30.【全ては星の導き1】

「レーナ、貴方は特殊な血を受け継いでいる。

貴方に触れた時に、兄の全盛期に匹敵するだけの魔力が伝わってきました。

貴方は兄から魔力を受け継いでいたのです、きっとそのうち貴方を狙う者が現れます。

中央都市に残りなさい、【銀星】『エヴェサ・ミーシア』の名にかけて護りましょう。」


 エヴェサは見えていないはずの目でレーナを正面から見つめ、目を開いた。

薄い銀色の瞳が目の前の彼女を優しく見つめる。


「いえ、それには及びません。

お気持ちは嬉しいですが、私には帰らないといけない場所があります。

それに、私を護ってくれる人ならもう見つけましたので。」


 レーナがこちらを振り返るとエヴェサの手を握る。


「貴方この力っ・・・・。」


エヴェサが何かに驚いた後、優しく微笑む。


「ふふ、貴方は素晴らしい人たちと巡り会えたようですね。」

「ええ。」


 そんな風に二人が笑い合っていると廊下からドタドタとコチラへ近づいてくる足音が聞こえる。


 バンッと勢いよく扉が開かれると茶髪のどこかキザったらしい男性が四人の取り巻きを引き連れて現れた。

カッチリとした軍服のような制服に拳銃を腰ぶら下げている。


「エヴェサ様、『ジエルラド帝国鉄道社』のルキレシー二参上しました。

お出迎えがなかったので直接参りましたよ・・・この私がね!!」


「ルキレシーニさん、ごきげんよう。こちらは『霧江』のー」

「おっと!!麗しいレディ・・・この後お食事でも。」

「えっ。」


 男は先輩の手を握って前に跪く。

ついベルトのバックル(隠しナイフ)に手が伸びてしまう。


「レディ、失礼ながら我々はエッヴェサ殿と重要なお話があるのでご退出願えますかな?」

「お二人ともすみません。今度改めてお話し致しましょう。」


「それでは私とも今度ディナーを。」


 そう言うと男は先輩の手に口付けをする・・・・。

殺っー


「し、失礼します!!ほら、三船くん行くよ~!!」


 先輩が慌てて俺の腕を引っ張って部屋を出る。

そのまましばらく腕を引っ張られる。


「三船さん・・・?」

「うるさい。」

「殺気まんまんですけど?」


「・・・・」


「へ~」


 先輩はそのまま僕の手を引いてゴルドーを迎えにいく。

しかし、ゴルドーはこのまま本部で技術指導の任務につくらしくここで別れることになった。

本部から出た二人は、ナトレ達を迎えに学園へと向かった。


 学園ににたどり着くと、目の前の光景を見て天を仰いだ。

門から広場に向かって一直線に石畳がえぐれ、瓦礫が散乱している。

その向こう側では、複数の男女が言い争っている。

さっきのキザ男にそっくりの男と数名の取り巻き、その目の前に金色の短髪の女性と青い長髪の女性。

その後ろには・・・ナトレ達が立っている。


 先輩がこちらを見てくる。

仕方ない、鞄から三本のペンを出してキャップをひねる。

一本ずつ投擲して、全力でナトレの元へ走る。


残り二分。


 

 時は遡るっすー 


 走る私はさながら機関車、通り過ぎる人たちの帽子や店の看板を吹き飛ばしていたっす。

何も考えずに全力疾走していたらあっという間に学園が見えてきたっす。

・・・止まろうと足でブレーキをかけても、勢いが凄過ぎてそのまま門を通り過ぎたっす。


「ナトレ様っ、前!!」


 速度が全く落ちないまま校舎前の広場へ突入、このままのスピードだと校舎に突撃することになるっす。

そんな事を考えていると、目の前に仲良く歩く二人の女性が。

二人もこちらを振り返る。


「「「「きゃぁぁぁ!!」」」」


 尻尾を出して地面を叩く、翼を広げて両脇に抱えた二人を守ったまま宙返りをして飛び越える。


スタッー

咥えていた荷物を下ろして、両脇の二人を下ろす。


「あ~申し訳ないっす~!!みなさん怪我はないっすか?」


「大丈夫にゃ・・・」

「ナトレ様・・・目が回りましたわ~。」


 背後の二人は私を見て目を丸くしている・・・あ。急いで翼と尻尾を隠す。

騒ぎを聞きつけた人達が学園の方から向かってくるのが見える。


「どうしよう、見つかったらやばいっす~!!

どうしよう床も壊しちゃった~!!」


 頭を抱えてしゃがみ込んでいるとぶつかりそうになった二人が話しかけてくる。

一人はブロンドの髪にショートボブの女の子、青い瞳をキラキラさせてこちらを見つめて来るっす。

その子に『シアちゃん』と呼ばれた彼女は水色のウエーブのかかった長い髪の女性でどこか上品な印象があるっす。


「床は後で学園長が直すから心配ないよ!!それより見つかったら大変なんじゃない?」

「確かに、どうしよう!!」

「とにかくここを離れましょう。」


 二人に連れられて広場から立ち去ったっす。

ついていった先には、四角く切り揃えられた生垣と色とりどりの花が咲き乱れる庭園があったっす。


「二人ともありがとうっす~!!

私は『ナトレータ』この学園に少しの間だけ留学しにきた・・・その、龍人っす。

このことは内緒にして欲しいっす。こちらも留学生の『五ノ宮 忍』さん、あとついてきた『コルカ』さん。」


「私は『リリア・クランス』、この学園の高等部二年生~。それから『シアちゃん』!!」


 にっこりと微笑みながらリリアちゃんは隣の彼女に抱きつく。

抱きつかれながらも貴族のような綺麗なお辞儀をして名乗る。


「私は『ミルネシア・ハーディー・ジエルドニコ』と申しますわ。以後お見知り置きを。」


 その名前を聞いた忍ちゃんとコルカは驚きの声をあげる。


「ジエルドニコって・・・」

「おみゃ、あにゃた様は・・・もしかして『ジエルドニコ皇国』の・・・」

「そう!!シアちゃんはお姫様なんだよ~!!呼びにくいからシアちゃん。」

「ところで皆様こちらに来たばかりなのでは?留学の手続きなどはされましたか?」


「どうしてわかったすか!?」

「大きなカバンを持ってらっしゃるし、それに校章をつけてらっしゃらないもの。」


 二人の胸には銀の結晶が埋め込まれた丸くて小さな校章が輝いていたっす。

透き通った結晶には樹木と星が合わさったような印が刻まれていたっす。


「どうしようこのまま帰ったら怒られる!!」

「じゃあ私達が近道を案内するよ、広い学園だからね。」


 それから庭園を出て、手続きを済ませてたっす。

そのまま皆んなで学園を出ようと校舎の正面玄関から広場に出ると、数名の男達がこちらを向いて立っていたっす。

イカつい男達と中央には茶髪の青年、何だか偉そうな雰囲気を感じる。

取り巻きの一人が私を指差す。


「あの女です!!」

「おやおや、ジエルドニコ様も一緒でございましたか。」


 こちらに近づいてくる。

リリアちゃんが私たちの前に立って男達から庇う。


「ジエルドリコ様、後ろにいらっしゃる女性と少々お話がしたいのですが。」

「ルンベルシュルツさん、彼女に何のようですか?」

「こいつが見たのですよ。凄い速さで走り、大地を切り裂く彼女の姿を。」


 男が嫌な笑みを浮かべてこちらを見る、欲にまみれた笑み。私を捕らえたグラーのようなドス黒い笑み。

シアさんはこちらを見て微笑むと、男達に告げる。


「ご冗談を、彼女にそんなことができると思いますか?

それになんの権限があってつれていくのです?彼女は嫌がっておりますよ。」

「見間違いでもなんでも結構、私は帝国の栄光のために彼女を連れていかねばならないのです?」

「さっさと退いてよ、ニキレシール!!」


 リリアちゃんが男の名前を呼んだ瞬間男の目が吊り上がり、見てわかるほど顔を赤くする。


「貴様如きがこの私を呼び捨てにするな、他国に尻尾を振る犬め。」

「今なんて言った?」


 男がリリアちゃんの方へ近付いていき、目の前に立つ。


「犬って言ったんだよ、聞こえなかったのか?

いつもやかましく騒ぎ散らしやがって、貴様如き愚民がこの高貴な私に吠えるな!!」

「あなたこそ家の権力を振りかざしてみっともない、貴方自身が偉いわけじゃないでしょ。

あなたこそ声を荒げて犬みたい!!」


 男はリリアちゃんの胸ぐらを掴む。


「私は『ニキレシール・ルンベルシュルツ』、『ジエルラド帝国』のルンベルシュルツ家の次男だぞ!!

穏便に済ませようと下手に出てれば調子にのりやがって、お前とは格が違うんだよ!!」

「だから何、偉いからって何をしてもいいというの!!」

「うるさい!!黙れ!!」

「きゃぁ!!」


 男がリリアちゃんを横へ投げる。

取り巻きの男達がジリジリとこちらを囲んでくる。


「このようなことが許されるとお思いですか、ルンベルシュルツ!!」

「もういい!!お前達とっとと連れて行け!!」


 ルンベルシュルツが私の手を掴んだその瞬間、足元にペンが転がってきた。

一本また一本、その場にいた全員が注目する。


シュゥゥゥゥー

 ペン先の方から煙が噴き上がり何も見えなくなる。


「ななっなんすか!!」

「そのまま右に走れ。」


 先輩の声が聞こえたと思うと突き飛ばされる。

言われたまま右の方へ走ると煙から抜けた、目に前には麗奈さんと他の四人全員がいた。


「早くいきましょ!!ナトレ・・・覚悟しなさい。」

「ひぃぃぃ。」


 

 煙が薄れて視界が戻る。


「ゲホッッゲホ、なんだこの煙は。まあいい、女は捕まえ・・・・。」


 目の前にいるのは眠け眼を擦る青年。


「あの・・・手を離してくれませんか。」


「・・・・誰!?」

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