33.【魔術研究ギルド】

 

※データが一回飛びました。


 春ニ先輩達が鉄道社本部で会議に参加している一方で、私と忍ちゃんは学園にいた。

実は昨日の騒動後、学園で出会った二人と会う約束をしていた。私達に頼みたいことがあるということらしい。

学園に着くと校門で私達を待ってくれていたシアちゃんとリリアちゃんとともに、学園内に入る。


学園の廊下は人で賑わっていて、どこにいても声が聞こえる。

この学園がこんなに賑わっているのは、毎日閉校時間まで何処かの講堂で必ず講義が行われていて生徒が自分の受けたいものを受けにくるからである。逆に言えば受けたい講義がないものは自由にしていていいのだ。


 一行は学園の玄関から廊下を進み、渡り廊下を進む。

別棟に入り、幾つもの教室が並ぶ廊下を進む。


「リリアちゃん、これからどこにいくの?」

「これからギルドに行くよ~。あ、受けたい講義があるならそっち優先でいいからね。」


 私は首を横に振り、忍ちゃんは首を傾げながら答える。


「私も大丈夫なのですが・・・その『ギルド』とはなんでございますか?」

「ギルドは簡単に説明すると同好会のようなものです、剣術を学ぶギルドや料理、裁縫を学ぶギルドもございます。自分の得意なことや興味があるギルドに入って技を磨くのです。」

「ちなみに私たちは『魔術研究ギルド』。魔素を使った機会とかじゃなくて、昔の人達が使っていた魔法を再現しようとしてるの!!」

「そのようなことができるのですか!?」


 忍ちゃんが目を輝かせながら二人を見る。けれど、二人はため息をついて答える。


「それがね~、なかなかうまくいかないんだよ。

学園長みたいな魔法を使ってみたいけれど、原理も仕組みもさっぱりなんだ~。」

「まあ、詳しい話は中でしましょう。さあこちらへ。」


 廊下の突き当たりには木製のドアがあった。扉には『研究室1ー25』という札が取り付けられている。

シアさんがその扉を開けると、中には数人の男女と白衣を着た中年の男性が研究台を囲んでいた。


「ロイズ先生~!!今日はお客さんを連れてきたよ~!!」

「リリア、ケルトベル教授と呼んでくれよ。フリッス君コーヒーはまだかい?」

「ケルトベル教授、何をご覧になっているのです?」

「聞いてくれ、大発見だぞ!!昨日の広場の破壊後を調べていたらなんとドラゴンの鱗を発見したんだ!!

絶滅したはずの龍種だぞ、分析すれば生息地から推定体重、年齢も分かるはずだ!!」


 目の前の中年のおじさんが私の紅色の鱗に頬擦りをしている光景を見て背筋が凍る。


「あ、先生すみません。それ流星祭に出店しようとしている商人が売ってた偽物ですよ~。」

「本当かリリア!?なんだ偽物か、確かにこんな赤い鱗を持つ龍は文献になかったしな。」


 教授は研究台に腰を乗せてこちらに向き直ると、フリッスと呼ばれた男性からコーヒーを受け取る。


「やあ皆さん僕は『ロイズ・ケルトベル』普段は地理と歴史学で教鞭をとっている。

しかし、本業は魔術の再現への研究。ようこそ古代ロマンの学舎へ。」

「初めましてっす。私はー」

「二人のことは聞いているよ、ナトレータさんに忍さんでしょ。学園長の関係者だって教授、職員の間で噂になっているよ。」


 私たち二人は顔を見合わせる。


「そりゃあ噂になるでしょ。昨日君達が乗って行ったあの馬車列は全て学園長の魔法、加えて本部から分身を飛ばすなんてよっぽどの事だよ。だってあの方が公で魔法を使う事は研究とイベントの時くらい、あの馬車を見るのだって国賓が来た時以来だからな。」

「そんなすごい馬車だったんっすか。」


 私たちにも教授がコーヒーをすするとリリアの方を見る。


「ところでリリアとシアさん。どうしてここに二人を連れてきたんだい?」

「いい事を聞いてくれました教授!!」


 リリアは胸を張ってニンマリとした笑みを浮かべると部屋の端へ行き、布で覆われた何かを台車で推してくる。

研究台の上にそれを載せると布を取る。

 机の上には球体のあちらこちらから筒状のレンズカメラが飛び出し、地球儀の様に土台から浮いている。

土台から黒いチューブが伸び、その先端にはいくつかの魔石が入ったフラスコがついている。


「リリア様、これは・・・」

「先生の研究資料を見ながらこっそりシアと二人で作ってたんだ。

これは『幻想投影機』、自分の頭に思い浮かべた光景を周りに移すことができるの。

昔は幻影魔術っていうのがあってそれを一時的に再現できるんだよ。」

「これって大発明じゃ無いっすか!?」

「といっても今日が初の実験なんだ、せっかくだから二人にも見てもらおうと思って。」


 リリアがフラスコを両手で包み込むように持ち、シアがカーテンを閉めて部屋を暗くする。

フラスコのが青白く光り、レンズから青白い光が部屋のあちこちに飛ぶ。

光がじんわりと壁に染み入るように広がり、部屋全体を包み込む。


 やがて光が透ける様に消えて部屋に空間を生み出す。

足元には芝生が現れ、木々や草花が風に揺れている。あたりには住宅が並び、目の前に似たような家が建っている。

家の扉が開き、金髪を肩まで伸ばした可愛らしい少女がこちらに向かって走ってくる。


 私の隣を通り過ぎて走り抜ける。

振り返ると、恰幅がいい男性に抱きつく。リリアさんはその男性に近づいて手を伸ばすが、途中で見えない壁に阻まれて届かない。


「おかえりなさい、おとうさま。」

「リリア、元気だったかい?ただー」


 パリンッー 

 空間の一部が掻き消えて元の部屋に戻る。続けてレンズが割れる音が響くと完全に目の前の空間が掻き消える。

教授はコーヒーを一口啜ると装置と二人を交互に見てからニヤリと笑う。


「なるほど装置を作ったのはリリア、設計はシアさんと言ったところか。

映写機の魔素変換器を利用して投影、チューブで増幅してからこのフラスコの連結部の変換器に文献の詠唱文を書き込んだということか。君たちは素晴らしい発明をした・・・だが装置が耐えられなかった。

もちろんこうなることは分かっていたはずだ、なぜ不完全なものを私に見せた?」


 シアさんが教授の前に立つ。


「教授、彼女の父は数ヶ月前に失踪しました。彼女は本国に捜索願いを出してはいますが何の動きもありません。

ですので、国が動かざるを得ない状況を作りたいのです。流星祭でこの装置の存在を明らかにする、そして彼女に注目を浴びせて皆さんの前で父親の捜索を要請する。そうすれば、技術を独占したい国が要求を受け入れるはずですから。」

「設計者は君だろう、それこそ君の国で独占したいとは思わないのかい?」

「親友の父親を探すためならかまいません。ですが、流星祭りへの出展は教授の認可が無ければ意味がありません。

ですので、教授。彼女のために認可をいただけませんか?」

「教授お願いします!!」


 教授は少し考えると、フリッスに尋ねる。


「フリッス、一週間後の流星祭私のスケジュールは?」

「月照の研究所に向かうことになっております。」

「じゃあ完成品の出来は見られないな、残念だ。まあ頑張れよ、上には伝えておくよ。

もちろんわかっているだろうが流星祭の出展は『ギルド』に入っている者のみだ、ここにいる私の助手達は一切手を貸さないからな。」


 教授はそう言うと二人の脇を通って、扉から出ていく。

リリアとシアは顔を見合わせると抱き合う。


「やった~!!ようやく一歩前進だよシアちゃん!!」

「ええ、やりましたね。リリア。」


 その場にいた全員から自然と拍手が上がる。抱き合っていた二人が少し真剣顔をしてこちらを向く。


「遅くなったけど、二人をここ連れてきたのはこの装置を作るのに協力して欲しかったからなんだ。

『魔術研究ギルド』は私とリリアの二人だけ、一週間でこの装置を作るのは正直無理。

お願い、少しの間でいいから『魔術研究ギルド』に力を貸してください!!」


 リリアが私達に頭を下げる。


「よし!!じゃあやるっすか。二回も助けられてるんっすから手伝わないわけがないっす!!」

「私も誠意一杯お手伝いさせてもらいますわ!!」


 その後、私たちは短期間のギルド加盟手続きを行って正式な『魔術研究ギルド』の組員になった。

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大陸鉄道の死神〜【二重人格】で【一時間しか動けない】異世界諜報員は復讐のために暗躍する〜 佐渡の鹿 @SADOnoSIKA_361

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