15.【革命の乙女3】

「すごい迫力でございましたね!!三船様!!」

「そうだね。戦闘の場面は本物みたいだった。」


 客席で拍手をしながら話す二人。再び幕が上がり演者が一同横並びになってお辞儀をする。

もちろん先程舞台で襲撃した奴らはいない。どこかへ逃げ去ったようだ。

(危なかった。照明が消えたから劇場の脇を走って戻ってこれた、今回は演出に助けられた。)


 劇場から出ると街はすっかりオレンジ色に染まっていた。

昼間とは打って変わって人がほとんどいなくなり、ほんの少し寂しさを感じる。

隣に立っている忍さんの髪が風に揺れて、夕日の光に照らされる。


「忍~。こっちだ。」

「お父様。迎えに来てくださったみたいですわ。」


 車の脇では『五ノ宮 和義』が立っている。

話が終わったから娘を連れてこのまま帰るのだろう、忍さんとはおそらくもう二度と会うことはないだろう。


「忍さん本日はありがとうございました。久しぶりの帝都をあなたとご一緒できて楽しかったです。」


「ええ、こちらこそ楽しい時間をありがとうございました。ぜひまた一緒に演劇を見ましょうね。」


 彼女がこちらに向かって微笑む。

俺はその言葉に答えなければならない。任務として、それに・・・。


「それは・・・。」


 彼女は少し戸惑った顔をしてこちらを見てくる。

何かを言おうとする忍さんを遮って続ける。


「あなたの父上はきっと今回の縁談は無かったことにするつもりです。

なぜなら

私なんかよりも良いお相手が現れるはずです。」


 家柄や血筋、跡継ぎなどが重要視される、本当に結婚させる気なら他の三船家の兄弟を選ぶだろう。

これは決まっていた結末なのだ。

 それに絶対に巻き込むわけにはいかない・・・決して。


「だからここでお別れです。」


 忍さんは少し考えて口を開いた。


「つまり、貴方が養子で父に利益がないので別のお相手を探した方が良いというのですね。」

「はい。」


と言うのですか。

出自や家柄など関係ありません。貴方は貴方様でございます。」


 俺に近づいて手を取る。

大きくてな瞳に見つめられる、その目には夕日の色が宿ったように輝いている。


「私は貴方の事をもっと知りたくなりました。

父様の利益なんて私がこれから貴方と感じる幸せに比べたら指の先程度でしょう。

私はよりも家を捨てて小説のようなロマンスを選びますわ。

ですから先ほどのようなことはおっしゃらないで。」


 彼女は会った当初の物静かで年相応な態度から一変して、凛と筋が通った真っ直ぐな目でこちらを見据えてくる。

そして手をとってこう言った。


「私はたとえ貴方様に拒まれても諦めませんわ。はしたなく思われても貴方を振り向かせて見せますわ。」


 彼女の手がキュッと俺の手を握る。

数秒見つめ合うと彼女は顔を真っ赤にして体をジタバタさせる。

彼女の目がほんの少し潤む。


「すっすみません、偉そうなことを言ってしまいましたわ。

その・・・えっと!!」


 彼女を見て自分の愚かさに気づく、俺はいつの間にか嫌っていたようだ。

春ニ自身が彼女をどう思っているか考えていなかった。


 目の前で今にも煙を出しそうなほどに混乱している彼女が必死に言葉を紡ぐ。

身振り手振りで必死さが伝わってくる。


「そっその!!よろしければお手紙だけでも!!

お互いのことを知ってから考えるのはいかがでひょ・・しょうか~!!

その・・・えっとしっ・・失礼ひひゃふ!!」


 そう言って走り出そうとしたところで転びそうになる。

彼女の手を掴んで体を引き寄せる、そのまま背中に手を回す。

先程見た華劇の舞踏会のダンスのように優雅な動きで体を起こす。


「ちゃんと前を見ないと危ないですよ。」


 そして顔を近づけて耳元で囁く。


「先程の無礼をお許しください。お手紙お待ちしております忍さん。」


 彼女はバッっと勢いよく離れると真っ赤になりながら走って車へと向かっていく。


 春ニには選択肢が多い方が良い。

それに彼女なら一途にこいつの事を想ってくれるかもしれない。あくまでここから先は本人達次第だがな。


車を見送ってから脇の茂みの前で腕を組む。


「それでお二人はどうしてここにいるんですか?」


 脇の茂みから二人の女性が生えてくる、顔を真っ赤にして。


「春ニくん!!どうしてわかったの!!と言うより今の小説みたいなやりとりはなんですか!!」

(何今の!?いつもの春ニくんじゃない!!)


「先輩!!弄びましたね!!私たちが見ているとわかっててやりましたね!!」

(なんか私の時とは少し違う!!なんか負けた気がする!!)


「さあ?少しカッコよく起こしてあげようと思っただけですが。

それよりも貴方達はなんでついてきているんです?ずっと後ろにいるし、舞台にまで上がって。」


「「だって気になるんだもの~」」


「ほら帰りましょう。事情を説明して三船家に泊まらせてもらえるようにしますから。」

(この二人のこと忘れて春ニの演技を中途半端にしてた、まずい・・・)


「「は~い」」


 その後、春ニ達は翌日大陸へと戻りいつもの日常を送ることになる。お見合いの結果としては両家とも保留という形で見守ることになった。

ただ一つだけ変わったことがある、それは春ニと忍が手紙のやりとりを始めたことだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る