後日談『休養』

 緑窟第一病院、『ウォーレン連合王国』でそこそこ名を知られている病院だ。

『霧江』や『首都』などの主要都市の病院には劣るものの西方諸国や『中央都市』で留学した医師が勤務している。

僕は駅へ着くなり病院へかつぎ込まれた。


 そして今目の前に座る医師が僕のカルテを読み上げる。


「全治二週間です。入院してください。」

「へ?」


 目の前の医師がそう告げる。


「いやいや僕なんとも無いですよ!!確かにちょっと傷が多いけど、そのうち治ー。」

「貴方ね・・・列車から飛び降りたんですよ!!体も傷だらけだし、自分で縫合するし!!

なんとも無いわけないでしょう!?」


「はい。」


「銃傷一箇所、打撲、切傷、多分骨にヒビもある上に縫合した部分が化膿する恐れもある・・・

とりあえず二週間入院ですよ!!貴方元気なのが奇跡と言ってもいいんですよ!!」


 医師にお叱りを受けてからそのまま病室へと案内される。

中には相部屋で奥からコリー、監督、町田さんや脚本家など生き残った男性スタッフがいた。

コリーさんの顔にはあざ、左手は骨折したのかギプスをつけてベットに寝かされている。

他の人達は怪我をしているが軽傷のようだ。


「おお!!三船くんじゃないか!!神の導きかな。」

「皆さん無事でよかったです。」


 僕が緑窟で会うことができなかったのは五人、清水さん・田中さん・撮影係が一名と秘書が二人。

もちろん病院にもいなかった。


 僕が病室のベットに案内されて、看護師達が退室する。

すると、コリーさんがさっきまでの笑顔とは一変してとても厳しい表情で監督を見る。


「・・・さてと、なぁ監督さんよ。

あんた列車で口走ったのはあいつらを引きつけるための妄言か?」


皆顔を見合わせる、監督が窓を見ながら口を開く。


「この事件の関係者は皆、二年前の惨劇の被害者さ。

直接の被害者もいれば、親しいもの達を失ったもの達もいる。俺もあの日の乗客の一人さ。」


「じゃあ電車で言った事は本心か!!」


 コリーさんが顔を真っ赤にしてベットから飛び出そうとする、だが怪我のせいで立ち上がれない。

監督は続ける。


「本心だ。あの時は死んでも構わないと思った、ここに来てよかったとも思った。

なぜなら今度は気を失わないで奴等に立ち向かえたんだからな。

それに、俺が映画を作るのは目の前で散った魂を歴史に残すためだからな。」


町田が驚きの声を上げる。


「まさか・・・『ジエルトリコの落ちた鳩たち』ジャコブ・クレー。死んだはずじゃ・・・」


「あんたも物好きだね、町田。そう、『ジャコウ』。

西方で兵士をしていた時に仲間との日々をとり続けた亡霊さ。

祖国が負けて復興資金を回収するためにフィルムを押収された、収益を独占するために俺を戦死扱いにしてな。

俺は死を受け入れたよ、その代わりに言葉を残させてもらった。

『俺が映画を作るのは目の前で散った魂を歴史に残すため』、俺の任務さ。」


 監督は帽子を顔に乗せて何も言わなくなる。

コリーは仰向けのまま語り出す。


「俺は・・・恋人と親友と『霧江』に行っていたんだ、親友家族と一緒にな。

親友の嫁さんが泣きながら俺の前であいつらが死んだことを伝えてきた。

今でも思い出すたび辛いんだよ・・・なぁ町田さんよ、なんでこの映画を作ろうとしたんだ?」


「我々がこの映画を作ろうとしたのは、人々に忘れさせないためです。

映画でこの事件を残すんです。

興味を持った人が真実を探るかぎり事件は風化しない、そしてそこから何かを得て欲しい。

そうして少しづつ何かを変えてほしい。

広まれば次は対策ができる、巡り巡って誰かを助けられるそう思ったのです。」


 病室は静かだった、その言葉に否定も肯定の声も無い。

ただ風に揺れるカーテンの音だけがその場に流れた。


・・・・と思った数秒後。


ドドドドッド


「せ~ん~ぱぁぁぁぁいぃぃぃっぃぃ!!」


 病室の扉を勢いよく開けてそのまま扉が隣の病室へ突き抜けていく、壁にヒビが入る。


「ナトレ!!尻尾!!角!!ちょっと扉!!」

「もう先輩をどこへもやりません!!

私が見ていないところで先輩が死んでしまうなら故郷の山で一緒に暮らしましょう!!そうしましょう!!

あぁぁぁ可哀想に!!私が二週間でも一生でも看護するから死なないでぇぇぇ!!」


 ナトレが猛スピードで僕の膝下で泣き出す。あ~あビッショビショだ。


「死なないよ!!ほらみなさん驚いてるから落ち着いて!!」


「びぇぇぇぇ!!」


 壊れた扉から麗奈さんと竹田さんが入ってくる、その後ろからコルカさんが入ってくる。


「もう!!ナトレ!!春ニくんが困ってるじゃないのとりあえず離れなさい。」


「だってぇぇぇ!!」


「おう春ニ!!梅干し無くなったから貰いにきたぞ~!!」


「よう少年!!ドワーフおじいちゃんから酒と私からはまたたびにゃ~!!」


 僕の周りでいつも通りの日常が繰り広げられる。

僕の場合これでいいのだろう、周りの皆んなと楽しく過ごせれば一番幸せなんだ。



 春ニは驚くほどのスピードで回復した。

四日入院した後に退院、その後は会社から自宅での静養を言いつけられた。


退院後の夜、春二の部屋にノックの音が響く。

深夜一時。


「こんな時間にどうしたんですか?先輩。」

「ちょっとお礼を言いに・・・入っていい?」


 招き入れて静かに扉を閉じる。

俺は湯を沸かしてテーブルに茶を置く、二つ分。


「別に礼を言われるようなことは何もしていませんよ。」

「私を二度も救ってくれたじゃない。」


「ただ最善の選択をしたまでです、春ニの幸せのために。」


 レーナは俺の手をとって真剣な顔で言う。


「でも助けてくれたのは事実でしょ、ありがとう命を救ってくれて。」


「」


 そっぽを向く。

まともに礼を言われることな・・・・


手を振り払う。


「あんた・・・・策士だな。」

「死神さんは本音を言わないから。へへ~。」


 こいつ・・・今までに出会った奴の中でもタチが悪いかも・・・、敵に回したくはない。


「ねえ、本名教えて?」

「教えん。」


 手を伸ばしてくる。


「いいでしょ~。私だって本名を教えたんだから!!」

「しつこいなっ。もう帰れ。」


 手をかわしていく、あぁもうしつこい。


「いいか?教えないのには色々事情があるんだよ、世の中には知らなくてもいいこともあるんだ。」


 触れた瞬間に何も考えない。

こちらに向かってくる手の勢いを応用してその場に立たせる。


「ほら帰れ。」


「もう、名前ぐらいいいじゃない・・・。」


 玄関前まで見送る、彼女は靴を履いて部屋から出て行く。

扉を閉めた・・・

鍵をかけようとノブを握った瞬間、扉を引っ張られて体勢を崩す。


 細くて白いてが頬に添えられる。


「お姉さんの方が長く生きているのよ。ゆだんしたわね。」


 

 額に柔らかい唇が触れる、そのまま顔が耳元に移り囁かれる。



「おやすみなさい雪一くん。」


 扉が閉められる。


「やっぱり敵に回したくはないな・・・・負けた。」 緑窟第一病院、『ウォーレン連合王国』でそこそこ名を知られている病院だ。

『霧江』や『首都』などの主要都市の病院には劣るものの西方諸国や『中央都市』で留学した医師が勤務している。

僕は駅へ着くなり病院へかつぎ込まれた。


 そして今目の前に座る医師が僕のカルテを読み上げる。


「全治二週間です。入院してください。」

「へ?」


 目の前の医師がそう告げる。


「いやいや僕なんとも無いですよ!!確かにちょっと傷が多いけど、そのうち治ー。」

「貴方ね・・・列車から飛び降りたんですよ!!体も傷だらけだし、自分で縫合するし!!

なんとも無いわけないでしょう!?」


「はい。」


「銃傷一箇所、打撲、切傷、多分骨にヒビもある上に縫合した部分が化膿する恐れもある・・・

とりあえず二週間入院ですよ!!貴方元気なのが奇跡と言ってもいいんですよ!!」


 医師にお叱りを受けてからそのまま病室へと案内される。

中には相部屋で奥からコリー、監督、町田さんや脚本家など生き残った男性スタッフがいた。

コリーさんの顔にはあざ、左手は骨折したのかギプスをつけてベットに寝かされている。

他の人達は怪我をしているが軽傷のようだ。


「おお!!三船くんじゃないか!!神の導きかな。」

「皆さん無事でよかったです。」


 僕が緑窟で会うことができなかったのは五人、清水さん・田中さん・撮影係が一名と秘書が二人。

もちろん病院にもいなかった。


 僕が病室のベットに案内されて、看護師達が退室する。

すると、コリーさんがさっきまでの笑顔とは一変してとても厳しい表情で監督を見る。


「・・・さてと、なぁ監督さんよ。

あんた列車で口走ったのはあいつらを引きつけるための妄言か?」


皆顔を見合わせる、監督が窓を見ながら口を開く。


「この事件の関係者は皆、二年前の惨劇の被害者さ。

直接の被害者もいれば、親しいもの達を失ったもの達もいる。俺もあの日の乗客の一人さ。」


「じゃあ電車で言った事は本心か!!」


 コリーさんが顔を真っ赤にしてベットから飛び出そうとする、だが怪我のせいで立ち上がれない。

監督は続ける。


「本心だ。あの時は死んでも構わないと思った、ここに来てよかったとも思った。

なぜなら今度は気を失わないで奴等に立ち向かえたんだからな。

それに、俺が映画を作るのは目の前で散った魂を歴史に残すためだからな。」


町田が驚きの声を上げる。


「まさか・・・『ジエルトリコの落ちた鳩たち』ジャコブ・クレー。死んだはずじゃ・・・」


「あんたも物好きだね、町田。そう、『ジャコウ』。

西方で兵士をしていた時に仲間との日々をとり続けた亡霊さ。

祖国が負けて復興資金を回収するためにフィルムを押収された、収益を独占するために俺を戦死扱いにしてな。

俺は死を受け入れたよ、その代わりに言葉を残させてもらった。

『俺が映画を作るのは目の前で散った魂を歴史に残すため』、俺の任務さ。」


 監督は帽子を顔に乗せて何も言わなくなる。

コリーは仰向けのまま語り出す。


「俺は・・・恋人と親友と『霧江』に行っていたんだ、親友家族と一緒にな。

親友の嫁さんが泣きながら俺の前であいつらが死んだことを伝えてきた。

今でも思い出すたび辛いんだよ・・・なぁ町田さんよ、なんでこの映画を作ろうとしたんだ?」


「我々がこの映画を作ろうとしたのは、人々に忘れさせないためです。

映画でこの事件を残すんです。

興味を持った人が真実を探るかぎり事件は風化しない、そしてそこから何かを得て欲しい。

そうして少しづつ何かを変えてほしい。

広まれば次は対策ができる、巡り巡って誰かを助けられるそう思ったのです。」


 病室は静かだった、その言葉に否定も肯定の声も無い。

ただ風に揺れるカーテンの音だけがその場に流れた。


・・・・と思った数秒後。


ドドドドッド


「せ~ん~ぱぁぁぁぁいぃぃぃっぃぃ!!」


 病室の扉を勢いよく開けてそのまま扉が隣の病室へ突き抜けていく、壁にヒビが入る。


「ナトレ!!尻尾!!角!!ちょっと扉!!」

「もう先輩をどこへもやりません!!

私が見ていないところで先輩が死んでしまうなら故郷の山で一緒に暮らしましょう!!そうしましょう!!

あぁぁぁ可哀想に!!私が二週間でも一生でも看護するから死なないでぇぇぇ!!」


 ナトレが猛スピードで僕の膝下で泣き出す。あ~あビッショビショだ。


「死なないよ!!ほらみなさん驚いてるから落ち着いて!!」


「びぇぇぇぇ!!」


 壊れた扉から麗奈さんと竹田さんが入ってくる、その後ろからコルカさんが入ってくる。


「もう!!ナトレ!!春ニくんが困ってるじゃないのとりあえず離れなさい。」


「だってぇぇぇ!!」


「おう春ニ!!梅干し無くなったから貰いにきたぞ~!!」


「よう少年!!ドワーフおじいちゃんから酒と私からはまたたびにゃ~!!」


 僕の周りでいつも通りの日常が繰り広げられる。

僕の場合これでいいのだろう、周りの皆んなと楽しく過ごせれば一番幸せなんだ。



 春ニは驚くほどのスピードで回復した。

四日入院した後に退院、その後は会社から自宅での静養を言いつけられた。


退院後の夜、春二の部屋にノックの音が響く。

深夜一時。


「こんな時間にどうしたんですか?先輩。」

「ちょっとお礼を言いに・・・入っていい?」


 招き入れて静かに扉を閉じる。

俺は湯を沸かしてテーブルに茶を置く、二つ分。


「別に礼を言われるようなことは何もしていませんよ。」

「私を二度も救ってくれたじゃない。」


「ただ最善の選択をしたまでです、春ニの幸せのために。」


 レーナは俺の手をとって真剣な顔で言う。


「でも助けてくれたのは事実でしょ、ありがとう命を救ってくれて。」


「」


 そっぽを向く。

まともに礼を言われることな・・・・


手を振り払う。


「あんた・・・・策士だな。」

「死神さんは本音を言わないから。へへ~。」


 こいつ・・・今までに出会った奴の中でもタチが悪いかも・・・、敵に回したくはない。


「ねえ、本名教えて?」

「教えん。」


 手を伸ばしてくる。


「いいでしょ~。私だって本名を教えたんだから!!」

「しつこいなっ。もう帰れ。」


 手をかわしていく、あぁもうしつこい。


「いいか?教えないのには色々事情があるんだよ、世の中には知らなくてもいいこともあるんだ。」


 触れた瞬間に何も考えない。

こちらに向かってくる手の勢いを応用してその場に立たせる。


「ほら帰れ。」


「もう、名前ぐらいいいじゃない・・・。」


 玄関前まで見送る、彼女は靴を履いて部屋から出て行く。

扉を閉めた・・・

鍵をかけようとノブを握った瞬間、扉を引っ張られて体勢を崩す。


 細くて白いてが頬に添えられる。


「お姉さんの方が長く生きているのよ。ゆだんしたわね。」


 

 額に柔らかい唇が触れる、そのまま顔が耳元に移り囁かれる。



「おやすみなさい雪一くん。」


 扉が閉められる。


「やっぱり敵に回したくはないな・・・・負けた。」

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