29.【大樹の守り人】
僕達は列車が降り立った地点から街の方へと歩いて行き、『発着場』と書かれた煉瓦造りの門をくぐる。
門前に立ち街を見回す。
見上げれば空一面に広がる大樹の緑と雲の無い青空、
その下には煉瓦造りの街並みと月京と同じ様に路面電車が走り、ガス燈が並ぶ。
遠くの方ではひときわ大きい建物と巨大な時計塔が見える、おそらくあれが『学園』だろう。
どの建物も建てたばかりの様に美しく、ひび割れも無い。
昔に見ていた絵葉書のままの街並みが今も変わらず残っている。
そんなふうに考えていると僕の服をナトレが引っ張る。
「先輩~、観光しましょうよ~。ほらあの服屋なんてめちゃくちゃオシャレですよ~。」
「今日は観光できないよ。」
「「え~!!」」
ナトレと忍さんが驚きの声をあげる。
「今日は一ヶ月お世話になる宿舎と学園での手続き、それから大陸鉄道協会で明日の会議の打ち合わせ。
それから・・・・」
「聞きたくない!!あ~私の観光スケジュールが・・・・。」
がっくりと項垂れるナトレを見かねた麗奈さんが提案する。
「じゃあナトレはこれから忍さんと一緒に学園の方の手続きをしに行って貰おうかしら。
手続きが終わったら自由に街を回ってもいいわよ。」
「みゃあも宿を探さないとだから一緒について行ってやるにゃ。」
「「やったぁぁ!!」」
「学園はほら、あそこに見える時計の・・・」
ナトレは口に鞄の取ってを咥えて両脇に荷物を持った二人を抱えると猛スピードで学園の方へと走っていった。
「若い者はすごいのぉ~。」
「いや、若いどうこうの話じゃ無いと思いますよ・・・。」
残された三人は大陸鉄道協会本部へと向かった。
本部があるのは巨大な樹木の真下の地域『大樹』、そこは各国首脳が集まる会議場や大使館などが立ち並ぶ地域。
僕達が樹木の真下へ辿り着くと目の前にはドーム型の大きな建物の隣に、白い外観と西国の宮殿の様な見た目をした建物が立っていた。
国際議事堂と本部である。
国際同盟が誕生してすぐに国々が協力して設立した団体である為、協力の意志を表す為にこの場所にあると言われている。
僕達が本部の入り口前まで行くと金髪のシワが深く刻まれた男性が立っていた。こちらに気づくとニコニコと優しい笑顔を受けべて歩み寄ってくる。
「お待ちしておりましたよ、『霧江』のみなさん。
私は『大陸鉄道本部』副代表のケレス・ヘックと申します。」
「初めまして、私は『霧江大陸鉄道社』鈴島と申します。こちらが技術顧問のゴルドー、それから三船です。」
「皆様お越しいただいてありがとうございます。
・・・麗奈さんと三船さんは少々ついてきていただけますかな。ゴルドーさんはあちらのものが案内します。」
先程までの笑顔が消えて真剣な表情で建物に入っていく、僕達は戸惑いながらもついて行く。
ゴルドーさんは獣人の女性に案内されながら僕達と別れる。
僕達が向かった先は代表室。ケレスさんに促されて中へ入ると部屋の奥で外へ顔を向けて佇む銀髪のエルフの女性がいた。手には自分の身長よりも長い杖を持ち、銀色に輝く結晶が取り付けられている。
「エヴェサ様、『霧江』の三名をお連れしました。」
「ありがとう、ケレスさん。」
ケレスさんが退出すると目の前の女性がこちらへ向く。持っている杖で床を探りながら椅子へ座る。
銀色の長い髪の美しい女性、目は閉じたままだがこちらを見ている。
身につけている銀色のネックレスには二つの指輪がと輝く。
「『霧江』から来てもらってありがとう。私はこの協会の代表『エヴェサ・ミーシア』と申します。
貴方達のお名前を聞かせてもらってよろしい?」
「私は『霧江大陸鉄道社』の鈴島と三船です。」
「鈴島さんと三船さん?・・・ああそうだったわ、うっかりしていたわ。
・・・・『本名』を教えてもらえるかしら?」
レーナさんがついこちらを見る。代わりに俺が答える。
「貴方は鈴島の正体を知っている・・・ということですか?」
「いいえ、でももしかしたらと思ってお呼びしたの。
ケレスからこの前起きた事件で『白髪ハーフエルフ』の社員が巻き込まれたと聞いて・・・まさかと思って。」
「・・・『レーナ・ティーアガル』と申します。」
先輩の方を向く、深緑色の瞳で真っ直ぐに彼女を見つめていた。
エヴェサはその言葉を聞くと少し震えながらネックレスをこちらに掲げて告げる。
「これを・・・ずっと預かっていました。貴方の母から渡すようにずっと預かっていました。
長かった・・・この千年間は。」
エヴェサの目から涙が伝い落ちる、麗奈はエヴェサの元へ駆け寄りその手を握る。
「貴方は私の両親を知っているのですか?教えてください、私は何者なんですか?」
「私の旧姓は『ティーアガル』私は貴方の叔母です。貴方の父の妹で、二人と共に旅をしていました。
貴方はー」
麗奈は言葉の続きを聞く前に目を見開いた、目からは涙がどんどんこぼれ落ちて行く。
「勇者である『鈴島きりえ』様と我が兄賢者『シュウレ・ティーアガル』の娘です。
貴方が白髪であるのがその証拠、この世に存在する白髪のエルフは我が兄かその血を引くもののみなのですから。」
「私の母と父が・・・」
エヴェサは机の引き出しを開き中から菱形の小さな結晶を取り出す、そして杖の石突で軽く床を叩く。
すると背後の扉に鍵がかかり、背後のカーテンが閉じられて部屋が暗闇に包まれる。
「三船様がここにいるのは真相を知る運命にあるという事、少々私の昔話に付き合ってもらいましょう。
ただしこれより見せるものは決して口外しないでもらいたいですわ。もちろん、今したことも。」
ふぅ~
と何かに息を吹きかけた音が聞こえたと思えば青白い粒子が辺り一面に舞い落ちていく。
空中に何かの文字が浮かび上がりその言葉を意味するものが形となって具現化していく。
「今浮き上がっている字は異界では『英語』と呼ばれているもの、我らの共通語の元となった言語。
形も意味も少しずつ変わっていき、遂には忘れ去られた神話時代の文字。
そして私とレーナがこの時代で目覚めるまで使われていた言語。」
青白い光に照らされたエヴェサが空中に文字を描く、すると部屋の中心に一人の人物の像が出来上がる。
「私たちは千年間賢者によって眠らされていたのです。
これから話すのは私が眠らされる前の物語、レーナが生まれるまでの物語。」
「聖魔大戦の真実」
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