0.【コードネーム『死神』4】

 まずドワーフのおじいさんを調べてみるか。二等車両の扉を開ける。

二頭車両は車窓1つに座席が計4席向かい合うようにして2席ずつ設置されていて、旅行客や家族が談笑しながら過ごすにはちょうど良い設計だと思うが今回ばかりはなんともいえない。


「がーッ、ウガッ おい猫!!わしの酒取ろうとしたじゃろ!!」


「はぁ!!してないニャ。見ればわかるでしょ、今手が話せないのニャ!!この酔っぱらい!!」


 タンクトップにつなぎの袖を腰で結んだおじいさんに、キジトラ模様の猫耳と尻尾が特徴的な、白いワイシャツにハーフズボンをサスペンダーで留めている猫族の獣人の女性。

まさか、怪しいと踏んでいた二人が向かい合って座っているとは。いや、逆に利用しやすいかもしれない。


「あの〜すみません。ここってハー5席ですかね。あぁ疲れた。」


「ん〜この席じゃないのにゃ。向こうの車両じゃないかにゃ?」


「おぉ若い衆、ちょうどよかった。この泥棒猫が酒を盗まないか見張ってくれよ。」


「ははは、そんなことできないと思いますよ。まず盗むにしても乗客がたくさんいますし、そもそも大きいトランクを大事そうに抱えているんですから。」


「にゃ、その通り。」


さりげなくトランクのことを指摘して庇う、


「そんなに大事そうに抱えていますが何が入っているんですか?荷物車両に預ければよかったのに。」


「それはダメにゃ。まあ人間なら見せても大丈夫かにゃ。」

 

 そう言うとトランクを開けてこちらに見せてくる。

……中には瓶?なんか嗅いだことのあるような匂いが。


「月照帝国の猫用マタタビにゃ!!ミャーが必死になって探し求めたマタタビにゃ!!月照の西にある古都の幻のまたたび、ミャーは商人にゃ。ビビッときたのにゃ、これを売れば大判小判が・・ふふうっふ。」


「なんじゃ、つまらんものを抱えておったか。

まあワシのは大吟醸『歴戦殺し』ワシはのぉこの酒を呑みながらここで働く孫の仕事ぶりを楽しんでおるのよ。

あぁ可愛い『つばめ』。」


「にゃあ!!黙れ酔いどれドワーフ!!おみゃはこの良さがわからないのかにゃ!!一嗅ぎすれば、幸せにゃ!!美味しくて健康にもいい!!


おミャーさんはもこのまたたびの良さをわかってっ……いにゃい。」


(あの二人は完全にハズレだった。いや、目に止まったから確認したにすぎない。)

これであの三人に絞られた。


 車両に入り車内を見渡す、男がいない。


 小太りの男の座席へと近づき横目で確認する、向かいにはお婆さんがいて男の手荷物は何もない。帽子を落とすフリをして男の座席を床まで調べる。するとお婆さんの足元にちぎられた小さなパンが落ちていた、周囲を見回してもパンを食べている者はいない。


 (男が座った席からであればちらりと見える位置にパンが置かれている。ほんの小さなパンだ。誰かが通りすぎざまに投げ入れればわかるかもしれない、いや、脅威きょういに怯えたあの男なら気がつくハズだ。キョロキョロと汗をかきながら周囲を警戒していたのだから。


ー待てよ。


 あの汗を拭いていたハンカチが自分のことを示すマークだったのかもしれない。マークを確認してから、パンを投げ入れて接触する場所を伝えた。こう考えるとこの二人が繋がっている。

パンということは食べ物つまり ー『食堂車両』ー )


 俺は食堂車両へと向かった。

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