32.【大陸鉄道連盟】
あれから俺は春ニの意識に潜みながら、指令が来るのを待った。
皆で掃除をして、春ニが料理を作り、皆で笑い合いながら料理を食べている。
俺はその光景を春ニを通して眺めていた。
そういえば俺自身長い間食べ物を口にしていないことに気がついた。
なぜなら、今目の前に並べられている料理の名前も味すらも思い出せないのだから。
翌日皆で朝食をとり、麗奈先輩と春ニは本部へ、ナトレと忍さんは学園、コルカは街へと向かった。
「あの麗奈さん、僕たちこれから何しに行くんでしたっけ?」
「え、知らなかったの?」
「すみません、忘れちゃったみたいで・・・。というか、昨日の事もほとんど覚えていないというか。」
「そ、そうなの。ま、まあ船旅で疲れてるだろうからしょうがないよね~。」
先輩は目を泳がせながら話を合わせてくれたが、それで納得するのか?もう少し良い言い訳を言って欲しかったが、まあ春ニなら誤魔化せるだろう。
「今日は大陸鉄道連盟の臨時会議だよ。
ジエルラド帝国からの要請で開かれるみたい。内容はまだ分からないけど各国への提案って書いてある。」
「なるほど。」
俺は大陸諸国の情報を全て頭に入れている。
『ジエルラド帝国』は、『ジエルドニコ王国』から分裂した国だ。
数十年前、王が次代の国王を指名した際に王位継承第一位の嫡男である王子ではなく、
王位継承第二位の腹違いの弟を国王に指名した。
納得できなかった王子は自らを皇帝と称して西側領土の三分の一を領土として独立し、兵器と高い統率を持って周辺諸国を侵略して領土を拡大した。
結果、分裂前の『ジエルドニコ王国』よりも広大な領土と、大陸屈指の軍事力を手に入れた。
本部へ到着し、会議場へ入る。
天井は一面ガラス張りになっていて、大樹の葉が頭上に広がっている。
議会の中心は正方形状の大理石のステージ、それを二重の正方形で囲むように机が配置されている。
既に数社が議席についている。
二人は自社のプレートが置かれた席へ座る。外側に春ニ、内側に先輩が着席して会議が始まるのを待つ。
それから続々と会場に各国の鉄道社代表が入り席が埋まる。
最後に本部代表のエヴェサさんがケレスさんが議席に座ると会場の扉が閉じられた。
エヴェサさんの背後に座っていたケレスさんが立ち上がる。
「これより大陸鉄道連盟会議を開催いたします。尚、本議会は『ジエルラド帝国』の要請により開催しました。
それでは『ジエルラド帝国社』ルキレシーニ・ルンベルシュルツさんお願いします。」
指名された男が立ち上がり、目の前のステージ中央に立つ。
エヴェサに一礼した後こちらを向いて微笑む(先輩の方を向いて)と、手元の紙を読みながら話し始める。
かと思われたが、その紙を破り捨てる。
「皆様に提案いたします。この大陸鉄道連盟及び各国の鉄道社を我が『ジエルラド帝国社』にお預け願いたい。」
この発言に会場はざわつき、ヤジが飛ぶ。
「いきなり何を言い出す!!」「ふざけるな!!」
エヴェサさんが立ち上がり、場が静まる。
「皆さん、まずはルンベルシュルツさんの提案を聞きましょう。」
ルンベルシュルツはエヴェサの前に立ち見下ろす。
「提案・・・と書面には書きましたが。
これは本国からの要求です、帝国政府は大陸鉄道連盟に失望している。
なぜ、連盟は一つの組織で鉄道を管理せずに各国の鉄道社に管理運営を任せているのかと。
大陸の自由な往来を謳ってはいるが、違う国の鉄道社との連携なぞ面倒極まりない。
それに各国の技術力や資金力が違えば無駄な格差も生まれ、力関係も生まれる。
効率的ではない昔の体制は時代に合わない、形骸化した組織は新しくなるべきと。」
「確かに、効率的ではありません。各社間でのトラブル報告は聞いています。
しかし、これは平和を維持する活動でもあります。かつての醜い争いを未然に防ぐために、創設者たちが兵を運ぶための役割も担う鉄道の運行状況を開示して協力し合うことで今日までずっと大戦を防いできたのです。」
「平和の維持?お話になりませんな、大戦は防げても事件は防げません。
皆さんはご存じでしょう映画『鉄道に降る赤い雨』、かつて起きた事件を題材に撮影された鉄道が舞台の映画。
しかも、撮影中にも事件に巻き込まれたとか・・・痛ましい。」
レーナがこちらを見る、俺は春ニの意識を通してただ見守っていた。
ルンベルシュルツは続ける。
「皆さん、自由は守れても安全が守れていないのが現在の連盟です。
我々はあのような事件を絶対に起こさないために『ジエルラド帝国社』は帝国陸軍の指揮下に入りました。
皆様が我々の提案に頷いてくれれば今後の鉄道運行安全が保証されます。」
会場が紛糾する。
「今の発言はどういうつもりか!!」「今のは問題だぞ、本国に報告させてもらう!!」
「ええどうぞご自由にお伝えください、我が帝国が平和を願ってのご提案なのですから。
皆様の回答を待つために一週間お待ちします、おっと丁度この地の流星祭でしたね。
祭の前に良い返事が聞けることをお待ちしていますよ。
ただ、我が『ジエルラド帝国』は現在の鉄道連盟に従えませんので脱退させていただきます。それでは失礼。」
男はステージから降りると先輩の前へ来て一礼する。
「貴方には嫌な思いをさせてしまいました、ですがどうかご理解ください。」
こうして議会は終了した。
会議終了後、霧江を含めた各国の鉄道社はすぐに会社側へ電報を打とうと本部の窓口に殺到する。
それもそうだろう、議会での出来事は会社だけではなく国同士の問題に発展し得るからだ。
麗奈さんと議会の内容をまとめ、簡潔に書面をまとめるとそれを持って春二が窓口へ向かう。
「すみません、『霧江大陸鉄道社』に電報をお願いします。」
春ニは持っている文書を目の前の受付に渡す。
「『霧江大陸鉄道社』でございますね。あら、そういえば三船様宛の手紙を預かっております。
でも、差出人が不明な上に消印も押されていませんが一応お渡ししておきますね。」
すかさず体を操り、手紙を受け取る。
手紙は予想通り司令書だった、文書一通と対象の顔写真が一枚。
『ロイズ・ケルトベル 地理・歴史学教授を暗殺し、彼が隠している持つ研究資料を奪取せよ。』
写真には眼鏡をかけ、ベストとワイシャツを着た初老の男性が写っている。
今回は暗殺だ、しかも資料の奪取もある。まずは研究資料の特定と、対象の行動パターンを探る。
なるほど、だから留学させたわけだ。
手紙と写真を鞄の底に入れて隠すと意識を春ニに戻した。
カシャ
音とともに一瞬何かが光ったような気がしたが、春ニに変わった瞬間だったので位置がわからなかった。
少し疑問を持ちながも春ニの中で再び眠り始める。
◆
人混みに混ざり春ニの横を通り過ぎる。手元には軍が開発した最新鋭のカメラがある。
「さてと今回の観察は面白くなるぞ~。うっかり殺さないように気をつけないと。
役者も揃っているし、あとは待つだけだ。」
【後書き】
前回の投稿から間が空いてしまいました~!!皆様お待たせいたしました!!
今後の投稿も期間が空く事が予想されますので、どうか温かい目で見守ってくださいませ。
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