0.【コードネーム『死神』3】

ボォォォッッッッ 


 車窓からは荷物を抱えたたくさんの人が列車に入ってくるのが見える。死神の方は鉄道会社の添乗員の制服を着ていたが、変装して潜り込むつもりなのだろうか。

 

 発車駅『霧江』から終点の『長越ちょうえつ』までが950kmで大体13時間、間に3つ駅がある。等間隔で各駅があるっていうわけではないが、次の駅に着くまでは約4時間くらいとか停止と方がいい。


 つまり、次の駅に止まるまでにスパイを探して、抹殺しないといけないわけだ。

 

 車両内は人、エルフ、ドワーフなどいろんな種族で賑わっている。


 その中でも怪しい人物は六人。


重そうなトランクをもった、小太りの男。

今乗り込んできたエルフの夫婦。

猫族の獣人の女はしきりにトランクを確認しては大事そうに抱えている。

ハンチング帽を深く被った男。

酒瓶を抱えて眠るドワーフのおじいさん。


大体はこんなところだろうか。


 婦人の方はカッカッと靴音を立てて歩き去っていく。旦那の方は大きな荷物を抱えて今にもバランスを崩しそうだ。急足で俺の脇を通り過ぎていく。


「もう!!遅いわよ、ほら〜。早く行くわよ。」

 靴から足が滑り踵が飛び出る、転びそうになるところを添乗員が抱き止めた。

「失礼。お怪我はございませんか?お客様。」


 まだ幼げな青年の添乗員がそう言いながら婦人の体を起こす。婦人は胸を撫で下ろしながら、目の前にいる青年を見る。


「まぁ、驚いた。この列車はあなたみたいにまだ幼そうな少年が働いているの?」


「はは。これでも私は17歳になんですよ。あっ、お客様お荷物お預かりいたしますよ。」


「おぉ、助かるよ。そうだ後で3号室にワインをボトルで届けてくれないか?」


「かしこまりました。」


 夫婦と荷物を抱えた添乗員が立ち去っていく。


この車両には紺色のハンカチで汗を拭く小太りの男と、ハンチング帽の男がいる。

まずは客室車両は別の車両にいるドワーフのおじいさんと猫族の獣人の女を調べることにする。


 そういえば、三船から渡されたメモをまだ見てはいなかった。立ち上がり、人がいない連結部近くへと移動する。

内容はこうだった。


。』


メモをビリビリに破り捨てて窓から投げ捨てる。


(この短時間でターゲットを特定したというのか、そんな事ができるわけがない。初めて俺と接触したあの段階からわかっていたというのなら教えるのが当たり前じゃないのか?

いや、さすが死神というべきなのだろうか。


ーいや違う、これは挑戦状ということか。手柄が欲しければ、いや帝国への忠誠を示してみろということか。)



「お客様、ワインをお持ちいたしました。」


 夫が客室の扉を開けてさっきの少年からワインを受け取る。

(それにしてもさっき転びそうになったのは危なかった。たまたま少年がいて良かったけど、靴に文書を隠すのはまずかった、すぐに別の場所に隠さないと。)


 目を閉じ、耳を澄ませれば頭の中に文字が浮かんでくる。夫と少年の雑談、隣の客室の老夫婦の会話が文章としてイメージに出る。

 物音は自分を取り囲む円に波紋となって現れる、小さい音でもはっきりと波紋ができる。今のところこの少年以外にこちらに近づいてくる者はいない。


この能力のおかげで今まで生き抜いてきた、


 私は純血のエルフ、かつての同族には劣るけれど精霊の声が聞こえる。私が聞こえるのは、半径10m周囲に近付いてくる者気配と会話をどんな遮蔽物があっても集中すれば聞こえる。地下であろうと、コンクリートで囲まれていようと聞こえる。


(だが今回に限ってはこの力がなければと心底思う、確実にやばい。もう暗殺者が何人か送り込まれているであろう。できるだけ早く本国『ウィンダルーシア王国』へと報告しなければ。)


「ケイト、君も飲むかいこのワイン。なかなかだよ。」


「遠慮しておくわ。ねぇ坊や、この部屋に昼食を運んできてはもらえないかしら。是非あなたに運んできてもらいたいのだけれど。」


「かしこまりました。それではこの後お持ちいたします。ああ申し遅れました私ー」


「 三船みふね 春二しゅうじと申します。 」

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