24.【夢から連れ出して6】
『撮影四日目』
僕たちは森をさまよっていた。自分達がどこにいてどちらに進むべきなのかも分からないからだ。
線路に戻ろうとしても麗奈さんは道順を覚えていない。
「麗奈さん・・・僕たちもしかして・・・・。」
「言わないで~!!さっきまでの自分が恥ずかしくなる!!」
責任転嫁というわけじゃない。
・・・麗奈さんが「多分こっち」「任せて!!」というからついて行ったけど。
まぁこうなるよね。
麗奈さんは先ほどから「どうして~」「威厳が~」とぶつぶつ繰り返している。
僕はとりあえずそこら辺に生えている食べられる草とかアケビとかキノコとかを腕に抱えながらついていく。
孤児院の知識が役立つとは・・・。
「見て!!春ニくん村があるよ!!」
崖から見下ろすと、少し先に家が数軒立っている村を見つけた。
「麗奈さんすごい!!村を探し出すなんて~!!」
「えっへん!!先輩をもっと褒めてもいいんだよ!!」
なんだか昨日よりもスッキリしている、麗奈さんの中で何かが解決したようなそんな感じがする。
二人は村に入る、村は異様に静かだった。
耳を澄ませても生活音が聞こえない、家畜の鳴き声すらも聞こえない。
建物は藁の屋根で土壁、畑に野菜が青々と生えているし、最近まで手入れされていた形跡がある。
「人がいませんね・・・馬もいませんし。」
「待って・・・あっちの方を見て・・・。」
麗奈さんが指を指す方を見ると森の木々の間で・・・何かが動いている?
だんだん眠くなっていく・・・。
「こっちへと向かってる、奴らが到着に七、八分くらいか・・・。」
「どうするの!!見つかったら・・・」
奴らは馬に乗ってこちらに来る。
山に逃げるか?
奴らの装備は以前に比べて向上している、五発装填できるボルトアクションのライフル銃だ。
狙撃されることも想定せねばならない。
武器はナイフのみ、後は縄と集めたきのこや山菜、ワイヤー、針、包帯、マッチ、
・・・・コルカからもらった瓶。
「先輩は崖に登って安全な茂みに隠れて。もし俺に何かあっても絶対に出ないで。」
「でも・・・」
「勝算はあります。俺はただ戦う姿をあなたに見られたく無いだけです。」
そう言って近くの建物に入る。
口元に布を巻いて囲炉裏や薪に次々と火をつける、
竈にのこった灰を地面にばら撒き家の中にある油を地面にふりかける。
全ての家の囲炉裏に鍋をかけて中にコルカからもらった瓶の中身を水と混ぜてグツグツに煮る。
近くの木や机、キノコ全てをばら撒いたらマッチで火をつける。
武器がわりに家にあった二つ鎌を縄でつなげる。
全六棟ある家の内手前二軒に火を放つと身を隠して奴らが来るまでで身を潜めた。
◆
周囲の山の捜索はハズレだった。二つの村はハズレだったため去り際に火を放った。
そして、三つ目の村へ差し掛かった時にすでに火の手が上がっている、部下九名を引き連れて村の方へと向かった。
あのエルフめ・・・コソコソ逃げ隠れやがって!!
俺が司教になれなかったのはあの事件で失敗したからだ!!
「・・・あのエルフは絶対に生かしてはおかん!!」
馬を走らせて村に入る。
視界は煙で充満し、建物が焼ける匂いに混じって異様な匂いが漂う。
ツンとするような・・・甘ったるいような匂いだ。
「これはただの火事なのか?それともー」
ヒィィィッィィィィィィン ヒィッブルゥゥゥ
馬がすごい勢いで暴れ出す。
次々に馬が荒ぶり落ちる。
馬は錯乱し、来た道を戻る馬や、崖から落ちていく馬が後を立たない。
「隊長!!一人馬に蹴られて死んだ!!」
「とにかく近くの建物に入れ!!三人人組だ!!隠れている奴を炙り出せ!!」
俺は部下二人と焼けている家の隣の家、もう一組は村中腹、最後の組は村の一番奥にある家に向かった。
煙が充満していて視界が悪い、空気も最悪だが息はできる。
部下が家の扉を勢いよく開ける。
プツンッ
「ぁぁぁぁッー」
グサァァッツー
部下の頭に鍬が突き刺さる。
吹き飛ばされて扉の前に大の字に倒れ息絶える。
扉にはワイヤーで鍬がつられている、先が血で濡れたまま。
他の組も同様の罠が仕掛けられていたらしい、断末魔が聞こえてくる。
周囲を見回す。
「くそ!!コウがやられた・・・隊長!!」
「追い詰めているのは我々なのだ!!落ち着いて行動しろ、たかが男一人と女一人だ・・・」
家に入る、甘い匂いがどんどん強くなる。囲炉裏には黒い何か分からない液体がぐつぐつと音を立てている。
「これは・・・またたび?いや!!獣人が使う媚薬か!!
隊長!!先ほど馬が暴れたのはこいつのせいです!!
俺たちが使う馬の興奮剤の原料にもなってる!!」
頭に二年前同士を殺した男の横顔がチラつく。奴の姿は見えない。
俺の目の前で同志たちを返り討ちにしたあいつ。
まさか・・・あの男の仕業か?だが列車にはあんな顔の男いなかったはず。
家から出て村の中央へと向かう、村の至る所に火がかけられていて視界が悪い。
「隊長!!こっちは一人やられました!!」
中腹を捜索していた組が走ってくる。
「扉にトラップが!!同士がまた一人・・・くそ!!」
「おかしい・・・」
考えてみれば隠れるだけなら火を放つなど自殺行為、トラップを仕掛ける必要もない。
馬を興奮させたのはなぜか・・・・何かを隠す、いや足を止めるためか?
「た・・・隊長・・・逃げてっ・・・」
村の奥へ向かった組の一人こちらへよろよろと歩いてくる。
体のあちこちには深く刃物が刺さったであろう傷口から血が止まらない。
「なんなんだ!!隊長俺たちは逃げた女と男を追っていたんだよな!!
どんどん同士が死んでいく!!俺たちを襲っているのは何者なんだ!!」
「隊長!!撤退しましょう!!」
「無理だ・・・馬が使い物にならない。この村は・・・罠だ!!。」
俺たち四人は歩いてくる男を見る事に意識を向けていた。
ーだから気が付かなかった。
「ぐがぁぁ!?」
四人の中で村の入り口に一番近い位置に立っていた男の首に鎌の刃が突き刺さる。
「クソォ!!」
鎌が刺さった男の背後へと向かって狙いをつけず銃を放ち続ける。
他の同士も続けてライフルを撃ち、撃ち尽くす。
手に持ったリボルバー六発を撃ち尽くしたところで男が倒れる。首の鎌には縄がついていた。
まずい!!
「よくもクランゲをぉぉお"ぉ!?」
バスッ バスッ
隣に立っていた同士が二発脇腹と胸に穴が空く。
血を噴き出しながら仰向けに倒れる。
その脇に立っている同士がサーベルを引き抜いて銃声がした方へ走っていく。
「待て!!ルーベ!!」
「そこかァァァァァァァァ」
俺はリボルバーを排莢して弾を入れながら近くの建物の影に隠れる。
「ァッッ・・・ァァァァァー」
バン バンッバンッ ドサッ
銃声が三発と倒れる音がした後、雨が降ってきた。
「何なんだ!!どこにいる!!お前は何者だ!!」
ザァー
雨の音で何も聞こえない。
バシャッ
「誰って、神様だよ。・・・お前等を始末しに来た死神だ。」
「ふざけるなぁぁぁ!!我が神は一柱のみだ!!神を語る不届きものめぇぇ!!」
銃を構える、目の前に男の顔がある。銃を右手で掴まれ、銃口を腿に向けられる。
自分の腿を撃つ。
バンッ
「イギィぃぃぃぃ」
「お前達は神への生贄にするとか言ってあの列車の人たちを殺していたよな?」
「神ぃは・・・魔素にぃよって・・・はぁ・・・舞い降りられるぅ・・・」
左拳で男の顔面を殴ろうとするも、男が左手で引き抜いたナイフで突き刺されて壁に縫い付けられる。
リボルバーを男に奪われる。
「お前ら変な刺青してるよな・・・肩に・・・確か『蠱毒』って奴らのマークと同じ。」
「我らの神聖なる聖痕を!!刺青と言うなぁぁぁ!!」
「お前らどうして彼女にこだわる?お前らの変な神に関係しているのか?」
「我が神を愚弄するなぁぁ!!白いエルフは神に捧げなければならんのだぁぁ!!
だが、あの女を連れ帰ろうとしたばかりに作戦に失敗したぁぁぁ!!
あの時さっさと贄にすればぁぁぁ!!
俺はぁぁ!!」
右手でナイフを抜こうと手をかける。
「もう・・・いいか。」
バンバンバンバンバンッツー
腹部に五発銃弾が打ち込まれる。
視界が霞む・・・男は私の銃を投げ捨てると背中を向けて去っていく。
◆
男の足音が消えた後、背後から影が現れる。
「いやぁ~。こりゃまたコッピどい、逆鱗に触れたら必ず復讐っていう感じが伝わるね~。
いい感じの顔は・・・ないな。
あ!!・・・・こいつ生きてる。」
男は手に持ったインスタントカメラで俺の事を何枚も撮影する。
「『撮影四日目』!!楽しいショーだった~!!
あ・・・ねえ!!カメラちゃんと回してる?
しくじったら皮にするよ~。」
手を掴まれて何かを刺される。
「新型・・・まぁ使ってみるか。持ち帰って実験しよ。
この村の住民合わせて十五人・・・ほらこいつも持ち帰るよ。」
男達が現れて体を持ち上げられる。
そこで意識が途切れた。
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