13.【革命の乙女1】
劇場の前はたくさんの人で溢れかえっていた。
公演を見に来た女学生や便乗した商品を売る屋台、盛り上げるために楽団が劇中曲を演奏している。
「わぁ~すごいなぁ。こんなに賑やかなところに来たのは久しぶりだ。」
「そうなのですか?
公演の前はいつもこんな感じでお祭りみたいに賑やかなんですよ。」
(祭りかぁ。最後に行ったのは兄さんと孤児院から抜け出して行ったのが最後だったか・・・。)
兄に手を引かれながら田んぼ道を裸足でかける。お囃子や巫女の舞を見ながら笑い合った。
そのことは覚えているのに兄の顔は霞がかった様に思い出せない。
「それじゃあ行こうか。えっと入り口はこっちでいいのかな・・・。」
二人が入り口に向かって歩き出すと劇場から男が小走りで走ってきた。
「五ノ宮のお嬢様じゃないですか!!いつも公演を見てくださってありがとうございます。」
「これは町田さん、ご機嫌よう。」
茶髪でスーツ姿の男は揉み手で挨拶してくる。
「本日は当劇場の新作劇『フォラヌスの革命の乙女』でございます。
本日主役フォラヌス役を演じるのは当劇団の大スター
『フレーシス・マグナレット』!!
告知後には帝都の人々の話題はこの劇で持ちきりになってしまいました。
その証拠にご覧くださいこの盛況ぶり!!満員御礼でございます。
ですがいつもご贔屓にしてくださっているお嬢様にはとっておきの席をご用意いたします。
受付の者に案内させますので公演をお楽しみください~。」
そう言うと男はウキウキ顔で走り去って行く。
「町田さんはいつも私に特等席を用意してくださいますの。
他の人に悪いからと断ろうとしてもいつもあんな風に走って行ってしまうのです。」
(まぁ御令嬢様がきているんだもんな。それはサービスするよな。)
「それでは今回はご厚意に甘えて楽しみましょうか。」
「ええ、三船様。」
そのまま二人は劇場のエントランスに入る。
エントランスの天井には西国の大きなシャンデリアが吊り下げられ、床は磨き上げられたフローリングに赤いカーペットが敷かれている。壁には大きな西洋絵画や大きな花瓶、祝いの花が劇場へと向かう通路に飾られている。
「受付はこちらですわ。」
ササッー
後ろで誰かが通り過ぎたと思って振り返るも誰もいない。
(気のせいか。)
そのまま受付へ向かい客席へと案内される。
受付の近くの通路には二人の女性が隠れていた。
「どうするんですか!!先輩とあの娘の中がどんどん深まってますよ・・・・。」
(私だって隣で見たい!!)
「待ちなさい、慌てないのとにかく落ち着くのよ。例え、五ノ宮家の、ごっ、ご御令嬢が相手でも・・・大丈夫!!」
(御令嬢に負けるわけにはいかない・・・けどな~、三年間何もないし・・・ぐす。)
二人があたふたと騒いでいると後ろから声をかけられる。
「今なんて言ったの?聞き間違いでなければ五ノ宮と言わなかった?」
振り返ると美麗でカッコいい男装の麗人が立っている。
茶色いウェーブがかかった髪に、美しくどこか怪しげな薄紫色の瞳。
物語から飛び出してきた王子のように手と足に甲冑を身につけて、腰には装飾が美しいレイピア、背中には真紅のマントがたなびいている。
「え・・・えぇ。五ノ宮家の御令嬢が今劇場に入られましたけど。
男性と一緒に。」
「なるほど・・・。」
顔を見合わせる二人をよそに女性は顎に手を当てて考え込む。
二人はその目の前でヒソヒソと相談し合う。
(先輩あの人はどなたでしょう?というかここって何なんですか?)
(ここは劇場よ、で多分あの人は役者さん。あ~、歌ったり踊ったりする人よ。)
(なるほど・・・。)
麗人は決心がついたように頷くと目の前の二人の腕を掴む。
「そうと決まればまずはこの公演で意思を示すとしよう。
二人とも早く準備なさい、始まってしまいますよ。」
「「え?」」
「あなた達は新人の劇団員なのでしょう?ほら衣装の準備を始めなさい。」
二人は女性に腕を引っ張られながら通路の奥へ連れて行かれる。
二人が隠れていた通路の前には『ここから先控え室、関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます