10.【久方の夢】
『霧江日報』
グラー伯爵邸が突如炎上し、『ウォーレン王国』王宮部隊が後処理のために動いた。
生存者は確認されておらず、グラー本人も死亡。
火災発生の原因は未だ判明していない。
尚、グラーが人身売買に関わっていたことが連合王国に発覚したため一家は伯爵の地位を剥奪。
次の領主就任まで『霧江』周辺の『
会社にいつも通り出社して、僕は自分の机で今朝の新聞を読んでいる。
領主の家が炎上したのは一週間前のことで、情報が操作されているのは明白だ。
新聞を読む僕の肩に手を置いてナトレータさんが覗き込んでくる。
「せんぱ~い、頭は痛くないっすか~。」
「だっ大丈夫。ナトレータさん近いよ。」
「ナトレって呼んでください。せ・ん・ぱ・い。」
領主邸が炎上してから一週間がたった。なぜか事件のことはよく覚えていないけど・・・
でもなぜかわからないけどナトレとはすごく仲が良くなった。
・・・なぜあの日一緒のベットで寝ていたかはわからないけど。
というかあの日のことを尋ねても頬を染めてはぐらかされるし、僕は一体何をしたんだ!?
ナトレは龍人であることを隠さなくなったため、尻尾を僕に絡ませて逃がさない。
「ナトレータさん。春ニくんが困ってるから話しなさい。まだ怪我も残ってるかもしれないし。」
麗奈さんが尻尾を剥がしながらナトレに笑いかける・・・その目は笑ってない。
最近、麗奈さんを見るとぷぃって感じでそっぽ向かれるし俺は一体なにをしたんだ!?
「そうなんですか!!じゃあ私がもっと看病しなきゃですね。」
麗奈さんとナトレの間に何か雷みたいなものが見える。
だがそんなやりとりは唐突に終わることになった。
ジリリリリリリッィィィ
僕の机の電話が鳴る。
「はいこちら『霧江大陸鉄道会社』三船でございます。お久しぶりでございます。
はい・・・はい了解いたしました。」
チィーン
「先輩どなたからのお電話だったんですか?」
「え・・・とその、『月照帝国』の義父からの電話だったよ。ちょっと帰らないといけなくなった。」
「へぇ~。でも急ね。」
「その・・・なんというか。会ってほしい人がいる的な・・・・つまり」
「「つまり?」」
「お見合いをすることになりました。」
二人はそのまま固まって動けなくなっていた。
◆
僕は休暇という形で『月照帝国』帝都
駅の改札から出て辺りを見回す。
久々に見る街は以前よりも目新しいものが増えていた。華劇というものの宣伝の張り紙や、馬車が減って車をよく見るようになった。僕は行ったことが無いがデパートで買い物をする婦人達が増えているらしいし、動く階段なんてものまであるそうだ。
懐かしくも新鮮な帝都で一番変わったのは空に大きな鯨が飛んでいることだった。
飛行船というらしい、空を泳ぐようにして巨大な船体が浮かんでいる。
「春ニ様お迎えにあがりました。」
いつの間にか目の前に黒塗りの車が止まっていて、僕の目の前に白髪に近いグレーの七三分けの髪型をした紳士が立っている。
「坂本さんお久しぶりです。様なんてよしてください私は養子なんですから。」
「いえ、あなたは立派な三船家の一員ですもの。さあ参りましょう。」
僕を出迎えてくれたのはいつもパキッとした燕尾服を着ている坂本さん、三船家の執事をしている。
僕が三船家に滞在している時にお世話してくれた人である。
僕は坂本さんが運転する車に乗ろうとした・・・
その瞬間に意識を失った。
「随分荒っぽい起こし方になったな。」
雪一のみぞおちから坂本が手を離す。小声で話してくる。
「ああ。でもこれぐらいじゃないと起きなくなったんじゃないか?」
「まぁ、そうだな。続きは車で話そう、後ろでこっそりつけてきている奴等がいるんでな。」
後ろを振り返ると駅の入り口付近から白い髪のハーフエルフと赤い髪の女性が出てくる。
「お友達ですかな。」
「弟のな。」
雪一は車に乗り込むとカバンから二枚の写真を取り出す。
「今回の任務は今までのよりは断然素敵だ。二人の女性をエスコートしろなんて男名利に尽きるだろ。」
「ご武運をお祈りしておりますぞ。我が息子よ。」
雪一が乗り込むと坂本は車のエンジンをかけて前進させる。
発進した車の中で雪一が手にしていたのはまだ少し幼さの残る少女と、華やかな衣装に身を包んだ女性だった。
「今回は護衛っていうことでいいんだな。この見合いも隠れ蓑にすればいいのか?」
「いや、見合いについてはあちらが本気で申し込んでいる。
一応考えておいてもらいたい、まぁこの縁談がどうなろうと家としてはなにも問題はない。
それに今回は縁談が目的じゃないからな。」
「相手は確か商船会社だったか。
政府の監視の目をそらすための縁談ということか?
なにを買うつもりだ・・・あいつの命令だろ。それにもう一人の護衛対象は華劇の女優だったか。
『ウォーレン』でも名前を聞く程の有名人じゃあないか。」
「いずれわかる。だが今のお前には関係がないだろう。
そんなことよりも早く寝たほうがいい、時間を残さないと任務に支障をきたす。」
「ふん・・・まぁいいか。少し気分がいい。」
車の窓から飛行船を見ながらゆっくりまぶたを閉じる。
夢を見ることはできない体だけれど、久しぶりにまぶたを閉じる一瞬だけ頭上を鯨が飛んでいる夢を見た。
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