百足の行先

月照帝国『帝国奥瀬基地ていこくおうせきち』。

晴れ渡る空の下、濃藍色の軍服をまとった兵士達が整列している。


「中佐殿に敬礼!!」


 兵士たちが前方に向かって一秒のずれもなく敬礼をする、その先にいる男も同じように敬礼を返す。

濃藍色の軍服に軍帽、腰には軍刀を下げてブーツを履いている。

帽子の下には白髪混じりのグレーの髪、顔は髭が無くしわもあまり無いために年齢がわからないような風貌をしている。


「皆、我が月照帝国の栄光のために己を磨いてくれていることにまずは感謝をしたい。

今回我が第8師団に誉ある任務が下った。陛下は帝国西の『夕島』にある神社に参拝なされる、

その身辺警護を承った。

現場指揮は副師団長の『新島にいじま』少佐に任せる。以上だ。」


 男が敬礼をすると目の前の集団も素早く返す。

男二人が建物の中に入っていくと集団は小走りでどこかへ去っていく。

長い廊下を二人の男が歩いていく。


「藤巻中佐、よろしいのですか?中佐が現場指揮を取らなくても。」


「今回の指揮については上からのお達しでお前に任せることになった。

本当なら私自らが取るべきなんだろうが、の打ち合わせをしなければならないのだよ。」


「あぁなるほど。、確か南西の『サルバン大帝国』でしたか。」

「どうも西側は我々の力を削りたいようだ。」


 二人はそのまま基地の正門に停めてある車に乗り込む。


「お前が運転しているということは報告があるんだろう。」


 ハンドルを握っている白髪の男は車を発進させながら答える。


「火種の方は五ノ宮に任せました。彼女の今までの販売リストを使って広めましょう。

ただ問題がありまして・・・」


「排除した領主の後任か。」


「予定では『ウォーレン』側がすぐに代わりの領主をつけると踏んでいたのですが、排除した領主が隠していた不正やら秘匿資産が想定よりも多く。

後任をつけずに統治軍がそのまま管理し出しました。」

「はっはっは、あの狸は予想以上に肥えていたようだ。」


「ただあの領主が消えたことで『ウォーレン』の裏組織の活動が活発化したのでいくつかの組織に・・・」


「いや、組織を一つ掌握しろ。数が多いとトラブルも増える。」


「わかりました。」


 ハンドルを握る三船はミラー越しに藤巻を見ると助手席に置いてあったであろう書類を手渡した。


「分裂と拡大を繰り返してはいますが基本的な統制が取れている組織があります。

歴史は『ウォーレン』が連合王国になる前から、組織されています。

構成員は『魔復』思想を唱えて来たる日まで財を貯めています。

資金源は密輸、誘拐、など多岐にわたります。

その上、二年前に『霧江』各地の有力者から資金を奪い回りました。」


「ああ、思い出した。先導者は排除させたんだったか。」


「ええ。そのおかげで残党がそのまま組織に組み込まれたそうです。」


 資料をめくる藤巻は一枚の紙を新島に見せる。そこには組織のマークが書かれていた。

壺の中から百足が体をうねらせながら出てくる意匠だった。


「なかなかいい趣味をしている、仲良くなれそうだ。

確か『蠱毒』だったか。・・・」

「ええ、元はかつての。」


「どうやって生き延びていたのだろうな・・・ふふふ。」


「中佐まもなく到着いたします。」


 車が煉瓦が高く積まれた塀に沿って進んでいく。

そのまま道なりに進むと二人の兵士に守られた鉄製の門が見えてくる。


門が開き、車が奥へと進んでいく。

『月照帝国軍奥瀬研究所 一号棟』 外壁は煉瓦で組まれている二階建ての建物だ。

各箇所に巡回の兵士が軍用犬を連れて立っている。周囲は森林で囲まれているため外部とは隔離されている。

車を降りた藤巻と新島が中へ入っていく。



 花巻と新島が薄暗い廊下を進む、窓はひとつもない。

突き当たりにある扉を開ける。


「やあ。諸君待たせたね。」


 扉の先には三人の男がいた。

ワイシャツにベストを着た金髪の若者、肌は異様に白い。

瞳は真紅に染まり怪しく光っている。

その前には椅子に縛り付けられて麻袋をかぶせられた二人の男がいた。


「中佐こいつらは口をわりました。

右は『霧江』で帝国のキジと取引をした男、もう一人は帝国の施設を嗅ぎ回っていた男です。

『霧江』で始末させる前にすり替えておきました、出来の悪い部下を処分しただけなのでご心配なく。」


「なかなかいい面構えじゃないか。新しいものか?」


「ええ、任務中に手に入れまして。本題に移りましょう。」


 男は右の男を指差す。


「『霧江』にて排除させた三人の諜報員は#暗号書__コードブック__#の写しの作成と新兵器の調査をしていたようです。

ここまでは他の諜報員の報告で知ってるとは思いますが・・・おそらくフェイクです。」


 男は縛られた男達の麻袋を外す。


「情報が盗まれたのは重大ですが・・・他に始末した諜報員と同じものを調べていた。

しかも報告書も一言一句同じコピーです。」


藤巻は椅子の周りをゆっくりと歩きながら観察する。


「つまり、帝国での作戦は隠れ蓑。

みんなで協力して何かを隠そうとしていた・・・と。」


「右の男は『バサナシア共和国』の諜報員で、左の男は『サルバン大帝国』の諜報員でした。

あの列車にいたとされるエルフは『ウィンダルーシア王国』。」

「全て列強国だ。」


 右の男の髪を掴む。


「何も答えることはない。」

「おいおい聞いたか?こいつは頭が悪いらしいぞ、何も聞いていないのに答えたくないのだと。」


 右の男の耳元で囁く。


「お前らはきっとエルフに唆されたんだろう。

光と共に現れた勇者が妖精と共に東の果てへ宝探しに来たんだろ。

なあ合っているか教えてくれよ。」


「」


花巻が懐から拳銃を取り出して左の男の頭を撃ち抜く。

男の頭が大きく揺れてそのまま椅子と一緒に倒れる。頭から血が溢れて床に大きな血溜まりを作る。


?」


「」


「だが腑に落ちないな。

お前達は当初魔王が残した遺物の回収に来た。

だが回収してもいないのに一斉に帰国するのは変だと思わないか?。」


「遺物?さっきから何の話をしている。」


「とぼけなくていい、それよりもだ。

即時帰国しなければならない程のを発見したのか?」


「」


「お前達・・・・。」


ギリッ

   バンッ

花巻が舌を噛み切ろうとした男の顔面を蹴る。


「さぁ吐け!!何をみた!!誰か一人でも逃げ帰れさえすればいいと思う何かを!!」


ガンッ ガンッ ガンッ バタン


「中佐・・・こいつもう使えないです。」


「はっはっはっ。だと思ったよ!!

いやいや別にこれからすることの障害には絶対ならないし、

あちらにとっては重要かもしれないけど、別にどうでもいいし。

でもさ・・・・ちょっとむかつくんだよ、無視されるとさ。」


 藤巻は倒れた男に拳銃を向けると引き金を引く。

薬莢が落ちる音と一緒に男の頭蓋が割れる音も響く。


「こいつらの行動歴を洗い直します。」


「はははははっははっははは」


中佐の笑い声が響く。その足元は赤く染まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る