眠りの神話

部屋の中心に光が集まり像を作り上げる、出来上がったのは奇妙な形の街。

直方体の建物が並び立っている。


「この世界はかつて魔法による高度な文明を持ち、エルフの一種族と動物のみが存在していた。

人々は自身の持つ魔力、外界に無限に満ちる魔素の恩恵を受けながら繁栄した。

だが、人々は魔術の禁忌へと踏み入れてしまった。


 二人の魔術師が禁忌の術を二つ生み出した。

『生命に魔力を注いで新しい生命を生み出す術』と『異界より何かを召喚する術』だ。

 前者は周りの術師や国からすぐに禁忌とされて糾弾された、

しかし、後者は魔力によって呼び出されるものが変わるために扱いやすく術師は褒め称えられた。

その時に、禁忌を産んだ魔術師は同時に一つの疑問を抱いてしまった。


 【


 術師は召喚魔術を盗み、次々に召喚を繰り返していった。

その度に媒介は増えていく、より多くの魔力を求めて禁忌に染まっていった。

魔術師はどんどん狂っていった。

 

 ある日魔術師は自分の魔力と数多の生物と引き換えに召喚を行った。

呼び出してしまったのはこの世界を覆い尽くすような大水、それがこの世界を押し流した。」


 中心の像が波に押し流されて跡形も無くなっていく。


「これが私が生まれる前の世界の話。


 この洪水を生き延びたエルフ達は国を作ったそれが『ウィンダルーシア王国』。

そして、この洪水と一緒に流れ込んできたのは色んな世界から迷い込んだ種族達。

洪水直後は自然に存在した魔力が荒れ狂い、生命に変化を及ぼした。


 それから数百年はかつて発達した魔法文明を忘れ去り、誰も禁忌に触れることはなかった。

人々は自分自身が持つ魔力と外界に満ちている魔素とうまく共存し、以前よりは後退したがしばらく平和な日々を送っていた。」


 小さな集落が現れ、どんどん建物の形が変化していく。西国の古城の像が描き出されるとすぐに描き消えた。

代わりに幼い兄妹の姿が現れた。


「そんな時代に金の髪を持った男の子と、銀の髪を持つ兄妹が生まれた。

兄は幼いながらも膨大な魔力を扱うことができる上に、魔法知識でもそれ以外でも才があった。

人々は兄の才を褒め称え、頼った。


 そして、『物質を魔力へと変化させる装置』を作り上げると人々は幼い彼を『賢者』と呼ぶようになった。

だが兄の力を悪用しようとした魔術師が妹を誘拐した。

兄は妹を救うために魔術師のいうことを全て聞いた。


 その魔術師はかつて失われたはずの禁忌の術を兄に教え、他の世界からまずは膨大な魔術を兄の身に宿らせた。

雷となって兄に降り注いだ魔力によって膨大な魔力を宿したが、その代償に綺麗な金髪は真っ白に変わり右手と左足を失った。」


 雷に打たれる少年、その体を引きずって謎の装置に取り付けられる少年。

叫び、苦しむ目の前の少年その光景を鉄格子から見ている。

これはおそらく、エヴェサの過去だろう。


「魔術師は数多の生物に魔力を注ぎ、装置を使って魔力を兄に流し込み召喚を行った。

その時は何も召喚されなかった。


 王国軍により兄弟は救い出されると魔術師は東へと逃亡した。

その直後、各地で魔獣が現れて周辺の国を荒らすようになった。


 異変を調査するために王国の精鋭騎士が調査に乗り出し、魔物が大陸東から流れていることが判明した。

彼らは元凶を突き止めるため東へと進み、ただ一人の生き残りを除いて壊滅した。

だが、その生き残りも元凶達に生かされていたに過ぎなかった。


 王へ報告しようとしたその瞬間騎士の体を黒炎が包み、騎士の体を操って戦線を布告した。

元凶は【逃亡した魔術師と異界から召喚された魔王】だったのだ。

そう、兄はあの召喚で魔王を呼び出してしまったのだ。」


 村に襲いかかる魔獣の群れ、グラー邸で見た黒い猿に似た顔の魔獣が映し出される。

場面は切り替わり、魔法陣を描く青年エルフの姿が描かれる。魔法陣が光るとそこには一人の女性が現れる。


「魔王に対抗するために兄は異界から戦士を召喚することに成功する、

その時に呼び出されたのが勇者『鈴島霧江』。

王国や周辺諸国の軍勢、賢者の兄と宮廷魔術師だった私を連れて東の魔族領へと向かう。


一進一退を繰り返す攻防の最中で敵の呪いによって視力を失った私は、

傷を癒すために兄達の元から離れ一線を退いた。

その時の浮遊要塞、現在の中央都市を守りながら目下の戦闘を見守ることしかできなかった。

結果、勇者たちは魔術師の征伐と魔王を眠りにつかせることに成功した。

 

 多くの仲間とこの世界を覆っていた自然な魔力、現代で言うなら魔素を代償に

人々は平和を手にできるはずだった。

魔素が無くなった事に怒りを覚えた人々と勇者と賢者の力を恐れた王族達が

今度は二人をこの世界から排除するために軍を差し向けた。」


 二人を追い続ける兵士、彼女の元にも討伐の指令を伝える兵士の像が映し出される。

その兵がさった後にローブに身を包んだ女性が現れる。


「身動きが取れない私の元へ勇者が訪ねてきて、この指輪を託された。

そして、指輪に込められていた魔法によって私は千年間眠り続けることになったのだ。


 目が覚めた時には勇者と賢者のその後の歴史が消されて、

王国が彼等に兵を差し向けたことも綺麗に抹消されていた。


眠っている間に私達の時代は神話と呼ばれ、人々はあの醜い歴史を崇めている。

そして、目覚めた私はこの世界で今も生きながらえている。

これが神話の真相だ。」

 

 コツン

 

 床を叩く音が聞こえるとカーテンが上がり、鍵が開く。

彼女が持っていた結晶がパキッと音を立て、塵になって消えていった。

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