密談
深夜、一人の男が卓上ランプで手元を照らしながら書類を書き上げている。
扉を三回ノックされる。
「入りたまえ。」
「旦那様、お客様がお見えです。」
「こちらに通してくれ。」
男は一度も顔を上げずに答える。
「全くまさか娘があの男に惚れてしまうとは。このままでは私の家まで実験に使われるかもしれない。
やはりあの時弟と一緒に始末すれば良かった。
まぁ娘が喜ぶならこのままでも良いか?・・・う~む。」
ドアが再度ノックされ、女性が入ってくる。使用人はすぐに何処かへと消えていった。
「深夜遅くに申し訳ない。五ノ宮様に本日のお礼を申し上げるために参りました。」
「いえいえ、私にまで身分を偽らなくても宜しいのですよ。皇女殿下。」
「ならばそうさせてもらおう。
おそらくお前の上司には劇場で意思を伝えた。
護衛は本当に役に立ったぞ、舞台の演出を盛り上げてくれた。」
フレーシスは和義の前まで来ると小声で話した。
「お前達はどの派閥なのだ?」
「どちらにも属してはおりません、逆もまた然り。中佐の意思に従うだけですから。」
「それでどこまで掴んでいる。」
「一部から全て、私はほんの少し。中佐はおそらく全てを見通しています。」
「今回私を襲ったのは何者だ。」
「それについては詳しく、我が月照帝国の諜報員が貴方を襲いました。
ただし、我々の管轄外の部署が行った作戦です。
まぁ貴方がこちらへ転がり込むように仕向けたんですけれどね。
現在は貴方を二重スパイとして教育すると言う名目で抹殺対象から外させました。」
「なぜ同じ国の諜報員が争う?これはこの国の政府が認めているのではないのか?」
「我々の独断・・・いえ、わが組織と言ったほうがよろしいのでしょうね。」
フレーシスは笑みを浮かべながら話を聞く。
「なるほどこれは面白いな。全て正直に答えているのではないか、お前。」
「ええ、これから協力関係になるわけですから。」
「お前達が一方的に利用するだけの間違いではないのか?」
「はは、それで回答の方はどうされますか?」
フレーシスは和義を見下ろして言う
「お前達人間にこのようなことを頼むのは毎度嫌なことだが仕方がない。
この魔王代理にして魔王の娘『フレーシス』に力を貸せ、魔王領復活のために。
魔王復活のために。」
「かしこまりました。中佐にはこちらから伝えましょう。
早速次の作戦のお話をしましょうか。」
和義は机の上に地図を広げる。
「あなた方が演劇の公演を通して広めた魔力を復活させるための『復魔』派閥の中で過激派に属する者達に、魔獣化を誘発させる液体を手渡していましたよね。」
「あぁ、あれは我が眷属の血を薄めて分け与えただけのことだ。
下級の眷属でも数を増やすためには仕方がなかろうて。」
「あれを粉末状にして裏社会で流通させます。」
和義が小袋を取り出す。
「これは我々が貴方のばら撒いた液体を入手して作り出したものです。
これを中毒性が高い薬品に混ぜて流通させます。
しかし、量としてはほんのわずかな量を混ぜます。」
「なるほどつまりこれは火薬か?」
「そうです、貴方はこの世界で唯一純粋な魔法を行使できるお方です。起爆はできるでしょう?
世界に広まったところで貴方が火を放つと言うわけです。」
「さすが人間。やることが下衆すぎて笑えてくるわ。」
「どうです?乗りますか?」
「人間どもへのちょうど良い復讐になるわ。クククッ気に入った。」
部屋には二人の笑い声が響き、部屋の壁にランプで照らされた二人の大きな影がゆらゆらとゆらめいている。
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