31.【全ては星の導き2】

 僕は気がついたら学園にいて、目の前の男性に手を掴まれていた。

目の前の男は顔を真っ赤にしながら突然僕の胸ぐらを掴んできた。


「貴様、女をどこにやった!!」

「なんのことだかさっぱり。」

「とぼけるな!!どいつもこいつも俺を舐めやがって!!」


 男が拳を振り上げようとするが、騒ぎを聞きつけた人が集まってくる。

男は悔しそうに口を食いしばると、僕を突き飛ばして校舎へと入っていく。


「何だったんだ?」


 地面に落ちている僕のペンと鞄を拾うと辺りを見回す、さっきまで本部にいたはずだったんだけど・・・。

首を傾げていると正門の方から麗奈さんが呼ぶ声が聞こえる。

とりあえず走って正門へ向かった。

門の前には麗奈さん達と知らない女性二人、更にケレスさんとエヴェサさんが立っている。


「あれ、ケレスさんにエヴェサさん。なぜここに?」

「やあ春二くん、突然申し訳ないね。実は君たちが使う予定だった宿舎なんだが・・・。

『ジエルラド帝国』の社員が知らされていた人数の倍来て、宿舎を独占してしまったんだ。」


「え!?」


「『本部』と言っても各国の鉄道社の調整役にすぎない。トラブルを大きくしないために、宿舎を使う予定だった鉄道社の方がたには別の宿泊場を用意することになった。

『霧江』の皆さんはエヴェサ代表の厚意で、代表が所有している別荘を使ってもらうことになった。」

「違いますよケレス、あの屋敷は預かっているだけです。さあ、皆様いきましょうか。」


 僕たちは馬車に乗り込みエヴェサ代表の別荘へと向かう。

ちなみにナトレ達と一緒にいた女性達は自分達の寮へと帰えっていった。



 私は春ニくんの隣で馬車に揺られていた。正面にはケレスさんとエヴェサさんがいる。

馬車は島の西へと進み、住宅街から少し離れた丘に立つ二階建ての洋館へと止まった。

屋敷は色の褪せた煉瓦で囲まれ、正門は鉄の柵で閉じられている。

馬車から降りると、ケレスさんが門を開きに行く。春ニくんは他の馬車から荷物を受け取りに行った。

私は目の見えないエヴェサさんを支えながら馬車から降りた。


「麗奈さん、今まで預かっていましたがお返しします。」

「えっ」


 エヴェサさんは懐から古い鍵を取り出した。


「あの屋敷は魔族領へ向かう道中に『賢者』が建てた屋敷です、私たちは向かう先ざきであの家を召喚しながら旅を続けていました。魔王を眠りにつかせてからも勇者と一緒にあの屋敷で暮らしていたと聞きました。」


「ということは私はあの家で生まれた・・・」


「ええ、勇者が私の元へ訪れた時におっしゃっていたわ。その後意識を失った。

気がついたら私はあの屋敷のリビングで目覚めました、屋敷全体に結界を貼られた状態で。

外に出てみれば全てが一変して、千年も時が経っていた。

あの屋敷は勇者が私の元を訪ねた後に召喚し、意識を失った私をあの屋敷と一緒に眠らせたのでしょう。」


「あの・・・って、何をされたんですか?」


「貴方にも覚えがあるはずよ、ほんの数秒目を閉じただけなのに目を開けた時には別世界。

その間にあった事は何も覚えていない、まるでぐっすり熟睡していた時のような感覚。

対象の状態を保ったまま肉体と意識を停止させる。

おそらく魔法や術の類だけど、原理も方法も謎だから便宜上『眠らせる』って呼んでるわ。」

「そんなことが可能なんですか?」

「ほぼ不可能よ、けど膨大な魔力を持った賢者なら可能かもしれない。

自然の魔素が無い現代ではほぼ不可能な魔法よ。

そんな術を使ってまでこの家を残した、おそらくは貴方のために。」


 私は目の前に立つ屋敷を見る、ここが私の生まれた家。


「ほら行きましょう。皆さんが待っていますよ。」


 エヴェサさんの手をとって中に入る。

柵から屋敷の玄関へと白い石畳が伸び、その周りには青々とした芝生と四角く整えられた生垣。

庭には花壇があり、ハーブや色とりどりの花が植えられている。

白い石造の壁に赤茶色の屋根、屋敷は横に長く二階建て。

玄関の前でナトレが疲れ切ってぐったりとしている。


「あ~麗奈さん達やっと来た~。遅いですよ~。」

「ごめんごめん、今開けるからね。」


 鍵を差し込み鍵を開ける。

玄関の先はホールになっていた。白い壁と木製の床、壁には風景画が飾られている。

石の壁に周りを見るとコの字型に二階の廊下が見える。玄関の左右には廊下があり、二階へ続く階段もある。

真正面には大きな暖炉があり、その上の壁には剣、杖が二本、斧、弓、刀、槍、曲刀の八つの武器が飾られている。

エヴェサさんが部屋の説明では、通路の左には居間とキッチン、右はトイレと浴室に倉庫。

二階は八部屋の個室と書斎があるらしい。


 ナトレと忍ちゃんがぴょんぴょん跳ねながらはしゃぎ、コルカさんはホールに飾られているものを見て目を輝かせている。


「すごいですわ!!小説の中のお家みたいですわ~!!」

「ピッカピカっすよ!!」

「これは・・・いくらするにゃろ・・・。」


「ふふ、喜んでいただけて何よりだわ。

この屋敷は掃除と管理はしていますけれどほぼ使ってないから足りないものがあったら言ってちょうだい。

それじゃあ、皆様中央都市を楽しんでくださいね。」

 

 ケレスさんとエヴェサさんが立ち去ろうとする、

するとエヴェサさんが思い出したように振り返ってナトレの方を向く。


「そういえばナトレータさんでしたか、貴方学園の広場にいたずらしたんでしたっけ?」

「い、いたずら・・・というか、その、ちょっと壊しました。」


「大丈夫ですよ。私学園の学園長もしていて、魔法学の教授でもあるの。

今魔法で元通りに直しているから安心してちょうだい。」


「「「「え?」」」」


「ちなみに、。ふふふ。」


 二人が玄関を出た瞬間に全身にヒビが入る。

驚く一行の方に振り向いて一礼すると、足から徐々に青く光る塵になって消えていく。

春ニくんがつぶやく。


「魔法って・・・すごいね。」



 『本部』宿舎の一室


「ルキレシーニ兄様、例の女を捕まえることができず申し訳ありません。」

「落ち込むんじゃないニキレシール。お前は頑張ったじゃないか、失敗は誰にでもあることだ気にするな。」


 椅子に座った男の膝に頭を乗せて甘えるもう一人の男がいた。


「そもそもあの女は消える予定だ、お前を傷つけた犬もあの忌々しい『ジエルドリコ』の姫も全員消える。

消える予定のものに動揺する必要はない。」

「兄様の方はどうですか、順調ですか?」

「ああ、裏切り者を始末すれば後は完了だ。

そちらは『月照』の方が処理するらしいからそれまでは目立たないようにするんだぞ~。」

「はい兄様。」

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