22.【夢から連れ出して4】

『撮影三日目』


 『むこう』は出発してから途中三駅に補給のために立ち寄り、西へと進んでいる。

 目的地は『サルバン大帝国』ちょうど到着する頃に軍縮会議が行われる。

そこに集まった世界中のメディアの前でエンディングを撮影して宣伝するつもりらしい。


 早朝音を立てずに手荷物倉庫の前へと行く。

倉庫の鍵を開けて倉庫側にある搬入口の鍵も開けておく。

あの女に言われた通りに鍵を開けたが、正直気に入らない。


 倉庫から出て自室へと戻ろうとする。『002』号室の扉に手をかける。


「春ニくん。」


『001』号室が少し空いて寝巻き姿の先輩の姿が隙間から見える。

無防備すぎる、ボタンをかけ間違えているから谷間が少し覗いている。


「先輩、おはようございます。起こしてしまったみたいですね。」

「おはよう。こんな時間にどうしたの?」


「ちょっと見回りです。万が一がないかの確認です。」


 先輩が出てきで顔を近づける、寝起きすぎてよく見えないのか?

俺の肩を掴んで俺に体重を預けてくる、胸が・・・当たる。

鼻先まで顔を近づけてくる。



「どうかしました?」

「寝癖がない・・・今日も私の出番が無い。」


 涙目になり、目を擦る。

先輩思ったことが口に出てます。

先輩の肩に手をそっと添えて『001』号室の扉を開く。


「先輩はもう少し寝ていてもいいですよ。

今日は先輩の出番なんですからゆっくり休んでくださいね。」


「は~い。」


 扉をそっと閉める。

俺はすぐに『002』号室に入って装備を整える。

わざわざ日にちを指定してきたということは何かしら起きるのだろう。なら万が一に備えるに越したことはない。


 ベルトを『キジ』から奪った隠しナイフ入りのベルトに変える。

制服の隠しポケットにワイヤーを、靴の踵のヒールにはいざという時のために小物が入っている。

両方のヒールの中にマッチを補給し、巻かれた糸と針を入れておく。

片方が脱げたとしてももう片方があれば足りる。

 取り出し方は中敷で隠してある小さい穴二つに細い棒状の物を刺して押せばヒールから金属の留め具が出てくる。

それを抜けばヒールが取り外せる。

 ナイフや銃火器、重い物は身に付けることができない。

春ニが気付くからだ、それに事前に用意した物だと痕跡を残す恐れもある。


 窓を見ると遠くの空が色づいて雲の形が見えてくる。


「そろそろ変わるか。残りはあと五十四分間。」


 時計を確認して椅子に座る。ゆっくり目を閉じて机に帽子をのせる。

雪一の意識は暗い闇の中に落ちていった。


 

 車内二等車両の一番。食堂車両ともう一つの車両に挟まれた車両で撮影が行われた。

列車は少し速度を落としながらの撮影する、列車が乗客を人質に取るシーンだ。

僕の役は強盗に縛られて連れ回されるだけの役。金庫を開けたり、怯えたり・・・・格好悪い。


「もう勘弁してください!!乗客の皆さんどうか指示に従って~!!ひぃぃぃ~。」


 ナイフをコリーさんに突きつけられながら歩く。

何だかコリーさんが僕を掴む手がやけに動いているような・・。


「あぁ~?いい女がいるじゃねえか。お前も連れて行くか、他の奴らは皆殺しだ!!」


 乗っている撮影スタッフが乗客役としてざわめく。麗奈さんは僕の目の前の席にいる。



「きゃぁー、やめてー。」

「カットカット!!麗奈さんちょっと表情硬いよ~。休憩挟んでもう一回!!」


 僕は休憩しようにも縛られているので動けない。というかコリーさんが話してくれない。


「コリーさん?」

「おっとすまない。つい・・・」

 

 つい・・・なんなんだ?何なのこの悪寒は。

麗奈さんがこちらをみて微笑む。


「春ニくん休憩できないね。そんな格好だと。」

「そうですよ手が前縛りで、腰にはコリーさんの持ってる縄でぐるぐる巻き。これじゃあ犬ですよ。」

「そうだね。君の自由は今私が握っているか・ら・ね。」


 コリーさんがウィンクしてくる。鳥肌がすごい。


「麗奈くんは少し緊張しているみたいだね。初めてならよくあることさ!!

それと・・・すまないが演技上君の肩を掴むことになるから許してくれよ。」


「はい大丈夫です。」


 この後の展開は食堂車両の方から田城さんが登場して人質の解放を要求。

コリーさん演じる強盗と問答をした後に背後から追加の強盗が入ってくる、すみれさんと田中為郎さんと監督の秘書が強盗役を演じる。

 コリーさんが僕を田城さんに投げて麗奈さんを人質にする。

そこからコリーさん以外の強盗達とのアクションシーンに入る。

田城さんがピンチの所を男装のフレーシスさんが助ける。

そして、二人のヒーローコンビが列車から一旦追い払うという流れになる。


「やっぱり兵士じゃなくてさ~。車掌が戦うのがいいんだよな。」

「監督それじゃ駄目ですよ。決まっていることなんですから。」


「仕方ないか・・・じゃあ本番行くよ。・・・アクション!!」


 先程同様に麗奈さんの前まで歩かされる。


「きゃぁ~!!やめて~!!」「『帝国軍』だ!!貴様ら動くな!!」


 田城さんが入ってきてコリーさんに銃を向ける。

僕が放り出されて床に転ぶと、コリーさんが麗奈さんの腕を引っ張り上げる。


「動くなだと?それはこちらのセリフだ・・・。

このお嬢さんずいぶん苦しそうだ・・・三つ目の鼻の穴を開けてあげたら呼吸がしやすくなるんじゃないか?」

「人質を取るとは卑怯なやつよ!!今すぐ解放しろ!!」


「いいや、連れて行く。おい!!野郎どもこいつの始末をしろ!!」


 ・・・・・・・沈黙が流れる。

 コリーは振り向いて声を張る。


「あいつら酒でも見つけて楽しんでやがるな・・・。オイ!!仕事の時間だ!!」


 二頭車両と扉が開かれると男が入ってくる。手にはリボルバーを持ち銃口をコリーの方へと向ける。


シャラン

 円と十字が合わさった首飾りが揺れる


「・・・・はぁ?」


パンッー

 乾いた破裂音と共に田城の額から血が噴き出す。


「騒ぐな・・・。道を開けろ。」


 リボルバーを放った男の背後から六人の男が出てくる。

三人は食堂車両の方へそのまま走って行き、

もう三人はライフルを構えてこちらを牽制する。


「ハーフエルフは連れて行く、司教の命だ。」


 コリーを殴って麗奈さんの腕を掴む。


「やめて!!離して!!」


 僕はゆっくりと姿勢を起こし機会を伺う。その時監督が声を上げる。


「おい!!カメラは回しているか!!凄いぞ!!・・・あの時と同じだ!!」


 一人の強盗が監督の目の前に行って銃を突きつける。


「騒ぐなと言っている!!」


「僕は死んでも構わない!!

やはりこの地に来てよかった!!再現を高めるためにあの事件の被害者達を集めた甲斐があった!!」


 監督がチラリとコリーを見る。

コリーさんがリボルバーを持つ男に掴みかかり、麗奈さんが投げ出される。

コリーさんはライフルを向けた男の方に掴んでいる男の背中を向ける。


監督も目の前にいる男のライフルを掴み、周りのスタッフも加勢する。


「逃げなさい!!麗奈くん!!」


 僕は麗奈さんを飛び越えてもう一人の男の方へ走る。

ライフルの銃口よりもしたに入り込んで両手を上に思い切り振り上げる。


パンッ!! 天井に穴が開く。

 その勢いのまま男の顔面に両手を叩きつける。


「麗奈さんっ!!こっちへ!!」

「でも!!」

「早く!!」


 麗奈さんをまた人質に取られる前に早く次の車両へ。

扉を開けて麗奈さんを待つ。


「待てぇ!!その女を逃すなぁぁぁ!!」


 麗奈さんがドアに入ったらすかさず入り、次の車両へと向かう。

前を向いた時に広がっていたのは清水さんや田中さん、秘書の男性の遺体だった。

座席にもたれかかり、血飛沫が窓にまでかかっている。


「くっー、麗奈さん行きますよ!!」

 

 両手で麗奈さんの手を握り走る。


二頭車両の真ん中辺りにきたところで背後の扉が開く。


「止まれぇぇぇ!!」


 二発三発と弾丸が放たれる。


 麗奈さんが展望車両の扉を開けて、僕もすぐに入る。

展望車両の窓ガラスが割られ、辺りにはガラス片が散乱している。

ここから乗り込んだのだろう。


「春ニくん・・・どうしよう。」


 背後から足音が近づいてくる。




「大丈夫、麗奈さんは。」




 縛られた両手を麗奈さんの背中に回し、前方に飛ぶ。

麗奈さんの頭を両手で守り自分が地面にぶつかるように背中を向ける。


 ガガガガガッガガッガガッガガガガガッガガッガガッー

二回、三回とからだがはねて転がる。


列車が遠ざかり、少し離れたところに銃弾が撃ち込まれる。


「春ニくん!!ねえしっかりして!!」


 胸の上で麗奈さんが泣いている。

呼吸ができない・・・背中が痛い。手も血だらけだ。


意識が途切れる・・・・・。



「」



「そんな・・・嫌!!

目を開けてよ・・・いやいやいや!!春ニくん・・・春ニくん!!」




「言ったでしょう。って。」


 縄から手を引き抜いて、はずれた関節を直す。制服を脱いでシャツの腹部から下を引き裂く。


「ちょと!!大丈夫なの!?」


 引き裂いたものを両手に巻き付けて制服をまた着込む。


「幸い手の皮を擦り剥いたのと背中を痛めたくらいです。先輩の方はどうです?」

「私は何ともないけど。・・・てちょっと!!肩!!」


 俺としたことが気づかなかった、肩を撃たれていた。すぐに腰のロープを解いて肩の周りに縛る。


「それじゃあ行きましょう。多分追いかけにくるはずです、急いで森にに逃げ込みましょう。」

「え?・・・う、うん。」

 

 二人は線路から降りて近くの森へと入っていった。

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