26.【短冊と伝説】

 季節は梅雨が明けた七月。

僕は流星祭に使う竹を近くの山まで採りに来ている。


「先輩~。流星祭って何ですか?」

「ごめん僕もあんまりわからないんだ。」


 ナトレと一緒に竹をトラックの荷台へと運ぶ。


「なんだお前ら知らねえぇのか?」


 煙草を吸いながらトラックの窓から太い腕を出しているのは竹田先輩。


「いいか。この祭はな・・・・最高の祭だ。

祭り!!酒!!ロマンスが集まった最高の期間さ!!」


「これが祭の伝統だとか言いながらたかろうとしないでくださいね。」

「たくよ~。たまには奢ってよ~三船ちゃん~お金めっちゃ持ってんだろ?」

「使い道がないだけです。」


 そんな会話をしながら竹が荷台に入るように加工していく、荷台に積んでロープでとめて落ちないように見張るために僕は荷台に乗る。

ナトレは助手席に乗り、トラックは発車した。


 竹田先輩に聞いても絶対話してくれなそうだから会社に戻って先輩に聞くことにした。


「流星祭のこと?春ニくん知らなかったの?」

「ええ、行事ごとは無縁でしたので。」


 麗奈さんは机の上にある短冊の束から三枚手に取り、ナトレと僕に手渡す。


「流星祭は、はるか昔の英雄と乙女のお話。

はるか昔人々の望みを叶える英雄が一人の乙女と恋に落ちるの。

英雄は乙女と一緒に駆け落ちするのだけれども、二人を連れ戻そうする王様が軍隊を差し向けたの。

二人は逃げるために星の海を渡ろうとするの、乙女は無事に対岸に着くのだけれども英雄は流されてしまうの。

それを悲しんだ乙女と王様は英雄が戻ってこられるように木や竹に印をつけたの。

それから人々は英雄が印を辿って帰って来ることがわかるように印に願い事を書いたの。」


「どうして?」


「帰って来るときに印に書いた願いを叶えてくれるはずだから。っていうことらしいわよ。」


 ナトレは僕に手渡された二枚の短冊を凝視する。


「先輩だけずるいっすよ~。何で私は一枚なんっすか?」

「人数分よ。ちゃんと公平に、配ったわよ。」


 僕は分かった。

僕はもらった紙に願いを書き込む、紐の部分に何も書いていない短冊も一緒につける。


『兄さんが安らかに眠れますように。春ニ』


「あ~。・・・私も書こー!!麗奈さんは何って書いたんですか?」


「わ・・私!?ま・・まだ書いてない!!」

「なんか隠してますね~。」


 二人が騒いでいると会社の玄関前で竹田さんが大声を上げる。


「お~い竹ここに置くぞ~。」


 皆が短冊を持って外へと向かう。外にいる通行人にも短冊とペンを渡してちょっとしたお祭りみたいになる。


「よいしょっと!!」


 竹田先輩が会社の玄関前に一際大きい竹を立てる。

周りからは歓声が上がると、他の飾りもつけていく。


「ナトレは何って書いたの?」

「もちろん『好きな人と一緒にいられますように』ですよ!!ね~。」


 麗奈さんの肩がビクッと跳ねると男性陣の目が一斉に向く。


「おい麗奈さんの好きな人って・・・」「俺の時代かなっ・・・フッ」「この私か・・・」


 そんな感じで話していると課長が息を切らして走ってくる。


「三船!!ナトレ!!鈴島!!ちょっといいか!!」


「どうしたんです?課長。」

「すまない!!お前達三人に急な出張が入った、帝国本社からの入電だ。」


「出張先は?」


「中央中立都市『モーレタリア』。

そこで大陸鉄道連盟の会合と情報交換、後うちの技術顧問のゴルドーさんの付き添いとかだ。

会合は数日で終わるがゴルドーさんの方の仕事がだいぶ掛かる予定なんだ。」


「なるほど。」

「本国からの提案で仕事が無い間は観光してもいい。

あと本社の計らいで、留学生として学園に滞在できるようにした!!

大陸最高峰の学問を自由に学べるように配慮してくれたから自由に授業を受けてこいとのことだ。」


「「「留学!?」」」


 出張などよりも留学の件が一番驚いた、そんな事が今まであったのだろうか。

というか学校で授業なんていつぶりだろう。


「それで・・・いつ出発なんですか?」


「すまない!!二日後なんだ!!」


 突然訪れた出張の知らせは晴天に雷が落ちるかのような衝撃だった。



 深夜、大陸鉄道社前。


「・・・余計なことを。」


 目の前には春ニの書いた短冊と何も書かれていない短冊がある。


 俺は短冊を取る。


「『安らかに眠れ』・・・か。」

「書かないの?」


 背後からレーナさんが現れる、後をつけて来たことはわかっていた。


「あんたはお節介がすぎる。俺のことは放っておいてくれ。」

「嫌、はいペン。」

「書くわけないだろ。」


「じゃあ、一つ聞かせてよ。七年前の事。」


 俺が短冊を外しに来る事を見越して二枚渡したのか、この質問をするために。


「あんた・・・まぁ話してもいいが。こいつの記憶だけ話すからな。」


「え!!・・・話してくれるの?」

「この時間は誰も通らないし、聞きたく無いならいいが・・・」


 レーナ先輩が黙ったところで話し始める。


「こいつは七年前三船家で家庭教師と一緒に勉強していた、俺は留学していて月照にはいなかった。

俺が帰って来る前日に『事故』巻き込まれた俺はこいつの前から消えた。」


「実際は何が起きたの?」


 フラッシュバックする記憶。

死体の山、目の前で倒れる弟の顔。


「こいつが短冊に書いた通り、俺が死んだのさ。」


「・・・」


 自然に手を握ろうとしてくる。


「だ~か~ら。触るな!!あんたの力は厄介だ!!近寄るな!!」

「そんな言い方しなくてもいいでしょ!!ね一回だけ!!」


 本当にしつこい・・・昔の春ニみたいだ。


『兄さん兄さん!!』


 レーナさんの顔に弟に重なるように見える。俺はレーナさんのデコを軽く叩いた。


「あう!!」

「あんた最近ナトレに寄ってますよ。『先輩』の威厳みたいなのはどこにいったんです?」


「貴方とは先輩後輩じゃないし・・・。」


「ほら帰りますよ。」


 レーナさんを送り届けた後、手に持っている短冊を見る。

短冊は一枚、白紙の短冊をライターで炙る。


『学園で教授を暗殺しろ詳細は現地』


 全部仕込まれていたようだ、熱で文字が浮き出る。

相変わらず人使いが荒い、春ニが職場復帰してから一週間しか経っていないのにもう出張させる上に滞在先でもコキ使わされる。


 地図を広げて位置関係を把握する。

『中央都市モーレタリア』この世界の生物全てがこの場所から誕生したと言われている。

 大陸の中央の山脈の上空、浮遊した大地が『中央都市』である。


 都市は三つに分かれ、国際会議場や大使館がある地区『大樹』、

全世界の学者を集め、研究や最新の学問を学べる『学園』、

この世界で信仰されている宗教の本流が一堂に集まっている『祭場』になっている。


 

 北、西、東、南西、南東の五本に一直線に走る線路以外での侵入は不可能。

五本の線路に配備されている列車は、魔法によって生み出されたエルフとドワーフによるロストテクノロジー。

その列車が配備されている五つの孤島、通称『発着場』から高速に近い速度で目的地まで移動ができる。

 『霧江』から発着場まで四日、上陸の際は『中央都市』からの許可証が必要とされている。


 証拠を残せば即国際問題、最高度の防犯体制、ロストテクノロジーの守護、おまけに厄介な監視付き。

この条件下でまずは『暗殺依頼』を達成しないといけない、おそらく任務は他にもあるだろう。


 雪一は制限時間ギリギリまで装備の改造に励んだ。




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