12.【初恋と警告2】
月京の街を二人並んで歩く、周囲から見れば兄妹のように見えるだろう。
店の商品を手に取って青年に笑いかける少女の笑顔は可憐で可愛らしい。
「春ニ様!!素敵なポットがあります。あちらには可愛い髪飾りが・・・し、失礼しました。」
「ははは。確かに可愛いですね。」
通りの店を順番に見てまわり、久々の帝都を満喫する。
妹がいたらこんな感じなのだろうかと思いながらその光景を眺めていると一つのポスターに視線がうつる。
「あっ。この人帝都でも有名なんだ。」
「その人は『フレーシス・マグナレット』帝都の劇団のスターですよね。
幼い頃、海外から帝国へ移住して帝都大学を卒業したんです。
しかも劇団の創設メンバーで、帝国一の劇団を作り上げた最高の大スターです!!」
忍さんが目を輝かせながら宣伝広告を見ている。
「忍さんは華劇がお好きなんですか?」
「えぇ!!大好きですわ!!
先週拝見した『レーテオとシュリエッテの悲劇』は最高でした!!
フレーシスさんは出演していらっしゃらなかったのですが。
シュリエッテ役の岩本さんの演技が美しくて、愛してはいけない人を愛してしまった苦しみを全身で表現しているというか・・・あ、すみません。」
頬に両手を添えて顔を赤らめている。
「今なら開演に間に合いそうですし、見ていきませんか?」
「えっ!!よ・・・よろしいんですか?」
「えぇ、ほら行きましょう。始まってしまいますよ。」
二人はそのまま劇場の方へと歩いて行く。
◆
舞台の控え室 横には『フレーシス・マグナレット』と書いてある。
中には一人の女性が衣装の甲冑を震わせて新聞を食い入るように見ている。
「なっ・・・『霧江』で領主が殺された・・・」
よろよろと頭を抱えたまま椅子に座る。
「このままじゃ計画が成り立たなくなる、どうにか次の後ろ盾を・・・」
控え室のドアが二回ノックされる。劇場のスタッフが入ってくる。
「フレーシスさん差し入れと、一通手紙が来ております。」
「受け取るわ。あと、公演開始まではここへ誰も近づけさせないで。」
スタッフが出て行った後に手紙の封を開ける。
『フレーシス・マグナレット殿
貴殿の胸中をお察しする。
我々は貴方の行動を以前から監視しておりました。
次は我々の元でその手腕を振るってもらいたい。
我々を信用せずともよろしいが、くれぐれも用心した方が良い。
五ノ宮』
『五ノ宮』確か帝国の貿易商社の社長か。
私達の行動を知っていたことと文脈から背後には結構な組織がついているのか。
個人的な申し出というより、おそらく帝国の諜報局からの申し出なのか。
差し入れに手を伸ばす。
ラッピングから帝都の和菓子であることがわかる。
中は多少の重量感を感じるが軽い。
箱に手を伸ばすー
『くれぐれも用心した方が良い。』
箱を持ち上げて見回す。
見ると一辺の溝に針がついている、自然に開けようとすれば必ず刺さるだろう。
おそらく毒物の類が仕込まれている。
差し入れをくずカゴに投げ入れて手紙を見る。
「これは警告なのか。それとも脅しなのか。だが・・・申し出に応じなければ状況は変わらない・・・クソッ!!」
部屋には机に拳を叩きつける音だけが虚しく響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます