28.【銀の矢】

 四日目の朝、僕たちの豪華客船での一時は終わりを迎える。

『発着場』を一目見ようとデッキに観光客が集まる、僕達も荷物を持ってデッキへと向かう。


 「見えたぞー!!」

 

 乗客の一人が声を上げる。

目の前に現れたのは、五つの白い巨大な円柱に囲まれた島。

岩場も木々もない整った白い大地、島中心にあるであろう位置に巨大な円柱のような山がそびえ立つ。

港らしき所から山の頂上へは一直線の階段が設けられている。

ひび割れも、崩壊した箇所も一切無い全てが太古の技術によって保たれている人工島。


 船は階段状になっている岸へ近づき、上陸準備を進める。

錨を下ろすと岸から赤い一筋の光が船体に放たれ、客船全体へ走る。

光が消えたと同時に轟音が響き、海から大理石のタラップが築かれる。


「さて、降りようか。」

「ナトレ、勝手に離れたら怒るからね。」

「わかったっす・・・・あ、あ~!!あの時の爆弾魔!!」


 僕達の背後には派手なシャツの男性と黒いスーツに身を包んだ二人の男女が立っていた。

ここで降りるのは僕達五人と船で出会った三人のみのようだ。


「あれ~!!奇遇だね。君達も『中央都市』へ行くのかい?」

「そうっすよ。仕事っす初の出張っすよ!!」


 ナトレが誇らしげに胸を張る。

出張といっても僕達がすることはほとんど何も無いんだけどな~。


「まあ僕達とは短い間だけどよろしくね、僕らは中央都市から別の発着場へ行くだけだから。」

「しょ・・・テディさん、それは機密ですよ。」

「まぁいいじゃん。さあ、行こうぜ!!」


 全員が大理石の地面へ降りると、タラップが一段ずつものすごい速さで海中へと戻っていく。

最後の一段が沈み、船が錨を上げて出港する。


「さてと・・・じゃあついておいでよ諸君!!


 僕達の目の前には、白い山の様に見えたとてつも長い階段が目の前にあった・・・目的地はおそらく頂上。

僕達は真っ白な階段を登っていく、段数は覚えていないが八分ぐらいはずっと階段だったんじゃ無いかと思う。


 頂上は綺麗な円になっていて、辺りには何も無い。

そこから見る景色は、まるで空と海の中心に立っているかの様な不思議な場所だった。

一面真っ白な地面、時より地面に青い光で謎の紋様が浮かび上がる。


「ぜぇ、はぁ、やっと・・・着いた。」

「よし早速乗り込むとしようか!!」


 テディさんは中心へ向かって歩みを進めていく、僕達も一緒に着いていく。

僕達が歩き始める、だが麗奈さんは足元にある謎の紋様を見つめたまま動かない。


「麗奈さん?」

「・・・あ、ごめんごめん。」


 テディさんが地面を見ながら歩いていく、突然彼は片手を広げて僕達を静止する。

すると、許可証を取り出して手を突き出す。

船の時と同じように赤い光線が許可証に当たる。


ゴゴゴォォォッォ

 大理石の床に巨大な長方形が描かれたと思うと突如それが直方体となって僕達の目の前に出来上がる、そして吹き飛ぶように直方体の壁と地面から黄金の粒子が吹き飛ぶ。


一瞬目を閉じる、次に視界に移ったのは白銀の光だった。


 直方体から出てきたのは列車に近い物乗り物といつの間にか築かれていた半透明のレール。

先頭は矢の様に尖っていて、普段乗っている列車とは違い凹凸が少ない。

白銀に輝き、窓は境目がわからないほど透き通っている。


「『白銀の矢』過去の遺物の一つです、この乗り物を真似して列車が誕生したんですよ。

それでは行きましょう!!hahahaha」


車内の装飾は金色に輝く謎の紋様、それ以外は何も無い。

車内の椅子や床は全て白と銀に統一され、美術品の様な豪華さは無いが技術的な価値は素人でもわかる程の代物だった。


 座席は先頭を向いて二席二組で左右に五列、計二十席。

全員が着席すると入り口のドアが一人でに閉まる。


ゴゴゴゴゴゴゴッツ

窓から少し覗いてみると列車の前方付近にレールが空に向かって伸びていた、だが途中までしかない。

バリリリィッー

 その音が聞こえた瞬間に窓から見える景色が消し飛んでいた、一瞬青い閃光が見えたと思った瞬間に雲を突き抜けていた。列車は中を浮き、先程までいたであろう島が一瞬にして下に見える。

列車は上昇し、加速する。


下に見える景色がどんどんと変わり、あっという間に大陸の上を進んでいく。


 列車に乗って五分程、それは姿を現した。

目の前には浮遊する巨大な大地が見える。

先ほどの島と同じような人工の白い大地、島の中心にはとてつもなく巨大な一本の樹木がそびえていた。

だが先ほどの島とは違い、大地には見慣れた建物や煙突からのぼる煙が上がっている。


 列車は速度を落とし、またしても殺風景な円形の大地に降り立つ。

僕達は興奮が冷めないまま列車を降りる。


「「凄かった!!」」

 

 ナトレと忍さんが地面をぴょんぴょん跳ねながらさっきの出来事について語り合っている。麗奈さんも少し興奮しながら先ほどまで乗っていた列車を見つめている。降りたのは六人。


「さて諸君!!お別れだ。」


 列車の降り口付近に立っている三人組がこちらに手を振る。


「君たちの旅路に女神の祝福が在らんことを!!楽しんでくれたまえ中央都市でのひと時を!!」


 そう言い放つと扉が閉まる。

半透明のレールが掻き消えて、また別の方向へ向かうレールが構築される。

そして、轟音と共に先端から青白い光が発生して車体全体を包んだ。

その瞬間に目の前から列車が消え去る、遅れたように雷鳴が轟いた。


「行っちゃった。騒がしい人だったっすね、先輩。」

「本当にね。」

「春ニ様!!皆様!!早く参りましょう!!」


 忍さんがナトレと麗奈さんの手を引いて歩き出す、それに続いてコルカさんとゴルドーさんも歩き出す。

僕は胸ポケットから写真を取り出して街へ向ける。


「兄さん、着いたよ。僕達の夢の場所に。」



 列車内に残った三人は旅行客の装いから着替えていた。


「少佐殿はもう少しおとなしくできないのですか?私は肝が冷えっぱなしでしたわよ。」

「いやいや~。今回は面白いものが見れてつい調子に乗っていたんだよ。

今まで神を信じてはいなかったが、oh my god って奴だよ。 」

「何なんですか?そのオーマイ何とかって。」

「気にしないでくれ、古い感嘆句だよ。」


 少佐と呼ばれた男は軍服に着替え終わると手に持った写真を眺めていた。

写真に写っていたのは先程まで一緒にいた白髪のハーフエルフの女性。


「hahaha これで『ウィンダルシア』との交渉がうまく運ぶ、歴史が動くぞ。」

「一体何が分かったんです?」


「子孫が生きていたんだよ、『勇者の子孫』がいたんだよ霧江に。」

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