23.【夢から連れ出して5】

 二人の周囲には巨大な幹を持つ大木、竹や長い蔦が生えている。

森に入ってから数十分は経った、日が暮れ始め木々の間に見える空の色が夕日の色に染まる。

ただでさえ草木で周囲を遮られているのに、森の中も暗くなる。

これからどうなるんだろう・・・というかここはどこなんだろう。


「ここは『黄平こうへい』と『緑窟りょくくつ』の間の地域と考えられます。

幸いこの地域は隠れられる洞穴も多い上に小さな集落も多く存在しています。」


「え!!口に出てた?」

「いえ、キョロキョロと不安そうだったので。」


 春ニくんは近くに落ちている枝を拾いながら目の前を歩く。

怪我をしてるのにやけに冷静だ・・・。


「ねえ、そろそろ休んだ方がいいんじゃない?怪我しているでしょ。」

「駄目です。もう少し遠くへ行かないとすぐに見つかります。」


「私も何かできることはない?」


 私も少しは役に立たないと!!守られているだけじゃ先輩失格よ!!

春ニくんは凄く爽やかな笑顔でこう言った・・・。


「じゃあ。」


「分かった!!・・・・はぁ!?ちょっとっ、えっ!?」


 麗奈は映画の衣装を着ている。

白くて袖の端がふんわりとしたシャツに赤い紐ネクタイを蝶結びにしている。

腰に茶色のコルセット、緑のロングスカートにブーツという格好だ。


(待って!!脱ぐ・・・え!?今一枚脱いだらみえちゃうよ!!)

「ああそうだった。麗奈さんそれ一枚でしたね。」


 春ニが制服を脱いで私に着せる。

春ニくんの匂いがする・・・いやいやそんな場合じゃない!!


 すると春ニくんが・・・・

ワイシャツのボタンを外して、いきなり上半身裸になる。


「えっ!!ちょっと!!いきなり、そういうのはまだ早いと・・・・・・。」


 びっくりして慌てて顔を手で隠す。

え~!!何!!まさか・・・・とか思っていると。


 ブンブンブンブン 

  ヒュッー  チュン!!


 指を開いて間から覗く。ワイシャツを使って石を投擲している。

石が風を切って飛んでいき、枝に止まっていた小鳥を撃ち落とす。


「二匹。あ・・先輩は薪持っていてください。」


「う・・・うん、わかった。」


 春ニくんが集めた薪を両手で抱える。

チラリと見た春ニくんの体はあちこちに傷があった。体のいたるところに。


「やっぱり気になりますよね。この傷。」

「え・・・まぁ。」


 春ニくんは次々に撃ち落とした鳥を棒に刺しながら歩いていく。


「孤児院ににいたって話しましたよね。

決して良い孤児院というわけではなかったんです。食糧も少ないし、金もない。

けれど、院長たちは俺たちを働かせて、その金で贅沢を・・・。

もし逃げ出そうとすれば捕まって、折檻される。」


 春ニくんはまた一匹撃ち落とす。


「日を追う事に生活は苦しくなっていく、

だから俺は

・・・・忘れてください、こんな話。」


シャツを着た春ニくんは周囲を見回しす。


「先輩、洞穴があります。今日はここで休みましょう。」


「あ・・・うん。」


 私はぼんやりと春ニくんの背中を見つめていた。

三年一緒に過ごしたけれど彼の過去をあまり知らない、何処にいたくらいしか。

でもそれは私も同じ、彼に何も話してこなかった・・・・。


 春ニくんが近づいてくる。早歩きでどんどん近づいてくる。


 いきなり口を抑えられ、押し倒される。

彼の顔が鼻先にある。

体温がこっちに伝わってくる。


「ング!!」

(何なに!!どういう・・・まさか!!まさか~~!!)

「シッー」


パキッ

 

枝を踏む音が聞こえる。

カチャ カチャと金属音も混じっている。


「こっちにはいない!!クソ逃げられた!!」


 頭上から声が聞こえる、視線の端に先ほどの強盗の姿が見える。

二年前に列車を襲ったあの男の声がする。


「まだ近くにいるはずだ!!よく探せ。」

「駄目だ、日が暮れる!!それにそろそろ陽動の効果が切れるんじゃないか?」


「あのハーフエルフっ・・・!!クソォぉ!!また逃した!!

ええい一度引くぞ!!明日はもっと人手を増やす!!」


 足音が遠ざかっていく。


「行った・・・かな。

あの・・・春ニさん?」


 私の体の上に春ニくんが乗ったままだ。顔が私の顔の横にある。

手がっ・・・耳元にあって#危険だっ__・__#!!


 ドキドキドキドキ

心臓がバクバクと早鐘を打ち始める。


「春ニくん・・・ちょっと。・・・・えっ。」


 春ニくんは目を閉じて寝息を立てていた。


「もう!!」



 春ニくんが見つけた洞穴になんとか寝ている春ニくんを運び込み、薪や獲った鳥も運び込んだ。

でも・・・火がつけられない。

火が暮れて真っ暗だし、だんだん寒くなっていく。


「どうしよう・・・。」


 とにかく暖を取らないと・・・あと寝ている春ニくんが凍えたらいけない。

(そう・・・これは仕方ないことよ。)


 ジリジリと春ニくんに近づく、顔をどんどん近づけていく。

唇を・・・・


「はッ!!麗奈さん。おはようございます。」


「おっおおおおはよう。」

大慌てで飛び退く。

セーフ、気づかれていない!!


 春ニくんが不思議そうに私を見つめる。


「あれ・・・麗奈さんここは?」


「ああ、あの後春ニくんが突然寝ちゃったから近くにあった洞穴に運んだの。

あ!!春ニくんっ!!それ・・・」


 彼の手にはマッチ箱が握られていた。


 マッチで火を起こし、鳥を丸焼きにしてなんとか一息つけた。

彼は先程までの事は覚えていないらしい。


「じゃあこの鳥を石を投げて落としたことも?」

「はい。」


 火を間にして向かい合って話す。

パチパチと木が弾ける音と、木が揺れる音が聞こえる。

ここには二人しかいない。


(丁度よかったのかも。・・・。)


「・・・・・春ニくん私ずっと伝えたかったことがあるの。」


 私は一呼吸して口を開く。


「ずっと隠していたことがあるの。」


「・・・私はハーフエルフだけれど、魔力を持っていて魔法みたいな事ができるの。

『#相手の感情が見える、触れれば思考が読める__・__#』。」


 彼がカクッと項垂れると言葉を放つ。


「気付いていた・・・・という認識でいいのか??」



「だって貴方はもの。

それに春ニくんが持たない感情を常にもっているから・・・。」



 彼は頭をため息をついて続ける。


「あと五分だ。

あと魔法うんぬんあたりは春ニに聞かせていない、覚えておいてもらいたい。」


「貴方は誰なの?」

「その質問は答えられないな。」


「二年前、私を守ってくれたのは貴方なの?」

「さあな。」


「二年前、私が意識を失った後列車を襲った男たちを返り討ちにしたのは貴方?」

「・・・・・・」


「もう!!何なら答えてくれるの!?」

「ハハッ、すまない。怒らないでくれよ、先輩。」


 男は靴のヒールを取り外し中にある糸と針を取り出す。


「二つ教えられる。

一つ、これは警告だ。俺が何者かは今後、絶対に探るな。

二つ、俺自身どうしてこいつの中にいるのか分からない。」


 彼はベルトに隠されていたナイフを炎で炙ると、ナイフで肩の傷口を抉る。

銃弾を取り出すと、うめき声を一つもあげずに針で傷口を縫っていく。


「俺から質問だ。なぜ狙われている?」

「私にも正直よくわからないの、私自身のこともわからない。」


「どういうことだ?」

「・・・よくわからないの。

幼い頃の記憶は朧げだけどあるよ。

でも・・・おかしいの。

父と一緒に不思議な木下にいたら突然、別の場所にいた。

父はいないし、景色も違う、何にも分からない。

たまたま通りかかった『鈴島』さんに保護されて、私は『』になった。

この話も、『』も秘密にするようにって言いつけられてたの。

それもそうよね・・・・だってこんな話誰も信じないでしょ。」


「まあな。だが本当なんだろ?・・・・えっと。」


「『レーナ・ティーアガル』が本名。

生まれたのは『ウォーレン』よ。

鈴島さんから本名は隠し通すようにって言われているの。」


 彼は持っていた針を私の方へ向けてニヤリと笑う。


「あんた俺をそんなに信用していいのか?

そんなに秘密を明かして・・・悪い男に引っかかりますよ、先輩。」


 私は頬に手を添えて言う。



「貴方なら引っかかっても良いのだけれど・・・。」



「そういうのはちゃんとした男に使う殺し文句だ。

あと寝込みを襲うのは関心しないですよ、。」

「もう!!」


 男は出したものをヒールに隠し、真顔でこちらを見つめる。


「いいか、残り時間が少ないから手短に言う。

今回の襲撃はあんたを狙ったものではない、断言する。

だが、あいつらは『白髪のエルフは神の使い』と言っていた。

捕まったら何をされるか分からん。

とにかく今は『緑窟』の駅に向かえ、いざという時は俺が守る。」


「わかった。」


「最後に、俺のことを誰にも話すな。もちろんこの春二にもだ。

この会話も覚えていないから気をつけるように。」


「貴方名前は?」


「・・・・・死神。そう呼ばれている。」

「本気?」

「本名は絶対明かさない。俺も正直小っ恥ずかしいが・・・仕方ない。」


 死神さんはそういうと目をつぶる。


「ん~。いったたた。もしかして眠ってました?」

「あ・・・うんウトウトしていたよ。もう横になって眠った方がいいかもね。」


「すみません、そうさせてもらいます。」


 彼はその場に寝転がり寝息を立てる。


「もう、。」


 私は彼に助けられた、二度も。

そして、私と彼はお互いの秘密を共有している。

それになんとも言えないドキドキがずっと続いている。


私は炎越しに春ニくん、死神さんの寝顔を見つめていた。

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