27.【船の旅】
出発当日の朝、僕の元へ予想もしていない来客が到着した。
「春ニ様・・・その。よろしくおねがいしまふ!!」
『五ノ宮忍』さん、彼女は『三船家』から僕宛への手紙と一緒にやって来た。
女学校の代表生徒として一ヶ月間『中央国家』へと留学すること、そしてこの留学中の面倒を見させるために僕を出張させたという事らしい。
事情を聞いた後、二人で港へと向かった。
『霧江』は大陸屈指の貿易都市、港には貨物船から客船までが停泊している。
先についていたらしき四人のうち、麗奈さんがこちらに気付いて手を振る。
「あっ!!春ニくん・・・とあなたは。」
「五ノ宮 忍と申します!!皆さんよろしくお願いします。」
「あ~!!先輩のお見むぐぅぅー!!」
麗奈さんが瞬時にナトレの口を塞ぐ。
「これからよろしくね~!!私は鈴島麗奈。この子はナトレよ~。」
「はっはい!!そちらのお二人は。」
隣には酒瓶を抱えたドワーフのおじいさんとコルカさんがいた。
「あれ!!いつものおじいちゃんじゃないですか。どうしてここに。」
「聞いてよ!!このおじいさんうちの会社の技術顧問だったのよ!!
『むこう』も『つばめ』もこの人が作ったんだって!!」
「本当は『息子達』の元にいてやりたいんじゃがな~。」
「みゃ~はなんとなく。」
「はぁ・・・。まあさっそく乗りましょうか。」
僕たちが乗り込んだのは全長200m 高さ45m の最大級の客船、豪華絢爛、カジノ、酒場、ダンスホールまである。
『霧江大陸鉄道社』が保有している船で、西国へ向かう航路の補給地点がたまたま『中央都市』の『発着場』だったらしい。船の客室は二人部屋を三つ、僕とゴルドーさん、麗奈さんと忍さん、ナトレとコルカさんで分けた。
コルカさんとゴルドーさんは客室に残り、僕たち四人は船内を探索することにした。
僕たちは真っ先に、船のデッキへと向かった。
「すごい!!春ニくん!!みてみてすごい景色!!」
「先輩!!これが海ですか~!!」
はしゃぐ二人を見て微笑む、忍さんは高いところが苦手なのか僕にしがみついている。
目の前には視界の果てまで何も無い、空と海がつながっているような青の色。
その光景を見ているとー声が聞こえる。
『な、海は自由だろ。縛るものはねぇし、どこまでも進んで生きる気がするだろ。
だから __ お前も海へ行け、お前は自由なんだ。』
突然視界が揺れる、気づいたら目の前に麗奈さんの顔があった。
僕の肩を掴んで揺さぶっている。
「大変大変!!二人がいない!!」
◇
私達は今絶賛迷子中、私の後ろには忍ちゃんがいる。
心配してついて来てくれた忍ちゃんと一緒に途方に暮れている。
黙って歩き回っていたら迷子になってしまった。
そして数分前ー
「大丈夫ですナトレ様。私は今まできた道順を覚えております。」
現在ー
「ナトレ様~!!分からなくなってしまいました・・・。」
「ごめんね~!!気にしないで~元はと言えば私が悪いのよ~!!」
という感じで船の廊下の真ん中で二人して涙目になっている。
ここは一体どこなんだろうか・・・。さっきから人の気配が全然しない。
突然背後から声をかけられる。
金髪に開いているのかわからない目、妙に派手な花柄の半袖シャツに半ズボンのお兄さん?
「おやおやどうしたんだい?君達~。もしかして迷っちゃった感じかなかなかな?
飴ちゃん食べる?」
男が取り出した青い飴の入った瓶を渡してくる。
「いや~広いよね。この船は魔素変換器が旧式だからどうしても大きくなるわけ~。」
「あの~、私たちデッキまで行きたいんですけど。」
「OK了解!!それじゃあついて来てよ僕が探検ツアーのガイドみたいに君たちをデッキに案内し・・・」
男の背後からガタイが良い金髪の男と眼鏡をかけた綺麗な女性の二人が鬼の形相で走ってくる。
「「デェディー・クロースタァァァァァァァァ!!!」」
「おっと不味いぃぃっぃぃ!!二人とも走ってぇっぇ!!」
「「はいぃぃぃ」」
私は瓶を投げ捨てて男の後を走ってついていく、二人組は瓶から出た飴に足を取られて転倒する。
「君~!!なかなかやるじゃあないの、満点花丸ホームランよ!!」
廊下から、従業員用の通路、VIPの客室全てを通り抜けて走り抜ける。
一行はデッキへと辿り着くが追いかけてきた二人組に船首まで追い詰められてしまった。
「ナトレ様、どうしましょう!!もう逃げられませんわ!!」
「どうしよう!!忍ちゃん!!」
「いいかいこういう時は最後まで諦めないことが重要なんだ。」
私はここで急に冷静になる。
「あの・・・そういえば何で私たちまで一緒に逃げているんです?」
「確かに」
「ちょちょ待って、一人にしないで!!寂しい!!
あの二人は僕の大事なものを奪い取ろうとしているんだ!!」
目の前の二人が声を張り上げる。
「「あんたがとんでも無いもの持ち出したからでしょ!!」」
「とんでもないものとは何だね!!私が発明した『小型魔素固形爆薬』だぞ、私のものだ!!。
『月照』の温泉には間に合わなかったけどこれがあれば壁という壁は木端だ!!水をちょいとかければBOM!!」
慌てて追いかけて来た二人の背後へ移動する。
爆弾という言葉を聞いた乗客達は一目散に出口へと走る。
「ちょちょちょ!!あんた何考えてんすか!!ここ船、周り水!!」
「ありえませんわ!!爆発したらどうするのですか!!」
「『バサナシア』の天才が何の対策もないとでも?
瓶に入れて自ら防いでいたのだよ、常に持ち歩いて悪用されない為にね!!」
・・・・・・瓶?
「二人ともあの変人から何かもらってない!?あのバカ自分の作ったものを平気で人に渡すのよ!!
さっき君が床に落とした瓶に入ってたものよ。」
ポケットの中から先ほどもらった飴を取り出す。
「OH!!それこそ私の作り出した芸術品!!」
「えっ!!ちょっちょ、これ爆弾っすか!?」
「ナトレさま!?」
「ゆっくり渡して・・・ゆっくり。」
女性の手のひらに乗せようとする・・・。
「あ!!ナトレ!!麗奈さんいました~!!」
「先輩!!来ちゃー」
つるっ
指から爆弾が滑りデッキへと落ちて転がる。
「「「「あぁぁぁぁぁぁ!!爆弾が!!」」」」
転がった爆弾めがけて二人組が走る、船の揺れで転がって行く。
つかもうとしても右へ左へかわし、先輩の股を通り抜けてどんどん転がっていく。
どんどん手すりの方へと向かっていく、そして・・・・海へ落ち・・・・・。
「あ~!!やっと見つけっー」
ズルッ
爆弾を踏んで足を滑らす、爆弾がそのまま上へ飛び上がり放物線を描くように手すりを飛び越えようとする。
「危ない!!」
先輩が走り込み爆弾を右手で捕らえる。
そのまま倒れようとしている麗奈さんの手を左手で掴む。
「「「「あ・・・危なかった」」」」
麗奈さんを引き起こした先輩が瓶に爆弾を戻し、男は二人組に捕まって一件落着した。
もちろん勝手に歩き回った私は麗奈さんにめちゃくちゃ怒られました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます