・・だと・・・」」


 その後二人は会社に連れ戻された。

後日焼いた小籠包を販売したところ大好評になり、『霧江』の新名物の一つとなった。


※おまけ

『霧江』三名物

霧江名物『霧飴』・・・真っ青な見た目が特徴の飴玉。

    『焼き小籠包(名前はまだ決まっていない)』・・・龍が作りし一品

    『桃白包み』・・・簡単にいうとタルト大の硬めの桃大福、

             タルト生地が大福(ちょっと歯応えがある。)

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