25.【夢から連れ出して7】
死神さんが村の方へ行ってから三十分ほどが経過した。
村はなぜか燃えるし、叫び声も聞こえるし。
すっごい怖い・・・というか春ニくんも死神さんもすぐ女の子を置いてどこかに行くのはいかがなものなの?
這いつくばっての格好で村の方を見ていると背後の方からガサガサと音がする。
「誰!!」
茂みから野うさぎの顔が出てくる、少し高い位置から。
男二人が出てくる。
一人は同じ歳くらいの青年、もう一人は中年のエルフ・・・なぜかウサギを抱いている。
赤い布を口元につけて背中にライフル銃を背負っている。
「あ・・・本当に妖精様がいらっしゃった!!」
「大将信じてなかったんすかい?心外だな~。」
二人の男達はジリジリと近づいてくる。
「近寄らないで!!何なのあなた達!!」
近くにある木の棒を持って威嚇する。
「おいお前の顔が怪しいから警戒されたんだ。」
「そりゃあねえぜ大将。
俺の腕にはこんなにかわいいウサギさんがいるんだぜ~。ダァハハハハ」
ウサギが男の腕から飛び跳ねる。
男達は豪快に笑うと口につけた赤い布と帽子をとる。
「妖精様、安心してください。撮影スタッフ達からあなた達の捜索を依頼されました。
こちらに『フレーシス』と名乗る女性からの書状を預かっております。」
二人は跪き、懐から手紙を出して私に渡してきた。
内容は『緑窟』駅で保護された事とこの集団が助けに来てくれたことそれと町田さんとフレーシスさんらのサインがあった。映画の出演依頼の時に書いた契約書にあったサインと同じ。
二人から出ている感情の色は正義の白と歓喜の黄色、悪意はない。
「とりあえず大丈夫そうね・・・。というかなんで跪いているんです?」
目の前にいる茶色いかみの青年が目を輝かせながら答える。
「それは我が一族の言い伝えといいますか・・・伝説と言いますか。
ご先祖様が森で出会った『白髪の妖精様』に助けられたという話がありまして、
それ以来我が一族は白髪のエルフ様をお祀りしているんです。
そして今目の前におられるのですから当然敬います。」
えっへん と言わんばかりに顔を輝かせている。
その脇の白髪まじりの二枚目エルフがチクチクしそうな髭を触りながらにやける。
「大将の家全員エルフ大好きなんだぜ。俺も拾ってもらった身なんだ・・・まぁ安心しなよ嬢ちゃん。」
枝を脇に捨てる。男達は立ち上がると歩き出す。
「じゃあ妖精様行きましょうか!!」
「ちょっと待って!!もう一人いるの・・・今村の方へ行っていて・・・。」
二人は顔を見合わせると大笑いする。
「ハハハハ、女神様も相当お疲れなようですほらずっとそこにいましたよ。」
「気持ちよさそうにおねんねしてますぜ!!」
私の背後を指差す二人、振り向くと大の字に寝ている春ニくんがいた。
「うぁ!!いつの間に!!」
目をさすりながら起きる春ニくん、状況を説明して男達の後をついていく。
一行は村から離れ森を進んで行くと・・・・線路に出る。
「意外とあと少しの所に線路があった・・・・。」
「さっ大将行きますか・・・ちょうどいい馬達がいたので呼んでみますよ。」
エルフの男が口笛をすると呼応したように少し遠くから馬の鳴き声が聞こえる。
森から五頭の馬が出てくる。
二頭は男たちのもののようですぐに男達に擦り寄る。
残りの三頭は鞍がついているが少し遠くでこちらを見ている。
「ついてきたみたいっすわ。
あいつらのか・・・馬に罪はねぇ、連れて行きましょう。
精霊様と三船さんだったか、馬の扱いは?」
「私は乗ったことがないわ・・・」
「僕は一応乗れます。」
青年とエルフの男が自分達のものを、春ニくんが私を後ろに乗せて線路を駆ける。
「ところであなた達は何者?」
並走する青年がしまったと言わんばかりの表情を浮かべて挨拶をする。
「我々は『ウォーレン統一円軍』。軍と言っても小規模な団体です。
そこの指揮をしている『グレン・ザトーモリ』と申します。このおっさんは『オーレフス』。
我々はウォーレン王の権威の復活と貴方方を襲撃した集団を探し出して、
この大地から消し去る事を目的に活動している義勇軍なのです。」
私の脳裏にあの男が持っていた首飾りがチラつく。
「あの集団・・・何者なんですか?」
二人は苦い顔をしながら続ける。
「やつらは『蠱毒』と呼ばれています。
最近ようやく名前を暴いたのですが・・・実態はまだ。
秘密結社、裏組織、傭兵、盗賊団、宗教団体と何でもあり。」
男は続ける。
「我が父は『ウォーレン革命円隊』という義勇軍を率いていました。
王の為とこのウォーレンで暴れている強盗や貧しい民を救って、
そして世間を騒がすもの達から国を守ろうとしていたのです。
我が兄も優秀なリーダーとして活躍していました!!
・・・・・・しかし、同じ名前を語った集団が突如現れて貴族の屋敷や軍事施設を襲撃、
二年前の列車襲撃事件もその集団が引き起こしました。
父は襲撃の首謀者として処刑されました。」
グレンは空を見つめて手を伸ばす。そして、拳を握る。
「私の父は無実の罪で処刑されたのです。
父はあの集団をずっと追っていました、残された手記に記されていたんです。
ずっと追っていたんです。
何年も追い続けて、その度に誰かを失ってきたんです!!」
「策謀と狡猾な罠でこの『ウォーレン』を蝕むあの集団は父の兄君の仇であり、
七年前に私の兄を殺したのです!!」
私は春ニくんの方を見る。掴んでいる背中から思考が伝わってくる。
『ー七年前に兄を殺した事件のはあの集団ー』
「父と兄の意志を継いでこの組織を作ったんです。
皆優秀ですよ、こいつはエルフの秘術を使って動物と意思疎通ができるんです。
エルフって本当ずるいですよね~。」
「 今度こそ一族の無念を晴らす!!
今度こそ・・・奴に罪を償わせるのです。
あ・・・・もちろん妖精様は崇め続けますよ!!」
春ニくんからどんどん嫌な感情が伝わってくる。
「春ニくん!!大丈夫?」
「あ・・・すみません。」
雨は村を出る頃には止んでいた、雲の切間から光が差している。
そんな天気とは逆に春ニくんの心は今曇ってしまった。
伝わってくるのは昔の光景、そこかの屋敷、車に乗った知らない人、
血のついた学生服の小さな切れ端、壺、周囲の人は動揺している。
視界が涙で滲む、顔がはっきりとは見えない遺影と線香。
その前で泣き叫ぶ小さな少年。
『ー兄さん・・・会いたいよ・・・ー』
◇
一行はしばらくして『緑窟』駅へと辿り着き撮影スタッフと合流した。
撮影スケジュールは切り上げられて一行は『霧江』へと帰る事になった。
春ニは二週間の休養をとり、麗奈も同じく二週間休養する事になった。
この事件は二年前の襲撃事件の再来として全世界へと知れ渡る事になり、
軍縮会議も途中で中止になり軍縮については見送りとなった。
撮影された映画は撮影できた部分と『月照帝国』で撮影したものを組み合わせて放映された。
宣伝や舞台化も行われて大ヒットを記録する事になった。
事件の一部やリアリティを求めて観客が殺到する事になった。
第一章【ウォーレン連合王国動乱 ー大陸暗躍編ー】 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます