11.【初恋と警告1】

 私はこれから将来の旦那様になるかも知れない人に会いにいく。

車の窓を流れる月京の街を見ながら将来のことを考える。


「いいかい『しのぶ』、今日会う人は三船春ニさんだ。三船家の三男で年は17歳だ、優しくて穏やかな人らしい。

お父さんは三船さんともっと仲良くなりたいんだ。わかるね。」


「・・・わかった。」


 私はこれからお見合いをする。

今の時代は結婚相手をお見合いで決めるのが主流だから仕方ないかも知れないけれど、

小説みたいな恋愛の果てに行き着く結婚もしてみたかった。


 自分の叶わない願望と家のためにという意思が頭の中で渦巻く。

目的地に近づく程それらの感情よりも不安の方が大きくなっていった。


(相手はどんな人なんだろう・・・歳が離れた怖いおじいさん?

筋骨隆々の軍人さんとか、西国風な商人さんとかかしら。

優しい方かしら、でも男は怖い狼なんだって学校のみんなが言ってたし・・・不安だわ。)

 

 一軒の邸宅の前に停まる。

外観は西国の島国の家のように白い壁になっていて屋根も生垣も西国のような造りになっている。

玄関も絵葉書に載っていた西国の建物のものと同じ、けれど表札や敷居などがあって帝国と西国の文化が混ざっている。


「ほら行くよ、忍。」


 車から降りて父様の脇に立つ。

三船邸の客間に通されるとそこには三人の男性がいた。

一人は短い茶髪混じりの髪で恰幅がいい男性。白髪の執事、もう一人は・・・


「ようこそ五ノ宮さん。私が『三船國男みふねくにお』です、そしてこちらが三男の『三船春ニ』です。」


「初めまして、『三船春ニ』と申します。」


 すらっとした少しだけ儚げな男性が立っていた。優しい春みたいな笑顔を向けてくる。


「どうも、初めまして。私は『五ノ宮ごのみや 和義かずよし』と申します。こちらは娘の忍です。」


「し・・・『しのぶ』と申します。」



 國男さん達は客間で何かを話し合うつもりらしく、僕たちは二人で庭を散歩することになった。

なんだか怖がられているみたいで全然顔を合わせてくれない。

正直気まずい・・・話題が浮かばない。


「あの・・・忍さんは学生ですか?」

「はっ、はい・・帝国女学校の二年です!!」


 目が合うとすぐに逸されてしまう。

 忍さんは丸くて水晶のように綺麗な瞳、艶やかな黒髪、前髪はほぼ直線状に切られ、後ろ髪は肩辺りまで長さで内側に少し丸るように流れている。

左耳の辺りにある、濃い緑の生地のリボンの上に濃い紅色のリボンが重なったような髪飾りが印象的だ。

薄桃色の着物にはところどころに梅や桜の模様が描かれ、薄緑色の帯の上から少し薄い紅の帯が重なっている。


 長い間『ウォーレン』にいたから流行りの物とか何にもわからないし。

(まぁあちらからしたら今回の縁談はガッカリだっただろうなぁ。

五ノ宮さんは三船家と繋がりを持ちたいと思っているんだろうけど・・・僕は元々この家の人間ではないし。)


 そう考えながらチラリと屋敷を見る。


(まぁあちら今回の縁談はおそらくなかったことになるだろうなぁ。

久しぶりの帝都だし、ここで気まずい思いをするよりは街で観光したほうがいいかな。)


「あの忍さん、庭を見るのも退屈でしょう?街へ行きませんか?」

「街・・・ですか。でもお父様達が・・・。」

「大丈夫ですよ。私がついていますから。」


 

 月京駅から少し歩き小売店などが並んだ通りをは歩く。

ショーウィンドウには帝国で流行っているであろう西国風のワンピースや髪飾り、きらびやかなアクセサリー、

美しくも気品溢れる着物などが飾られている。


「もうどうするんですか~!!いないっすよ~麗奈先輩~!!」


「いい落ち着くの。あっこれ可愛い!!・・・・・コホン。」


 街の店を一件一件覗いていく二人の女性は右へ左へと目を輝かせながら進んでいく。

当初の目的を忘れかけては思い出し、大量に買った商品が入った手提げ袋を抱えている。


「私達買い物に来たんじゃないですよ~。どうします!?もし今お見合い相手といい感じになっていたら!!」

(あ~もう今すぐ飛んで春ニ先輩を攫っていきたい!!けど麗奈先輩がいないと帰れないし~。)


「大丈夫よ!!あの春ニくんよ奥手すぎる男よ!!」

(大丈夫!!鈍感な春ニくんは何をしてもいつものおっとり顔を見せるだけなんだし、

そもそも私のことをなんとも思ってないとか?・・・考えないようにしよう。)


春ニを探したい気持ちと周りに溢れる誘惑の数々の間で葛藤を繰り返している。


「あ~!!あの車見てください。今出てきたの春二君じゃないですか!?」

「シーッ、声が大きい。隣にいるのは・・・女の子。どこかの名家のお嬢様かな。綺麗な着物・・・・」


 突然、二人揃って電柱に隠れる。

二人の視線の先には、いつもの制服とは違う茶色のスーツで額が出るように髪を上げている青年。

その横には真珠みたいに目を輝かせながら男を見つめるどこかのお嬢様、青年を見つめては頬を赤らめている。


「あ~ぁぁ。あれ絶対おちましたよ。あの目は間違い無いですよ。」

「春二くんって結構美形なのよね。いつも制服だからあんまりわからなかったけど・・・。」


 二人の後をバレないようにこっそりとついて行く、二人の姿は周囲の人々の視線を集めた。

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