20.【夢から連れ出して2】

『撮影二日目』

 

 今朝方監督と町田さんが訪ねてきて映画の出演についての交渉に来た。

すぐに麗奈さんに知らせて、添乗員室『001』の麗奈さんの部屋で話を伺った。

 

 映画のあらすじとしては軍隊の将校が出張中に列車強盗に遭遇して撃退、

攫われた乗客を仲間の将校と一緒に救出してハッピーエンドということになる。

僕は列車の添乗員役、麗奈さんは列車に乗り合わせた乗客役をやって欲しいという事らしい。

 

 麗奈さんは少し考えた後に決心したように出演を承諾した。

そして今、僕たちは現在使われていない路線を選んで進み列車を途中の平原で止めて撮影をしている。


天気は快晴、雲ひとつなく陽の光が大地を照らす。


 強盗団が平原からやってくるシーンの撮影と主人公達との馬上での戦闘シーンの撮影ということで、

僕たちは少し離れた場所からその光景を眺めていた。

エキストラを近くの村でから手配していたらしく到着前には到着予定地点に集まっていた。


「麗奈さん大丈夫ですか?」


 彼女はこちらを向いて微笑む。


「大丈夫だよ!!昨日はごめんねいろいろまかせちゃって。もう大丈夫だから。」


 僕は思い切って聞いてみる。


「あの日、何が起きたんですか?僕の意識がなくなった後。」


 麗奈さんは僕を見つめた後少し考えるように撮影の光景を見る。

そして一呼吸してから話始める。


「覚えてる?

二年前の夏、今日みたいに晴れた日でさ。お客さんも私たちも暑い暑いって汗を拭いてたよね。

たまにあの日のことを夢に見るの、楽しい夢を見ていても気がついたらあの日に引き込まれていく。」


 麗奈さんは僕の手の上にそっと手を乗せた。


「二年前、君にできてしまった傷は・・・。」



 二年前の七月、当時新人だった春ニとその教育係だった麗奈さんは乗客の切符の確認を行っていた。

事件は麗奈さんが二等車両へ入ったときのことだったそうだ。


「切符を拝見します。」


 そう言って麗奈が通路右側の座席にいる子供連れの女性から切符を預かる。

子供は窓に腕を乗せて外の景色を眺めている。


「母さん!!見て遠くがゆらゆらしてるよ!!」

「こら、はしゃがないで大人しく座ってなさい。」


 切符に判を押してかえす。そして次の席へ歩みを進める。


「母さん!!見て茶色いのがこっちに来るよ!!」


 ふと気になって窓を見る、少し遠くに砂煙が立ち上がっている。徐々に大きくなって近づいて来る。


 乗客達が窓を開けて覗き込む、左側にいた乗客達も気になって席を立つ。

身を乗り出した男が目を凝らして砂煙を見る。


「ん?旗か、馬?あれは・・・・」


バツンッ

 男の耳の隣に穴が開く。男が慌てて身をひき、床に尻餅をつく。


バツン バツン 

 車体の各所から音がする。


パリィーンッ

 車窓のガラスが割れる。


 近くにいた男の顔に破片が突き刺さり血が噴き出し、乗客たちは混乱しだす。

床に伏せる人、大切な人の上に覆いかぶさる人、我先に他の車両へと移ろうとする人全てが雪崩のように動きだす。

逃げるのに遅れた何人かが破片や飛んできた銃弾に当たり血を噴き上げる。


 麗奈はその場にしゃがみ頭を守るように体を丸めていた。


 ドドォドドドドドドドドッド


 集団が近づいて来た、馬を列車に並行させて走らせている。

集団の内の数人が先頭車両の方へと走っていき、何人かは展望車両の方へと走っていく。

伏せていた乗客の一人が様子を見ようとして体を起こすと窓の外の集団の一人が引き金を引いた。


喉元を撃たれ盛大に血が噴き出す。


車内に悲鳴が上がる。

 撃った男が車窓から背中にかけているライフル銃を入れるために滑り込むような形で入ってくる。

同じようにして二人が入ってくる。

真ん中の男の足が下にあった男の死体を踏みつける。

そして首元の円とばつ印が合わさったようなネックレスを天に掲げて言い放つ。


「この列車は我々が支配した!!終点まで止まらない!!お前らは神への生贄だ!!

我々『ウォーレン革命円隊』が信ずる神ために死ね!!」


 他の男はボルトを引いて一発弾を装填する。

もう一人は乗客のカバンを漁り酒を見つけて呑み始める。


 すると先頭車両の方から乗客がなだれ込んでくる。

装填し終えた男が入ってきた乗客の眉間に弾を打ち込む、

撃たれた男の脇から押し出されるようにして飛び出した女性の頭を銃床で殴りつける。

そして、弾を装填して女性の背中に打ち込む。


酒を飲んでいた男は腰につけたサーベルで脇で身を潜めていた老人を突き刺す。

隙を見て抵抗しようとした乗客はことごとく殺されていく、抵抗しなくても端から順番に殺されていく。


 声が出ない、目の前に男の足が映る。

私を通り過ぎて座席にいる子供と女性の方へと向かう。男の手にはリボルバーが握られている。

銃口が子供の顔に向く。


「もうやめて!!」


 咄嗟に割って入った。


「珍しいなお前・・・白いエルフ?ほうほう。」


 男が銃を持った手を横に振り、私の頬を殴りつける。

床に倒れる。

起きあがろうとすると自分の手に乗客の血がべったりとつく。


「我が神は人の魂が魔素になってこの世を循環させるとおっしゃったのだ。

この世を再び神の恩恵で満たすためにお前達を殺すのだ。

だがは我らの教えでは神の使いと言われている。

だから連れ帰る。」


 そういって再び子供に銃口を向けようとする。

私はその手にしがみついて銃口を逸らそうとする。

その時だった・・・


バゴォォッ


 食堂車両のへと続く扉と一緒に集団の仲間らしき男が飛んでくる。

扉の前にいた男がライフルを向けると、春二くんが走り込んでくる。

ライフルを持つ手を掴んで男を投げ飛ばした春二くんは、銃を奪い取り銃口側を握る。

すかさず私がしがみついている男の頭部めがけて後ろから殴りつける。


バタンッ


「先輩!!大丈夫ですか!!」


 春ニくんが目の前にいる。

一瞬安堵の表情を浮べたと思ったら、すぐに歯を食いしばる。

彼は突然私の腕を掴み、抱きついた。

その直後すぐに体を反転させてしゃがみ込む。


シャッー 

 服が破ける音が聞こえる。

春ニ君から赤黒いものが伝わってくる。


「ぐわぁぁっぁ小僧っっっっっ!!よくもぉぉ。」

 

 彼の体が離れ、振り向く。

制服は大きく裂けて、背中に大きな一本の赤い筋がひかれた彼は左手で男のサーベルを持った手を掴んでいた。

彼がこちらを向いて微笑む。



「俺」「が」「守」「り」「ま」「す」

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